第297話:訓練開始!
「ダンに持ち上げられると、何か魂胆があるような気がするんだけど?」
「まあそう言うな。こういうことには形式も緊張感も必要なんだ。たまに褒められて気分良かったろ?」
急に砕けた雰囲気になったことで戸惑う、ダンの実家『オーランファーム』の従業員達。
要するにダンが従業員達を緊張させたのは、遊びじゃねえんだぞということの周知だったのだろう。
続けてあたしがお気楽にカットインすることは、肩の力を抜けリラックスしてろということのサインだ。
ダンはなかなかやるわ。
……ある程度従業員を混乱させることで、ガタガタ文句言わせず速やかに魔境ツアーに御案内する意図もあると思われる。
ダンも悪いやつだなあ。
あたしも面倒なことは嫌いで、とっとと仕事を終わらせたいから文句は言わんけど。
ふよふよ飛んでいるヴィルを指してダンが言う。
「ちなみにこいつはユーラシアの連れてる高位魔族だ。こんななりだが気をつけろよ? 俺も危うく塵にされかけたことがある」
従業員達は悪魔を前にして困惑してるようだが、あたしは笑いが込み上げてきてしょうがない。
確かにヴィルとダンが初対面の時、塵にしちゃいなさいとは言ったが、あれは単なる冗談だったじゃん。
ダンはペースを握るのにもう少し隠し味をと、ヴィルを話題に出したんだろう。
十分だってばよ。
ダンと視線を交わし、頷き合う。
「ダンに御飯を奢ってもらえると言われて、のこのこついて来ましたユーラシアでーす。悪魔ヴィルは基本的にすごくいい子ですので、あたしが塵にしろと命令しない限り危険はありません。ひょーっとしてこの農場に緊急の連絡がある場合、この子を飛ばすことがあるかも知れませんので、一応覚えておいてください」
「よろしくお願いしますぬ!」
よしよし、ヴィルはいい子だね。
「さて、仕事にかかりますよー。あなたとあなた、あなた、あなた、それからそっちの隅の二人、残って下さい」
ダンが頷く。
「固有能力持ちは六人か」
「妥当な数だね」
「よし、今指名された者以外は仕事に戻ってくれ」
理解できぬままぞろぞろと戻っていく従業員達。
残された者も一様に不安な表情を浮かべている。
一人の女性が恐る恐る言う。
「あの、ダナリウス様。あたくし戦闘担当なんてとてもとても……」
「お、オレも全然自信なんてないです。身体も小さいし……』
「と、思うでしょ?」
どうやら自分が固有能力持ちであることを自覚している者は一人もいないらしい。
魔法系っぽいかな、と思われる人もいるんだけど、魔法使えるようになんなきゃわかんないか。
やっぱ自分の固有能力は把握しとくべきだと思う。
カトマスみたいな、成人になった時に固有能力を鑑定するシステムはいいと思うけどなあ。
「お前達六人には自分でも気付いてない力があるんだよ。騙されたと思って二時間ほど訓練に参加しろ」
選ばれた六人の中でも随分態度に差があるもんだなあ。
堂々としてる人は大丈夫だと思うから……。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさんこんにちはー」
「ペコロスさん、よろしくな」
「いらっしゃいませ。今日はダンさんのパーティーも一緒ですか?」
あたしが選んだ六人の内、まず戦闘には全然自信がないという三人を魔境に連れて来た。
当然パワーレベリング目的だ。
おそらく三人ともレベル一。
「俺のパーティーか。似たようなもんだ。全員うちの農場の従業員なんだけどな。ユーラシア式魔境ツアーに連れてきた」
オニオンさんも素人のレベル上げと察したらしい。
オニオンさんはまだ戦争については何も知らないはずだ。
いずれ知らせといてもいいが……。
「ようこそ魔境へ。ユーラシアさんがついているとは言え、魔境は危険のない場所ではありません。単独行動は控えてくださいね」
魔境と聞いて脅えたような声を出した者もいたが、オニオンさんの落ち着いた物言いに少し安心したようだ。
助かるなあ。
パニック起こされると困るもんな。
「素材と黄金皇珠以上の魔宝玉出たらもらっていい?」
「ん? いや、俺はいらないぜ」
「そうも言ってられないでしょ、皆さんの装備だって必要なんだから」
レベル上げはあたしが引き受けるけど、レベルだけで鍛えられた帝国兵と戦えるわけじゃない。
装備を整えることと、戦闘時の立ち回りを覚えることは必要なのだ。
ダンの仕事となる。
「サービスがいいな」
「あたしはいつもサービス精神旺盛だよ。でもしっかりがっつり奢られるぞ?」
「うちの農場で取れた肉と野菜たっぷりを昼と夜だ」
「すっごく楽しみだなー」
『オーランファーム』産の農産物はレイノスに売ってるみたいだからな。
味とかクオリティとかも知りたいもんだ。
ユーラシア隊及びダン一行出撃。
「早速おいでなすったじゃねえか」
「オーガだよ。皆さんはダンの後ろに隠れててね。絶対に騒いだりしないように」
『実りある経験』をかけてからの『ハヤブサ斬り・改』×二で楽勝。
「リフレッシュ! どうだったかな? 初めての戦闘経験としては」
オーガも踊る人形くらいの経験値はあるから、低レベル者ならいくつかレベルが上がるだろ。
不意に叫び声が上がる。
一番自信なさそうだった女性だ。
「あっ、あたくし魔法覚えました!」
「よかったねえ」
「何を覚えた?」
「ええと、『ヒール』と『キュア』です」
「やたっ、『白魔法』持ちだ! おめでとう、大当たりだよ!」
「固有能力は数あれど、仲間を癒すことのできる能力は貴重なんだぜ?」
「あたくしが魔法……」
まだ信じられないようだけど現実だよ。
「残りの二人も何かの能力持ちなのは確実だから。皆で頑張ろうね」
「「「はい!」」」
ハハッ、テンションが上がってる内に危なそーな、もとい経験値効率のいい場所に連れていってしまえ。
デカダンス他を倒しまくり、レベルが四〇を超えたところでベースキャンプに戻った。
「お帰りなさいませ。おや、皆さんいい表情になりましたねえ」
「魔境の楽しさがわかってもらえたようで嬉しいよ!」
おかしいな?
全員が『魔境の楽しさ?』って顔してるがどういうことだ?
魔境ツアー添乗員としては不安になるんだが。
「オニオンさん、さよなら。あとでもう一度、違うメンバー連れてくるから」
「はい、お待ちしてます」
転送魔法陣からギルドへ飛ぶ。




