第286話:あんまり美人だと緊張しちまうから
「やあいらっしゃい、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「こんにちはー、ポロックさん。あたしはいつでもチャーミングだよ」
「ハハハ、違いない」
ヴィルを先行させ、アルアさんのところの転移石碑からギルドへ来た。
「ん? 今日はやけに大荷物だね?」
「大荷物でもないんだけど、ワイバーンの卵が三つあるの。割らないように持ってるから」
「ほう?」
ポロックさんが興味深げだ。
ポロックさんも身体の大きい人だから、食には無関心ではいられないんじゃないかな。
ワイバーンの卵は高級食材って話だし。
「わざわざ卵のために狩りに行ったのかい?」
「いや、たまたまドロップしたんだ」
「三つもか。さすがユーラシアさんだね」
妙な感心のされ方してるけど、マジでたまたまだ。
うちのパーティーは魔境での探索時間が長い。
加えてダンテの『豊穣祈念』の効果があってのこと。
「うちじゃこれを料理できる大きな鍋がないんだよね。食堂の大将に預けて、皆で食べてもらおうと思って」
「そりゃあいい! 大将なら卵焼きを作るだろうから、俺も家へのお土産に少しもらっていくかな」
うんうん、御家族で食べてちょうだい。
ギルド内部へ足を進める。
買い取り屋さんでアイテム換金後、食堂へ。
あ、ダンが手招きしてる。
マウ爺も一緒だ。
「こんにちはー」
「御主人!」
ヴィルが飛びついてくる。
よしよし、いい子だね。
「何だそれ?」
「ワイバーンの卵だよ。でっかくってうちじゃ調理できないから、食堂の大将に提供して、皆で食べてもらおうと思って」
「高級食材じゃねーか。売らねえのか?」
「え? おゼゼとして計算してなかったからいいや」
「あんたそういうとこ適当だよな」
「可憐で気品があって気前のいい美少女だって? ありがとう!」
「言ってねえよ! 大体合ってるけど!」
アハハ、適当大いに結構。
食堂の大将にワイバーンの卵三個を渡し、皆に安く振舞ってくれるように頼んだ。
「やー軽くなった。割れると嫌だから、持つのに神経使うんだよね」
「神経太いから問題ないだろ」
「神経の太さまで褒めてくれるのかー」
「今のは褒めてねえぞ?」
「ハハハ、嬢はクエストは順調か?」
笑いながらマウ爺が聞いてくる。
魔宝玉クエストのことだろう。
面白いクエストだから、その内ギルドの皆の関心事になる気がする。
「まずまずだよ。高級魔宝玉の手持ちが四〇個越えたから、もうちょっと稼いだら納めてもいいかなーって思ってるの。次のクエストも欲しいしね」
「ふむ?」
「ユーラシアらしくねえこと言ってるじゃねえか。可能な限り納品して大金持ちを目指すんじゃなかったのか?」
「でも依頼者が破産したら見返りがないよーな気もして」
「マジであんたらしくねえな。破産させてから考えりゃいいじゃねえか」
「それもそーだな」
楽しいなー。
当たり障りのない話だが、本題は何だろう?
「実は嬢に報告がある」
「何だろ?」
マウ爺、冒険者引退しちゃうんだろうか?
もし本当なら寂しくなるなあ。
「驚くべきことだが……」
ん、驚くべきこと?
「ダンが『アトラスの冒険者』になった」
え?
「えええええええええっ!」
「へっへっへっ、ユーラシアを驚かせてやったぜ」
どーゆーことだってばよ!
おいこらダン、何でちょっと照れてるんだよ!
「『アトラスの冒険者』って、ダンをメンバー入りさせるほど人材不足だったの?」
「ここに人材がいるだろうが」
「どんな汚い手を使った! 説明しろ! さっさと吐いて楽になれっ!」
「と、言われても家に『地図の石板』が届いた。触ったら地響きがして、チュートリアルルームへの転送魔法陣が設置された」
まあ他に説明のしようがないわなあ。
「マウさん、こんなケースってあるの?」
「冒険者を志してギルドに来ていた者が『アトラスの冒険者』に選ばれた、ということは過去にもあった。しかし上級冒険者級にまでレベルを上げた者が、『アトラスの冒険者』になるというのは初めて聞いたな」
「やっぱりダンは常識外れの子だったか」
「あんたは自分が常識外れなことを理解しろよ」
でも即戦力ではあるな。
ダンはギルドのこともよく知ってるし、特に問題点なんか思いつかない。
『アトラスの冒険者』になりたいという意欲もあった。
素直に祝うのは癪だけどおめでとう。
マウ爺が手を上げて聞いてくる。
「いや、逆に嬢に聞きたかったのじゃ。何か心当たりがあるかと」
……なくもない。
「チュートリアルルームの係員に聞いたんだけど、今の『アトラスの冒険者』は全員固有能力持ちなんだって。戦闘時に有利だからとのことで。ダンが今更『アトラスの冒険者』になったなら、固有能力が発現したからとしか考えられないなあ」
マウ爺が頷く。
「やはり固有能力持ちになった恩恵じゃろうの。ダンは以前より『アトラスの冒険者』になりたかったのじゃろ? よかったではないか」
「おう」
ダンが得意げに胸を反らす。
「どんな理由があって俺が『アトラスの冒険者』になったのかはさておき、ユーラシア、あんたに手伝ってもらいたいことが二つある」
「何だろ? 謝礼次第で相談に乗るよ」
「一つはチュートリアルルームまで付き合ってもらいたいってこと。バエちゃんって言ったか? あんた、チュートリアルルームの係員と仲がいいんだろ?」
「まだチュートリアルルームに行ってないんだ? あたしがバエちゃんと仲いいのは合ってるけど、何の関係があるん?」
「あんまり美人だと緊張しちまうからな」
「えっ?」
目が点になる。
「……あたしとふつーに喋ってるあんたがバエちゃん前にしたってどうってことないだろうけど、万一緊張して喋れなくなるダンなんて面白いネタを見逃したら末代まで後悔しそうだからついてく」
「あんたならそう言うと思ったぜ」
マウ爺が含み笑いしてるじゃないか。
よっぽど良さげな感情なのかな。
マウ爺に頭撫でてもらってるヴィルも嬉しそう。
「で、二つ目は?」
「一つ目がすんでからだな。盛大に奢るぜ」
「盛大に奢るぬ!」
やったぜ!
盛大に奢られるモードだ。
「よおし、その言葉忘れんなよ! チュートリアルルーム行こう!」
「ちょっと待てよ。ワイバーンの卵食べてからにしようぜ。絶品なんだろ?」
「おっと、忘れるところだったわ。大将、ワイバーンのフワフワ卵焼き六つ!」




