第296話:『オーランファーム』
「ダンっていつもギルドまで歩いてくるじゃん?」
「まあな」
「だからレイノスの人だと思ってたんだよ」
「おお、俺がシティーボーイに見えたのか」
「……改めて言われると見えないな。何であたしはダンがレイノス人と勘違いしたんだろ?」
ギルドを出てレイノスとは逆方向にテクテク歩く。
西へ一〇分ほど歩いたところにある大きな農場『オーランファーム』。
ダンってこんなデカい農家の子だったんだ。
「あんたボンボンなんじゃん。どうして冒険者なんかやってんの?」
「冒険者っていうか、情報屋のつもりだったんだけどな」
『早耳のダン』と名乗ってたんだったか?
ダン以外から聞いたことないけど。
レベル五〇近いゴシップ屋かよ。
レベルのムダ遣いだな。
「そんなダンも、いつしか立派な『アトラスの冒険者』になったのでした」
「自分でビックリだったぜ」
「あたしもビックリだわ。でも嬉しかったでしょ?」
「まあな。ユーラシアは『アトラスの冒険者』になれた時どうだったんだよ?」
どう言われても。
「あたしは『アトラスの冒険者』なんて知らなかったもん。いきなり庭に転送魔法陣作られて何かと思ったわ。チュートリアルルーム行ったのも、損害賠償を請求するためだったわ」
「ハハッ、あんたらしいな」
「クララなんかウシ飼うの楽しみにしてたのに、転送魔法陣で場所が潰れちゃったわ。泣き喚いてたぞ? 可哀そうに」
泣き喚いてはいませんよって顔をクララがしてるけど、知ってるわ。
ウシはいつか飼おうね。
「ダンは『アトラスの冒険者』を昔から知ってたんだよね?」
「まあギルドにも食糧卸してるしな。昔から繋がりはあるんだ」
「へー、あんた自分のこと全然話さないから知らなかったよ」
「一度も聞かなかったじゃねえかよ。ちょっとは興味湧いたか?」
「いや、湧かないけど」
「湧かないぬ」
ちなみにヴィルはふよふよ飛びながらついて来ている。
「で、あたしは何をすれば御飯を食べさせてもらえるの?」
「この前、戦争になったら帝国のゲリラ部隊が上陸するという予想があったろ? うちはレイノスと農作物を取り引きしてる農場としては最も規模が大きいんだ。まあ襲撃対象になると考えなきゃならんだろ?」
「おお、ダンにしてはしっかりした識見だね。ちょっとだけ見直したよ」
「遠慮すんな、大々的に見直せ。ともかくうちの連中を戦えるようにしておくべきだと思ってな。もっともこの辺にもたまに魔物が出ることはあるんで、初級冒険者程度の実力を持つやつはいるんだが」
なるほど。
これはぜひとも協力してやらなきゃならんな。
「パワーレベリングしろってことだね?」
「レベリングもなんだが、その前に誰を鍛えたらいいか選別してくれ」
「要するに固有能力を持つ人をってこと?」
「自分が固有能力持ちになって理解したが、同じレベリングするなら、やはり能力持ちがいい」
レベリングするなら固有能力持ちがいいという意見には大いに賛成だけど、ダンの家は農場じゃん。
人間関係は大丈夫なのか?
レベル差ができると、農場内部の人の上下関係とかギクシャクするのではないだろーか?
「うちで気をつけるべきことだ。ユーラシアには関わりないから気楽に選んでくれ」
「了解。でもあたし能力持ちか否かまでしかわかんないぞ? ギルド連れてって調べるのがいいんじゃないの?」
「いや、とりあえず従業員の内、固有能力持ちを全員育てて、詳しいことはあとで調べりゃいいかと思ってるんだ」
何ですと?
随分と大雑把なこと考えてるな。
「従業員は何人いるの?」
「三〇人近いかな」
「とすると能力持ちは数人か。ああ、よさげな人数かもね」
「だろ?」
到着だ。
広く開かれた入口から農場へ入る。
声をかけてくるのは使用人だろう。
「若旦那、お帰りなさいませ」
「バカ旦那って言われてるよ。教育するべきなんじゃないの?」
「あんたの耳を教育するのか? それとも頭のほうか?」
ダンが使用人に向き直る。
「精霊使いユーラシアを連れてきた。予定通り従業員を全員集めろ」
二九名の従業員一同を前にし、ダンが説明を行っている。
「……と、防犯体制の見直しに伴い、一部の者を選抜し戦闘訓練を施すものとする。選抜と訓練は、精霊使いユーラシアがその者の持つ固有能力に基づいて行う。これには今までの実績や、農場内での地位や職種は加味されない」
「固有能力とは何ですか?」
「教えられてもいないのに魔法を使える者がたまにいるだろう? ああいうやつだ。一般に固有能力持ちは数人に一人いると言われている。何らかの能力持ちであれば、訓練した際の伸び代を期待できるので、そういう選抜の仕方を採用させてもらう」
「選ばれた者は昇進ということですか?」
「いや、地位は変わらん。戦闘担当の肩書が加えられ、給料に手当てがつく。勤務時間は変わらないから、選ばれれば得は得だな」
「仕事内容が全く変わってしまうのでしょうか?」
「選ばれた者に今日は訓練を行うが、基本的には変わらない。閑散期に訓練を行うことはあり得るかな。しかし、もちろん有事には全員で事に当たるのだ。今回の措置は基礎戦力の底上げを行うに過ぎない」
ふーん、ダン格好いい。
とてもギルドのオチ担当には見えないぞ。
従業員を鍛えるというのも、自分が『アトラスの冒険者』になってからの急な思いつきではないのかもしれないな。
いざ帝国との戦争になった時、『オーランファーム』をどう守るかかなり考えての結論なんだろう。
「質問はもうないか?」
壮年の男が手を挙げる。
「若がこのように動くということは、何かの兆しがあるということですか?」
ダンはニヤリと笑って一言。
「察しろ」
まあ戦争の近いことは、こんなところじゃ言えないからな。
質問の出なくなったところでダンに紹介される。
「知ってると思うが、先のアルハーン平原掃討戦を勝利に導いたヒロインであり、最年少ドラゴンスレイヤーかつマスタークラスの精霊使いユーラシアだ。今日の選抜と訓練を担当してもらうために、配下の精霊とともに連れてきた」
おいおい、随分と大げさに披露してくれちゃうんだね。
皆ビビってるじゃんかよ。
張りつめた感情を浴びるヴィルが具合悪そうなんだけど?
ダンと視線を交わす。
……ははあ、了解。
オーケー、あたしの出番だな。
ドーラの人口が増えてくると、大規模生産農場って重要だな。




