第292話:感性を刺激するイベント
ようやく会合が終わったぞ。
ラルフ君パパもまずまず満足していたようだし、恐れていたトラブルもなかった。
今日のところはめでたしめでたし!
順調に対レイノス交易が始まるといいな。
軽く伸びをする。
「ボス、タイアドね?」
「そーでもないよ。あんた達の方が退屈だったでしょ?」
人間嫌いの精霊達には、今日はツラい環境だったと思う。
あんまりうちの子達には嫌な思いをさせたくないが、今日はあたしに精霊使いとしての格とゆーか押し出しが必要だったから。
あたし自身にもうちょっと知名度とか実績とかがあればなー。
うちの子達に迷惑かけないですむんだが。
「今日思ったより早く終わったから、時間が余ったね。あとで魔境行こうか?」
「「「賛成!」」」
よしよし、午後は魔境で気晴らしだ。
もう一度青の民の族長セレシアさんのところへ行く。
「こんにちはー。頼んであった頭飾りできてるかな?」
「ええ、もちろん。これよ」
バエちゃん用が花冠のような飾りで、マーシャ用が頭巾みたいな帽子だ。
イメージピッタリだなあ。
「ありがとう。さすがだね。セレシアさんに頼んでよかったよ」
「ユーラシアさんにそう言ってもらえると嬉しいわ」
うんうん、これはいい。
今度行く時、持ってくのが楽しみだよ。
「いくらかな?」
「え、いいのよ。お世話になってるし」
「ダメ。商売人はきちっとおゼゼをいただくことを考えて」
勘定がいい加減な商人は三流だぞ?
特にセレシアさんは感覚派の人とゆーか、商売に熱心なのに甘いところがある気がするから。
「そ、そう? じゃあ八〇〇ゴールドで」
八〇〇ゴールドを支払い、もう一つ要望を伝える。
「塔の村の精霊使いエルいるでしょ? 彼女に……」
あたしの弟分アレクがラブい気持ちを持っていることを伝える。
「で、アレクからエルに何かプレゼントさせたいんだけど、何がいいかな?」
「ユーラシアさんは恋のキューピッド的な?」
「いや、単なる話のネタ的な」
「そ、そう」
セレシアさんもラブ話が好きなのかな?
ちょっとガッカリしたっぽい。
アレクとエルの相性は悪くないと思うけど、エルはアレクのことを何とも思ってないみたいなのだ。
積極的にくっつけようとまでは思わないが……。
「でもエルさんのファッションか、うーん……」
「エルは帽子被ってるしゴーグルつけてるから、上をどうにかしようと思うとうるさい感じになるかなあ?」
「でもハンカチやじゃつまらないし……やっぱりアレかな」
何か手段があるらしい。
荷物開けだしたけど?
「これどうでしょう?」
「太い……タスキ?」
「タスキみたいなものね。肩から掛けて反対側の腰で留めるの。で、タスキ部分がちょっとした小物が入るようになってます」
ははあ、ナップザックよりガチじゃないし、手提げ袋よりスポーティだな。
普段使いによさそう。
「なるほど。これはファッショナブルでいいねえ」
「でしょう! 自慢の新作なの。商人さんには見せられなかったけど」
何だよ、落ち込み方が急転直下過ぎだろ。
「こーゆー見慣れないものは店先に並べたってダメだよ。実際に身に着けてるとこ見せないと。レイノスの一等地に店を出せそうな雰囲気になってきたんだから、あとの楽しみにしとこう」
「そうねっ!」
希望の目で見てくるなよ。
感情がわかりやすいのは商売人じゃないなあ。
「引退商人さんとの顔合わせ、本当に、本当に期待してるわよ」
「うーん、強調されてもなー。イシュトバーンさんだっけ? 精一杯やってくるけど、どーも話聞く限り一筋縄でいかない爺さんっぽいじゃん。拗れてダメだったらごめん」
「で、でもユーラシアさん、交渉は得意でしょう?」
「いつもうまくいくとは限らないよ。ましてこの案件は向こうの一存で決まっちゃうことだし」
こっちに主導権がないから、何とも言えないんだよな。
精霊様に会わせろってゆー要求自体が、何を目的にしてるのかわからん。
情報が欲しいもんだ。
「とにかくこのタスキももらってくよ。おいくら?」
「二〇〇ゴールドです」
よしよし、ブツは揃ったし。
「じゃあね、セレシアさん」
「ではまた。本当に期待してるのよ」
念押しされちゃったよ。
◇
「おーい、ユーラシア!」
「あ、存在感のないサイナスさん」
「なかったけれども」
アハハと笑いながらサイナスさんと合流して灰の民の村へ帰る。
「赤の民の取っ手付きコップの試作品、二日後にはできあがってオレのところに持ってきてくれることになった」
「ヨハンさんとこに届ければいいんだよね。じゃあ三日後に取りに行くよ」
試作品いくつあるんだろうな?
運びやすくしてくれないと困るんだが
「三日後だな? オレは家にいなきゃショップにいるから。……それは何だい?」
青の民のショップでゲットしたプレゼント品群だよ。
サイナスさんは案外目敏いな。
「お世話になってる人達に贈りたいんだよね。これはアレクがエルに渡すプレゼント」
「ははあ、余計なことだな?」
「余計なことだよ」
サイナスさんが苦笑する。
「一昨日、海の女王のところで焼き肉会食だったんだよ。あたしのパーティーとエルのパーティーとデス爺とで。そしたらどういうわけかアレクもついて来ててさ。エルが来るからだって」
「えっ? 待ってくれ。理解が追いつかないんだが?」
エルが海の王国へ侵攻した事件について説明する。
もっともあたしもエルとアレクがどこで知り合ったとか何のきっかけでラブい思いを抱いたとか、詳しいことは知らない。
「で、塔の村では魚が食べられるようになったんだ」
「ええと、論点は魚じゃないだろう?」
「ああ、アレクとエルのことだったね。どうでもいい話はつい忘れちゃう」
「どうでもいいのか」
どうでもいいは言い過ぎたけど、魚フライより優先順位は下だな。
「で、アレクがエルにラブみたいなんだよね。アレクからエルにプレゼント贈らせたらどうなるかと思って」
「基本的に君は余計なお節介が好きだよな」
「命を張って戦う冒険者の心のささくれを癒すためには、感性を刺激するイベントが必要なのだ」
「即席で作ったセリフにしては上出来だね」
即席と見破られたか。
変なところで族長の実力を発揮するんだから。
「アレクは村の図書室にいるよね?」
「ああ、多分」
「行ってくる! サイナスさんさよならー」




