第293話:努力の方向性がファンタスティック
「おーい、アレク!」
サイナスさんと別れたあと、図書館にやって来た。
熱心に本に齧りつく栗毛のキノコ頭がこちらを振り向く。
「アレクは本が好きだよねえ。あたしには枕以外の用途が思いつかないよ」
「固い枕は首を痛めるかもしれないよ?」
「固い枕VSあたしの首か。勝負が地味過ぎて盛り上がらないんじゃないかな。分厚い本を鈍器として用いる勝負なら見栄えはよさそうだけど」
「クララはどうしてユー姉について行ったの? 早めに見切るべきじゃない?」
メッチャ失礼な言い草だな。
クララが曖昧に笑う。
クララも本が大好きなのだ。
美幼女時代のあたしにとって、図書館はお昼寝の場所に過ぎなかったなあ。
今ではどの本が枕に向いてるか吟味するだけの分別はあるんだよ。
「何読んでるの? 『精霊使いユーラシアのサーガ』?」
「伝説本が出版されるのはもう少し先だろう?」
「伝説本ときたか。アレクが書いてくれないかなー、ちらっ」
「モデルがもう少しお淑やかだったら、その気になったかもしれない」
アレクの気に入ってるエルってお淑やかなのかなあ?
アトムとダンテが何か言ってる。
「このボンとの掛け合いとダンとの掛け合い、どっちが面白れえと思う?」
「コーオツつけがたいね」
キレでアレク、オチの安定感でダンかな。
軽口の叩きやすい相手とゆーのは、人生の潤いとして必要だ。
ジスイズエンターテインメントマインド。
「で、ユー姉は何しに来たのさ?」
聞きたいか。
アレクを玩具しに来たんだよニヤニヤ。
「アレク君に献上品でーす。じゃーん」
先ほどセレシアさんから購入した太タスキを取り出す。
ちょっとした小物入れにもなる優れものだ。
「……これは何なの?」
「こうやって使うの」
肩から反対側の腰に回し掛けする。
「……顔役選挙の時に使うタスキみたいだね」
「ユーラシア、ユーラシア・ライムでございます。どうかこの美少女に清き一票を」
「ボタンがついてるのは?」
「ここが開くんだ。ちょっとしたものが入れられるようになってるの」
「あ、ファッション小物なんだ?」
「エルにあげなよ」
はい、アレクの赤い顔いただきました!
想定外の攻撃はハートにクリティカルヒットのようです。
よし、意表を突いたった。
ここからはあたしのターン!
「……エルさんに似合うかな?」
「青のセレシア族長の見立てだぞ? あの人はエルを知ってるし。間違いないって」
黙ってタスキを見つめるアレク。
「初めてユー姉がお姉さんみたいに思えるよ」
「うんうん、今までは恋人みたいに思ってたもんね」
「過去の捏造は犯罪にならないのかなあ」
アトムが呟く。
「この二人の会話はヤベえ。言葉を差し挟む余地がねえ」
「「そんなことないよ。ツッコんでおいで」」
「セリフが被るのがヤベえ!」
全員の笑い声が重なる。
「で、あんな女のどこがいいの?」
「顔」
「あたしのことは遊びだったの?」
「そのフレーズ海底で使ったじゃないか。ギャグにもならない、しつこいだけのリフレインなんてユー姉らしくもない」
「あれ、無視できない批判だな」
あたしのターンかと思ったけど、アレクはなかなかやるなあ。
簡単にペースを握れない。
ワンスモアプリーズ!
「で、エルのどこが気に入ったの?」
「顔」
「エルの顔は確かに可愛いけど、『可愛い』という言葉にはものすごく敏感だから注意が必要だぞ?」
「この前、海底でのやり取りで理解したけど……」
アレクは自信なさげだ。
「他にも地雷ワードが結構あるんだよ。『サイズ』とか『おっぱい』とか」
「さすがに『おっぱい』は言わないよ」
「と、思うでしょ? でもあたし冒険者になってからしょっちゅう使うようになったよ」
「何か特殊要因が関与してない?」
首筋にホクロのある、髪をアップにした眼鏡のお姉さんが関与してるわ。
おっぱいさん、今後ともよろしくお願いします。
「とにかくタスキはありがとう。エルさんにプレゼントしてみるよ」
「健闘を祈る。女の子はプレゼントが大好きと相場が決まっているから」
「ユー姉を基準にされてもなあ」
素直にあたしを信じときなよ。
うまくいってもいかなくても楽しめるなあニヤニヤ。
「ユー姉、どう転んでも楽しめるって思ってるでしょ?」
「心を読むな。反則だぞ」
まったくアレクはやりにくい。
クララが聞く。
「あの、アレクさんはどうしてエルさんと知り合ったんですか?」
「あたしも疑問だったわ」
「二〇日くらい前、お爺様がエルさんを連れてカラーズに来たんだ」
エルの服のデザインをセレシアさんに見せた日だろう。
あの後あたしは帰っちゃったけど、アレクとエルの運命の出会いイベントがあったのか。
しまった、あたしともあろう者が見逃しちゃったな。
「以来ずっと転移術について研究してる」
「デス爺に教わりなよ」
まあ強歩四日の塔の村は遠いからね。
だから転移術ってのが短絡的だけど。
「努力の方向性がファンタスティックね!」
「ええ?」
ダンテは意外とロマンチックなの好きだよなあ。
「じっちゃんは次いつ灰の民の村へ来るの?」
「正確なところはちょっとわからないな。でも塔の村には今のところ灰の民の村から運ぶ以外、野菜を手に入れる手段がないようだから、大体数日おきには来るんだ」
なるほど。
いずれ塔の村でも生産が始まったり、近隣の自由開拓民集落から買いつけたりもするようになるんだろうけど。
「転移術ってアレクでも難しいんだ?」
「難しい。というか生半可な知識で使うと、どこへ飛ばされるかわからないんだ。危なくてしょうがない」
「何それ、怖い」
「お爺様みたいに転移先が見える能力を持ってないと、正直使いこなすのはムリなんじゃないかな」
アレクの魔道知識は、おそらくドーラで数人しかいないレベルだろう。
そのアレクに危なくてしょうがないと言わしめる転移術ってどんなだ。
使いこなせるのなら、転移網を張り巡らせることができて便利極まりない技術ではある。
が、今の状態だとデス爺の知識が失われれば修復することさえできない。
むーん? かなり問題があるなあ。
「あたし達はそろそろ帰るよ。まあとにかくチャレンジしてみな。ナイチチが全てになるのか、ナイチチだけが全てじゃないよとあたしが慰めるのかはわからんけど」
「わかりにく過ぎる!」
転移の玉を起動し帰宅する。




