第290話:精霊様を連れてこい、さすればただで貸してやる
次に赤の民と交渉だ。
メンバーは族長カグツチさんの他にガラスと陶器の職人達。
カグツチさんにはとにかく喋るなと指示してある。
カグツチさんの突進力が有効な場面もあるんだろうけど、商人相手だと軽く躱されていいように丸め込まれちゃう気がするから。
「先ほどの酢等の調味料の容器は、赤の民が作ってるんだよ」
「そうでしたか」
目の前に並べられた皿やコップ等を丹念に見るラルフ君パパ。
黒の民とはいい感じで交渉を終えられた。
赤の民の産物はどうかな?
「同じものを作った時に、どれほど形を揃えられますか? また、まとめ買いだと安くできますでしょうか?」
来た、想定内の質問。
カグツチさんと頷き合う。
職人に答えさせ、これ以上は安くならない下限もハッキリ伝える。
「よくわかりました。とりあえずこれとこれとこれ、三〇個ずつお願いしましょうか」
よしよし。
最初は少しずつで結構。
赤の民は黒の民の酢や醤油が売れれば自然に儲かるのだが、それ以上に注文が入れば万々歳だ。
「こういうものはいくらで作れるでしょうか?」
ん? 何だろ?
ラルフ君パパが取り出したのは取っ手付きのコップ?
「帝国で流行っているマグと呼ばれるものです。すぐ取っ手が壊れてしまう粗悪品ではなく、良質なものをドーラでも作って欲しいのですが」
取っ手があれば熱い飲み物でも持ちやすそう。
一方で確かに壊れやすくも思える。
職人に戸惑いが見えるな。
作れるは作れるが、強度がどの程度かわからないのだろう。
「試作品を作らせよう。それで判断していただければ」
「ではお願いします」
よしよし、赤の民も御の字だ。
◇
三番目に青の民。
メンバーは族長セレシアさんと、可愛らしい服を身にまとった女性達。
青の民のショップで売り子をしていた人達だな。
予想通り小規模な取り引き、セレシアさんが悲しそう。
仕方ないなあ。
「セレシア族長は新しいファッションを打ち出そうとしているんだよ。当たればヨハンさんからも糸や布地を仕入れることになると思うけど、レイノスでその手の店を開くのに適した場所に心当たりはないかなあ?」
セレシアさんの顔がパッと明るくなる。
一応聞いてみただけだぞ?
セレシアさんと青の民のやる気が減退しても困るから。
「ございます!」
おおう?
勢い込んで来られるとは予想外もいいところだわ。
商人の売り込みには注意しなきゃいけないけど、話は聞いとこ。
「レイノス中町と外町の間、両方からの客を期待できる位置に、大きな空き店があるのです。現在は引退していますが、一代で財を成した立志伝中の商人の持ち物でして」
「ふんふん、場所が良さげなのは理解した。安く借りられる手段があるということなの?」
「最近その方が言い出したのです。精霊様を連れてこい、さすればタダで貸してやると」
ぶふお?
何じゃとて?
精霊様を連れてこい?
「どうされましたか?」
「あたしなの。というかこの子クララが精霊様」
どうやらラルフ君パパはある程度予想してたようだ。
くそー、精霊様関係なんていう隠し玉を用意していたとは。
さすがにラルフ君パパは侮れんな。
主導権を取られそうだが仕方ない。
状況がわかっていないセレシアさん達に説明する。
「一ヶ月半くらい前、クララとレイノスに買い物に行った時、亜人だって絡まれたんだよ。だから精霊様に無礼を働くとは何事だ、と脅しつけて」
「やはりユーラシアさんですか。だろうと思いました」
ラルフ君パパしたり顔だ。
初めて風上取られたようで気分が悪いな。
「で、どういたしましょうか?」
セレシアさんは縋るような目で見てくるし、ラルフ君パパは余裕を見せつけてくるし。
……ここはセレシアさんとラルフ君パパの両方に恩売っとくか。
「その引退商人さんに会ってみよう。ただ、あたしが精霊連れでレイノスに入ると騒ぎになっちゃいそーだから、ヨハンさんのお宅で会うというのはどうかな?」
「やあ、イシュトバーン殿を拙宅に招く口実ができようとは。ユーラシアさん、感謝しますぞ!」
嵌められたよーな気がする。
まあでも皆が喜んでるからいいや。
◇
最後に黄の民。
メンバーは族長フェイさん以下、大男達が並ぶ。
圧迫感あるなあ。
ラルフ君パパもさる者なので、圧迫感あってもどうとも思わんのだろうけど。
「残念ながら、黄の民から購入したいと思えるものはないようで……」
ヨハンさんが恐縮するが、そのくらいは想定内だ。
フェイさんと視線を交わす。
「ヨハン殿、この男達を見てくれ。輸送の役には立たぬかな?」
「えっ?」
「フェイ族長代理は、カラーズ~レイノス間の輸送隊を組織することを考えているんだよ。盗賊や魔物を自力で追い払うだけの戦闘力を備えることを目標としてるの。今後、治安が悪くなることもあり得るでしょ? このパワフルな輸送隊はヨハンさんの役には立たないかな?」
治安の悪化とはもちろん戦争があることを前提にしている。
フェイさんもまた帝国と戦争になることを知る者というメッセージは、ラルフ君パパに伝わっただろう。
「……輸送自体の信頼性、戦闘の実力、価格によりますが、十分検討に値しますな」
「ふむ、それは重畳」
輸送隊計画は進めていいだろう。
隊員を選抜しないとな。
「ところでヨハンさん、この屋敷どう思います?」
「いや、正直驚きました。これほどの建築物がカラーズにあるとは」
ド田舎のクセに、って言っていいんだよ。
見るからに立派で頑丈そうだもんな。
「これだけの建築技術を持つのは、カラーズでも黄の民だけなんだ。これだけの調度品を作ることができるのも。……レイノスで彼らの力が必要になった時、遠慮なく声をかけてよ」
ラルフ君パパもここで初めて戦争によってレイノスが破壊され、大工に需要がある可能性について思い当たったようだ。
今後どこでどんな需要があるかわからん。
ちょっとは黄の民と付き合っとこうという気になったんじゃないかな?
「はい、機会があればぜひ。いや、やはり家具をいくつか見せていただけますかな」
よし、オーケー。
黄の民の家具は、見てもらいさえすれば作りの良さや重厚さはわかるよ。
結局いくつか引き取ってもらえることになった。
……現在黄の民が提供できるものはこれだけだ。
ラルフ君パパには将来の展望も話しておくべきだな。




