第288話:裏技的交渉
ダンはいいとして、バエちゃんには注意しておかねば。
「戦争があるってことが広まると、社会が浮き足立って相手につけ入る隙を与えちゃいそうなんだ。だからバエちゃんも戦争のことは、ここへ来る冒険者達に言わないでね。あ、ソル君パーティーはもう知ってるけど」
「うん、わかった」
あとやっとくべきことは、と。
「ダンは転移の玉の使い方は知ってるんだよね?」
「もちろんだ。しょっちゅう見てるからな」
「ギルドカードは持ってる?」
「まだだ」
ダンは充分なレベルがあるし、もうギルドへは行ってるんだから、ギルドカードくらいもらっててもいいのにな。
「二つ三つクエストをこなすとギルド行きの転送魔法陣が出るはず。あたしはその時にポロックさんからギルカもらったんだ。ダンも多分一緒だと思う。ギルカがないと共闘もしにくいから、早めに初期のクエストを終えてもらっといてよ」
「おう、重要だな」
「もし一人じゃ面倒なクエストだったら、誰かに声かけて手伝ってもらいなよ。ダンはすぐギルドに来られるんだから」
「了解だ」
あれ、ダンの家ってギルドから近いのかな?
レイノス市内か?
「バエちゃん、ダンは既に結構いい装備は持ってるから、支給される武器はいらないの」
「さっき言ってたわね」
「代わりにスキルもらえない?」
ここは交渉のしどころだ。
ダンもスキルには興味があるみたいだから、安っぽい装備品もらうより嬉しいだろうし。
「三〇〇〇ゴールドまでならスキルスクロールでも構わないわよ」
よーし、通った!
あたしも最初にもらったパワーカード二枚は、金額にすれば合計で三〇〇〇ゴールド相当だった。
新人にはそれくらいの支援をするとゆールールなのか。
ダンがしてやったりな顔してる。
あっ、さてはこういう裏技的交渉をあたしにやらせようとしてたんだな?
ズル賢いやつめ。
「たっぷり奢って」
「たっぷり奢るぜ」
「これを御覧になってください」
ダンがバエちゃんから手渡されたスキルスクロールの価格表に目を通す。
「三〇〇〇ゴールドまでか。火・氷・雷・風・土の基本攻撃魔法がそれぞれ一〇〇〇ゴールド、『MPパンプアップ』『経穴砕き』が一五〇〇ゴールド、『セルフプロデュース』が二〇〇〇ゴールド、『薙ぎ払い』『五月雨連撃』が三〇〇〇ゴールドか……」
「基本攻撃魔法のスクロールだったら三本もらえちゃうねえ」
もちろん冗談だ。
固有能力もステータス値も明らかに前衛向きのダンは、攻撃魔法を習得してたってさほど恩恵が大きくない。
さあ、ダンは何を選ぶだろうか?
「ユーラシアなら何を選ぶ?」
「何をしたいかによるけど、『経穴砕き』『薙ぎ払い』『五月雨連撃』のどれかだねえ。他はいらないと思う」
「『セルフプロデュース』は使えないか?」
『セルフプロデュース』は使用者自身の攻撃力と魔法力を一時的に大きく高める魔法だ。
うちのパーティーは誰も持ってないけど、強敵相手には有効だと思う。
決して使えないスキルじゃないが。
「これが威力を発揮するのは、パーティーのメイン火力になる人だよ。ダンに求められるのは能力的に盾役でしょ?」
「じゃあ『経穴砕き』は人形系用に別に買うとして、『薙ぎ払い』と『五月雨連撃』のどちらかだな。どっちがいい? 違いがよくわからねえ」
この選択の判断は難しい。
「『薙ぎ払い』はノーコスト、『五月雨連撃』は少しマジックポイントを必要とするけど、ちょっとしたマジックポイント自動回復アイテムを装備するだけで十分お釣りがくるから、そこは大した問題じゃないんだ。『薙ぎ払い』には武器の属性が乗るけどクリティカルが出ない。『五月雨連撃』は属性が【刺突】に固定されるけどクリティカルあり。元々のダメージ効率も『薙ぎ払い』より上」
「それだけ聞くと『五月雨連撃』の方が良さそうだが、何か裏があるんだな?」
あたしは頷く。
「あたしは『薙ぎ払い』使ってるんだ。何故ならパワーカードが武器属性を変えるの比較的易しくて、人形系に効く攻撃にできるからだよ。普通の魔物相手ならダンは『五月雨連撃』の方がいい」
普通の魔物じゃない場合が問題なのだ。
「ははあ、要するに対策される可能性か」
こっくり。
さすがに冒険者経験のあるダンはわかってる。
『五月雨連撃』はポピュラーなスキルだけに、仮想敵である帝国軍ゲリラ部隊は刺突耐性を持つ可能性が高いのではないか?
「『五月雨連撃』をくれ。今必要なのは大きいダメージを与える手段だ。あと『経穴砕き』が一五〇〇ゴールドな。これは別に買う」
「おお、男前だね」
「やっと理解したか? 帝国兵に『五月雨連撃』が効かねえかも知れねえってことは覚えとくぜ」
ダンがニヤッとふてぶてしく笑う。
頼り甲斐のある顔だって思う人もいるんじゃないかなあ。
あたしには通用しないが。
「では転移の玉と、『五月雨連撃』『経穴砕き』のスクロールをお受け取りください。一五〇〇ゴールドになります」
うむ、いいだろう。
「さて、帰ろうかな」
「ちょっと待ってくれ」
「二つ目の頼みかな?」
「まあそれもあるんだが、係員さんの名前教えてくれ。バエちゃんとしか聞いてねえ」
「「あ」」
バエちゃん名乗ってないわ。
イシンバエワです。
「ダナリウス・オーランさん。今日のチュートリアルは終了です。あなたの冒険者人生に栄光がありますよう」
「長ったらしくていけねえ。ダンと呼んでくれ」
「わかりました。ダンさん、ガンバ!」
アハハと笑い合う。
いい感じだね。
「ダンのクエストって難易度低いやつが来るのかなあ?」
「石板クエストはギルドの管轄だから私にはわからないけど、ギルドに行けるようになるまでは高レベル仕様ってことはないと思うわ」
だよなあ。
高レベルだからって、仲間もいない情報も得られない内から魔境だったら困るわ。
もっともダンはギルドまで来ればすぐ、魔境トレーニングのクエストを配られそうではある。
「なるべく明日中にギルカ取っとくことにするぜ。あんた、明後日大丈夫か?」
「明後日はオーケー。二つ目の頼みってことだね? 午前中にギルド行けばいい?」
「おう、明後日の午前で頼むわ。昼夜とたっぷり奢るぜ」
やったぜ!
明後日は御馳走デーだ!
「バエちゃーん、また来るね」
「うん、またね」
転移の玉を起動し帰宅する。




