第30話:雨と二日酔い
――――――――――一一日目。
「ふんふーん。ありゃ、まだ干し肉が随分固いや。もう少し時間かかりそうだから、待っててね」
ドーラは比較的雨が少ないのですが、今日は雨です。
畑仕事がお休みなため、ユー様が御飯を用意してくれています。
ちなみにアトムは二日酔いで起きてきません。
「クララは本でも読んでなさい。ためになりそーなこと書いてあったら教えてね」
「はい」
雨の日は退屈です。
お掃除の日にイシンバエワさんにいただいた本を読んでいます。
「もらった本は全てこちらの世界で書かれた本でした」
「そーだったか。向こうの世界の文化を知れたらいいなと思ったけど、まーいーや。今後に楽しみが残ったと思えば」
ユー様はさほど残念そうでもない。
前向きだなあ。
「いずれも興味深い内容ではありますが、イシンバエワさんの身元に関係するようなことは、ほとんど書かれてないです」
「ん? ほとんど、ということは、少しは手掛かりあったの?」
「手掛かりと言えるかどうかは……」
ユー様が身を乗り出してきます。
「『亜人の習俗』という本の中に『赤眼族』の項があったんです」
「赤眼族? あっ!」
イシンバエワさんの世界の人は皆赤い瞳だそうです。
赤眼族と関係あるのでしょうか?
「このページに少しだけ」
赤眼族は神に反逆し、追放されし部族なり。
赤き瞳具え、性酷薄にして猜疑心強し。
他部族と馴れ合わず、戦う様苛烈たり。
「ふーん?」
「ユー様はどう思われます?」
「バエちゃんに当てはまるのは、目の色だけだよねえ」
「記述との相似性としては、はい」
「『神に反逆し、追放されし部族』なのに、聖職者がいるのも何だかしっくり来ないかな。関係なさそうに思えるけど……」
確かにあんなおっとりとしたイシンバエワさんが『性酷薄にして猜疑心強し』などとは、とても考えられないです。
「ええ。でも他部族と接触しないから、独自の文化なり技術なりが発達した、ってことはあり得るのかなと」
「そーゆー考え方もあるか。クララは賢いな」
ユー様は思うところあるようですけれども?
「ま、これ以上は材料ないから、考えてもしょうがないね。っていうかクララ、あんたまさか、もうあの本全部読んじゃったの?」
「いいえ、灰の民の村の図書室に置いてきた『魔法スキル大全』以外は、ざっと流し読みしただけですよ。どれも村の図書室になかった本なので、時間あるときにじっくり読みます」
「クララは勉強家だなあ。あたしにとって本は睡眠薬兼枕としか思えないのに」
アハハ、ユー様ったら。
「バエちゃんって、かなり愉快な人だと思わない?」
「ええ。アトムとも相性よかったじゃないですか」
「精霊親和性の高い人をチュートリアルルームに配置してくれてたってのは、ビックリしたけどありがたいわ。バエちゃんがチュートリアルルームの係員だとあたし達にも都合がいいから、バエちゃんのためにもいい成績を上げてやろうじゃないか」
「青い盾を後輩の冒険者にあげたのも、引き上げたい考えがあってのことですか?」
「いや、バエちゃんのことまでは考えてなかったけど」
でもあれほどの逸品を無償で譲ったくらいです。
その新人冒険者に何らかの思いがあったんでしょう。
ざくざくざく、野草を刻みながらユー様が声をかけてきます。
「かれえの日に思ったんだけどさあ。バエちゃんとこにあった冷蔵庫はいいねえ。お肉をしばらく取っておけるよ」
冷蔵庫は、魔力冷却効率のいい『氷晶石』という素材を用いた箱型の冷却装置で、一度魔力を補充すると一〇日くらいは低温が維持されるそうです。
もっともイシンバエワさんは魔力の補充を忘れ、機能していなかったようですけど。
「ユー様、あれほど手軽なものはムリですが、氷系の魔法を使えるようになると、『氷晶石』はなくとも氷室を作ることはできますよ」
つまり、熱を通しにくい地下に穴を掘って貯蔵庫とします。
同時に水を張って定期的に凍らせれば、低い温度を維持できます。
もし『氷晶石』を手に入れることができるなら、もっとずっと簡単なのですけれども。
「氷系魔法かあ。将来使えるようになると役立つな。そうだ、クララは風魔法も順次習得できるんだね。白魔法を使えるのは知ってたけど」
私も知りませんでした。
自分の適性は、白魔法だけだと思ってましたから。
冒険者パーティーとして考えると、アトムが前衛盾役、ユー様が前衛のスピードアタッカーで、私は後衛のヒーラーという役どころなのでしょう。
私の後衛からの魔法攻撃がどれほど必要かという問題は、今後経験とともに解決していかなければならないです。
回復用のマジックポイントを節約するために、攻撃魔法は控えるべきという考え方もありますから。
臨機応変の判断力を必要とされそうですね。
あれ? 考えてみれば……。
「イシンバエワさんが提供してくれたパワーカード、どうして『スラッシュ』と『火の杖』だったんでしょうか?」
「クララと一緒に活動することがわかってたみたいだからね。物理と魔法、前衛と後衛のバランス考えて、シスター・テレサにこれもらってきてって頼んだんじゃないかな」
譲渡交渉した上司がテレサさんだって、決めつけてますけれども。
「私達にどのカードが欲しいか、選択させるという手段はなかったのですかね……?」
「いきなり現物を見せて、勢いで冒険者になることを決めさせたかったんでしょ」
ユー様は鋭い。
私の考えることなど、既に気付いているのです。
「でもさ、選べるなら投擲系の武器が欲しかったなー。投擲系のパワーカードがあるかは知らんけど。小動物や鳥を狩りやすいもんね。『プチファイア』じゃお肉が焦げちゃうし、火事が心配だよ」
ユー様が近接系、私が投擲系ならバランスは取れる。
少なくとも序盤は『火の杖』よりもメリットが大きいように思えます。
やはりユー様も同じことを思っていて、でもイシンバエワさんを責めたりしないんだな。
「いつかバエちゃんに文句言ってアワアワさせてやろ」
……とってもユー様らしいです。
「よーし、できたぞー。干し肉野草入り麦粥と茹でジャガでーす。あったかい内に食べよ」
「アトム起こしてきますね」
「あの寝坊助が。もう絶対にお酒飲ません」
地水火風の恵みに感謝し、いただきます。
ユーラシアは身内に甘いので、今後もアトムの飲酒を許しちゃいます。




