第299話:従業員レベリング終了
「再び美少女精霊使いとその他大勢参上! オニオンさんこんにちはー」
「ハハッ、いらっしゃいませ」
午後もまた魔境にやって来た。
今度の三人はある程度魔物を追い払った経験とかはあるようだ。
と言ってもあたしの見立てによれば、レベル二~四くらいだと思う。
レベル上げする立場に立ってみると、レベル一だろうが五だろうが誤差の範囲だ。
しかし戦闘経験のあるなしとゆーのは、精神的な落ち着きに関係してくるんだよな。
今度の三人は腹が据わってる感じなので、魔境連れてきても比較的安心だ。
やりやすい。
「さて、午後はお前達の訓練を行う。まあユーラシアに任せときゃいい」
「戦闘経験はあるかもしれないけど、魔境の魔物はレベルが違うよ。危ないから勝手なことはしないでね」
「余計なことはしないで防御だけしてろ」
「「「はい!」」」
午前中の三人から話を聞いてるんだろう。
期待に満ちたキラッキラの目で見てくる。
魔法やバトルスキルを覚えられるかもしれないとなれば、テンション上がるわなあ。
いや、戦闘経験があるなら、レベルが上がること自体の嬉しさも知っているかもしれない。
オニオンさんもニコニコしてるし、とてもいい雰囲気だ。
「夜は鍋だぜ」
「たーのしみだなー」
あたしの楽しみだけ方向性が違うって?
細けえことはいーんだよ。
ユーラシア隊及びダン一行出撃。
◇
「リフレッシュ! 皆、大丈夫?」
「全然! へっちゃらですよ」
レッドドラゴンに後方上空から急襲されて全体攻撃『カースドウインド』を食らい、従業員達がダメージを受けるハプニングが発生。
が、既にレベルが上がってたのでどうということはなかった。
皆さんナイスガードでした。
目の前でドラゴンが倒れる様子を見て興奮してたくらいだ。
「おい、ドラゴンはえらく攻撃的じゃねえか」
「ドラゴン帯は魔物密度高いし、ドラゴンは特に荒っぽいね」
午前中と同じく、全員のレベルが四〇を超えたところでレベリングを終えた。
ダンのレベルもいくつか上がってるんじゃないかな。
さて、ギルドで固有能力を確認するか。
◇
「やたっ『威厳』だ! 最高だ!」
「カイル、お前が『威厳』の固有能力持ちでよかったぜ」
「そ、そうですか?」
カイルと呼ばれた壮年の男は、『オーランファーム』の番頭格のようだ。
自分が魔法もバトルスキルも習得できなかったことにガッカリしているようだったけど、戦わずして優位に立てるこの手の固有能力はすごく有用なんだぞ?
『オーランファーム』でも番頭格の人が『威厳』持ちなのは、戦闘だけじゃなくて業務でも都合がいいだろ。
「『威厳』は自分よりレベルの低い相手に対してすごく効くんだよ」
「レベル四〇以上のやつなんて滅多にいねえ。お前がいりゃ安心ってことだ」
「若……」
おーおー感動してるぞ。
「隊を二つに分ける時は、カイルさんに片方任せりゃいいねえ」
「おう、戦術の幅が広がるぜ」
カイルさん以外の二人の固有能力は、それぞれ『土魔法』と『道化』だった。
『道化』は敵の集中力を落とすという能力で、スキルも覚えている。
固有能力っていろんなのがあるんだなあ。
「よし、カイル以外の二人は農場に帰ってろ。俺達はギルドに用がある」
「「はい!」」
ヴィルを呼んで食堂に場を移す。
ヴィルは今日、従業員達の揺れ動く感情の波に揺られてつらかったかもしれないね。
ぎゅっとしてやる。
「ダン、どーも従業員さん達の間で、スキル覚えたほうが偉いみたいな風潮あるっぽい気がする。午前中の沈黙無効の人、フォローしといてね」
「おう、わかったぜ」
スキルは覚えてりゃ覚えてるで有用なのは確か。
でも使い勝手がいいかとか場に即してるかとかは案外難しいもんだしな?
特に便利な汎用スキルは、スクロールになって売ってるってこともあるしな?
一部の超有用なレアスキル以外、スキルを習得してるからどうだってのはあんまりピンと来ない。
むしろ魔法は覚えていなくとも、『饒舌』持ちは魔法力のパラメーターが高い人だった。
魔法さえ覚えさせればかなり強力なんじゃないか。
さてと、頭を寄せて内緒話モード発動。
「カイルさんを残した理由は何となくわかるけど」
「お察しの通りだ。カイルには戦争のことを知っていてもらいたい」
「戦争?」
カイルさんの声が緊張を帯びる。
「帝国と戦争になる。ドーラの視点から言やあ独立戦争だ。レイノスで砲撃戦がメインだが、帝国にはレイノス港以外でも上陸する手段があり、遊撃隊によるゲリラ活動が予想される。レイノスに多くの食料納めてるうちの農場が攻撃対象になる可能性はかなり高い。わかったか?」
「だから若は……」
ニヤッと笑ってカイルさんの肩を叩くダン。
「秘密だぞ? 親父にもまだ言ってねえんだ。俺がいない時に不測の事態があった場合は、お前が指揮を取れ」
黙って頷くカイルさん。
「戦争を回避できる手段はないわけですね」
「ない」
「いつ頃……になるのでしょうか?」
「最短で一ヶ月だよ」
「おい、聞いてねえぞ!」
ダンが眉を顰める。
「あたしもこれ、パラキアスさんにしか報告してないんだ。ちょっと根拠が薄くて」
「いいから話せよ」
「ピンクマンといた時に話してた、帝国の隠し玉の話覚えてる?」
「ああ、ドーラに大きなダメージを与え得る兵器ってやつだな?」
「そうそう。試作機が一ヶ月で完成するって」
「またあんたの謎情報源かよ」
ダンは何か考えている。
「試作機……乗り物か?」
「いや、試作機とは言われたけど、正体がわかんないんだよね。どーも帝国でも結構な機密みたいで」
「『黒き先導者』の情報網にも引っかかってこねえんだな? じゃあ考えても仕方ねえ。なるべく早くうちのやつらを仕上げとかねえと」
うむ、建設的な考え方だ。
一ヶ月ってわかってりゃ、ダンも間に合わせるだろ。
「カイル、俺からも言っとくが、今日レベル上げした連中に自分の能力をひけらかすのはやめろと厳命しておけ。それから従業員全員に、防備体制について口外することを禁ずる。手の内晒すのは隙を作るのと一緒だ」
「はっ!」
「ところでユーラシア、あんたどうしてレベル四〇を目安にしたんだ? 中級冒険者目処なら一五~二〇、上級冒険者でも三〇だろうに」
今日のレベリングのことか。
これこそカンとしか言いようがないんだが。




