第295話:ダンの家
「姐御、明日は午前中からギルドですかい?」
夕食時にアトムが聞いてくる。
魔境行くと身体を動かすからお腹が減るなあ。
夕御飯がおいしい。
「うん、ダンにサイフが空になるまで奢らせないといけないからね」
「お肉のストックは今日ので最後ですね。それから凄草の株分けが明日です」
「明日は昼夜ダンが食べさせてくれるって言ってたから、お肉狩りはあとだな。凄草の株分けは絶対だね」
「レディーと肥溜めガールへのプレゼントはどうするね?」
「それもあったか」
色々やることが残ってたな。
「凄草の株分けは最優先事項、これは明日ギルド行く前ね。肉狩りは明後日、頭飾りは腐るもんじゃないから、行く機会がある時でいいや」
「「「了解!」」」
今日はカラーズ族長連とラルフ君パパの顔合わせが無事に終わったのが何よりだ。
これからは今まで以上に連絡が重要だから、しばらくはマメにギルドに顔を出して、ラルフ君と会える機会を増やしておくか。
毎晩ヴィルをサイナスさんのところに飛ばして、カラーズ各村の動向を聞いておくのもいいかもしれない。
「今日の午前中の会合、どう思った?」
「黒の民と赤の民はユー様の手を離れるの、早いんじゃないでしょうか?」
「うん、調味料が一般的になれば安定的に売れるだろうからね」
「黄の民と輸送隊はもう少し時間かかりそうですけど。青の民はイシュトバーンさん次第ですね」
クララの言う通りだ。
黄の民の村は、目先は苦戦するだろう。
けど米と塩が楽しみだから後々の伸び代は大きい。
青の民の村は今も結構売れてるんで、族長セレシアさんさえ落ち着いていればさほど問題はない。
レイノスでの展開は……かつてやり手の商人だったというイシュトバーンさん次第か。
ラルフ君パパは随分尊敬していた人みたいだけど?
「イシュトバーンって人、かなりの曲者な気がするんだよね」
「フラグ立てちゃダメですぜ」
「ボスのカンは当たるね」
嫌なこと言うなあ。
情報は欲しいが、人とゆーのは実際に会ってみないと本当のところはわからんもんだし。
「ま、いいや。今日はおやすみっ!」
◇
――――――――――六八日目。
翌日、朝から凄草の株分けを行う。
「カカシー、この前魔境で拾った凄草食べたら、メチャメチャ甘くておいしかったんだよ。あっという間に食べちゃった」
「新鮮だったからだぜ。抜いてしばらく経つと魔力が抜けてシナシナになるんだ。味も食感もガクンと落ちちまう」
「そーなの?」
「多分な」
カカシの説に従うと、マンティコアドロップの凄草は新鮮だったってことになる。
じゃあたまたまマンティコアは凄草をゲットしたばかりだったのかな?
それとも凄草に魔力を与えて鮮度を保つ性質でもあるのか?
後者の可能性のほうが高そう。
でなきゃ新鮮な内に食べようとするだろうから。
「とゆーことは、摘んだらすぐサラダにしないといけないのか」
「他所で凄草手に入れたら、またここへ持ってきておくれよ。なるべく早く数を増やしてえんだ」
「あ、株分けのサイクルが狂っちゃうかと思ったんだけど」
「サイクルはオイラが調整するから、心配しなくていいんだぜ」
「うん、わかった」
カカシも一生懸命やってくれている。
言うことにはなるべく従おう。
凄草を毎日食べられるようになる日が待ち遠しいな。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「いらっしゃい、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「ポロックさん、おっはよー」
ギルドにやって来た。
角帽の総合受付ポロックさんがニコニコしながら言う。
「ダンさんが待っているよ」
「待ち合わせしてるんだ。何か用があるみたい」
「ダンさんが『アトラスの冒険者』とはねえ……」
「ちょっとビックリだよね」
「ハハッ、ギルドとしてはありがたいですよ。貴重なムードメーカーですからね」
ムードメーカーか。
褒め言葉ってあるもんだなあ。
ギルド内部へ。
先行させたヴィルとダンはと。
あ、ラルフ君パーティーもいるじゃないか。
「おまたー」
「おう、やっと来たか」
「御主人!」
ヴィルが飛びついてくる。
よしよし、いい子だね。
ラルフ君が話しかけてくる。
「師匠、ちょっとよろしいですか?」
「いいよ、何だろ?」
「イシュトバーンさんの件ですが、命が尽きるまでに早よ会わせろとのことでして」
「え? 死にそーなの?」
「言い方」
「棺桶に片足突っ込んでるの?」
ダンが笑う。
「イシュトバーンってあれだろ? 『タイガーバイヤー』の」
「はい」
「殺しても死なねえジジイだ。どうせ退屈過ぎて暇潰ししたいだけだぜ」
「ダンは知ってる人なんだ?」
「実家の付き合いでな」
思わぬ情報源だ。
ダンの実家って商売やってるのかな?
そーいやダンって自分のことほとんど話さないよな。
「本当に死なれて約束が反故になっても困るからなー。明日の昼はどう? コブタ肉持ってくるから、一一時にギルドで待ち合わせしよう」
「了解です。では、そのように報告しておきます」
ラルフ君パーティーが転移の玉を起動し、姿が消える。
「約束って何だ?」
「カラーズの商売の話でさ。イシュトバーンさんに精霊様を会わせたら、レイノスのいい場所の空き店をタダで貸してくれるって言うんだよ」
「ほう?」
ダンが口角を上げ下げしている。
何だよその顔は。
感情が読みづらいだろーが。
「胡散臭いジジイだ。話半分に聞いとけよ」
「胡散臭いジジイなのかー」
「一目でわかるぜ。商売に関してやり手だったのは確かだけどな。でも引退したのは一〇年以上前なんじゃねえかな? 俺もあのクソジジイの全盛時代のことはよく知らねえんだ」
「ふーん。随分前に一線を退いてるんだね?」
「ああ。あんたはああいうジジイを手玉に取るの得意かもしれねえが」
どーしてどいつもこいつも、あたしがこういうの得意扱いするんだか。
「うーん、あたしに決定権がないからなー」
「決定権がないのは店についてだけだろ? だったら構わねえじゃねえか。あんたはメチャクチャやってりゃいい」
……一理ある。
メチャクチャってのは大いに反論したいが、あたしも自由にやるのが気を使わなくっていいな。
「ダンの言う通りだわ。うまくいかなくたってあたしが損するわけじゃなかった」
「ハハッ、じゃあ行くか」
「どこ行くんだっけ?」
「俺ん家」
ダンの家ってどこだ?




