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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第282話:傾斜する運命

「これはイケるじゃねえか」

「ハッハッハッ、塔の村にネオグルメを提供したった」

「魚ってこんなに美味いのかよ?」

「おいしい魚もあるんだよ。ドーラ人はあんまり魚食べないけど、美味いものを知らないってのは絶対に損してると思うね」

「違いないなあ」


 塔の村の食堂で、その辺の冒険者達を捕まえて魚のフライを食べさせ、ちょっとした試食会になっている。

 総じて好評だ。


 クララが魚のおろし方を料理人に伝授したから、今後は食堂で食べられるだろ。

 身は塩を振って小麦粉の衣をつけて揚げた。

 ほくほくしてうまーい!

 骨は衣をつけず、身の倍くらいの時間比較的低温で揚げた。

 こっちもイケる。


「骨はもうちょっと揚げ時間長ければもっとパリパリしただろうな。身はなかなか。ねえエル、これはまよねえずが合いそうだねえ」

「ああ、そうだな」

「まよねえずとは何じゃ?」


 デス爺が聞いてくる。


「エルの国の調味料だよ。酢と卵と油で作るの。野菜につけてもおいしいよ」

「ええ? エルちゃん他所の国の人なのかよ?」


 冒険者が言う。


「そーだよ。じっちゃんが誘拐してきたんだ」

「ははあ、村長悪いやつだな? 何となくわかってたが」

「じっちゃん、顔で悪いやつだってバレてたぞ? いや、頭の輝きでかな?」


 アハハと笑いが起こる。

 おいしいものと笑いがセットになってると楽しいもんだ。


「いや、ボクは塔の村へ来ることができて嬉しいんだ。故郷のことは思い出したくもない」

「わかってるね? これ以上この件に突っ込むとセクハラでお仕置きだよ?」


 デリケートな問題だと察したか、冒険者達は何も言わず頷く。

 これでよし、エルの素性について詮索する者もいなくなるだろう。

 冒険者なんて、自分の過去に突っ込まれたくない者も多いだろうからな。


「もう魚フライねえのかよ?」

「好評につき、販売終了でーす! 販売じゃないけど」

「何だそれ?」


 もうちょっと買ってくればよかったか。

 まあ魚フライが美味いってゆー噂が流れればいいのだ。


「今後魚が海の王国から入るよ。食堂のレギュラーメニューにもなるから、どんどん注文してあげてね」

「「「おう!」」」


 塔の村は人口が少ないから、取引量としては大したことないだろう。

 でもこういうのは最初の一歩が大事なのだ。


「さて、あたしは帰るよ」


 エルは驚いたようだ。


「もうか? そろそろレイカやリリーのパーティーも戻ってくるだろうから、会っていけばいいのに」

「だってもう試食用のフライがなくなっちゃったじゃん。ハオランが無言で暴言吐きそうだから帰る」

「何だ、無言で暴言って?」


 笑いの中、転移の玉を起動し帰宅する。


          ◇


 フイィィーンシュパパパッ。

 カル帝国・山の集落に降り立った。

 うちの子達には秋の味覚狩りを任せて、あたし一人で来ている。

 ここは相変わらず風が強く、体感でかなり寒い。


 村人の一人があたしに気付く。


「こんにちはー」

「あっ、精霊使いさん?」

「そうそう、美少女精霊使いユーラシアだよ。もじゃもじゃ長老どこにいるかな?」

「アハハ。南の盆地の様子を見に行ってると思います」

「ありがとう。会ってくるね」


 南の盆地とは、あたし達が魔物退治兼肉狩りをして、村の土地として利用可能になったエリアだ。

 丸々耕作地にしたら、現在の軽く一〇倍以上の畑の面積を確保できるはず。

 その後どうなってるか気になるな。


「こんにちはー」


 髪とヒゲが互いに領有権を主張し合うような頭部を持つ老人が振り返る。

 山の集落の長老クランさんだ。

 髪とヒゲをサッパリしちゃったら、絶対誰だかわかんないだろうな。


「おお、精霊使い殿。しばらくでしたな」

「これ、ゼンさんから預かってきたパワーカードだよ」


 五枚のカードを渡す。


「これはお手数かけて申し訳なかったですな。ゼンはしっかりやっておりますか?」

「すげえ一生懸命だよ。進歩が早いの。もう基本的なのだけじゃなくて、あたしの注文を請けて作るってとこまで、工房主に任されてるんだよ。さっき渡したカードも全部ゼンさんの作ったやつ」

「ゼンは器用ですからな。元気でやってるなら重畳」


 長老が嬉しそうだ。

 あたしもゼンさんがパワーカード職人としてバリバリ働いてくれるのは嬉しい。

 もっとパワーカードが流行るといいな。


「こっちは随分整地されてきたねえ。ちゃんと畑になりそうかな?」

「それはもう。徐々にだが、来年の植えつけまでに四分の一くらいの面積は畑にできそうですぞ」

「四分の一も? そりゃすごいね」

「ハハッ、畑が増えても蒔く種が足りないですが。ニワトリも増やせるであろうし、今後の見通しは非常に明るいですな」


 うんうん、よかったよかった。

 種なんかあたしがどこかで調達してくりゃいいんだが……。


「何か変わったこととか困ったこととか、起きてないかな?」

「変わったこと、か」


 長老が頭を傾けると、髪の毛だかヒゲだかがぞろっと動く。


「……言われてみればここしばらく、役人が来ぬな。以前は季節が変わるごとに来ておったのだが」

「ここと渓谷との入り口を閉じたからじゃないよね?」


 魔物の通路になると同時に、麓へ続く道でもある。


「あそこは誰か来れば通すよう、日中は見張りをつけてあるしの。役人が来ないのは半年以上になるので、関係はなかろうと思う」


 ふむ、気にはなるが?

 あたしの懸念と直接関係があるかは何とも言えない。

 渓谷には魔物も多いから、ここまで登ってくるのはかなりの労力を要するという側面もある。


「ミスティさんはどーだろ? その後こちらへ来たかな?」

「おお、来ましたぞ。ここの盆地を見て、耕作地が増えると話したら喜んでくれましてな。今のこの集落の人数を聞いていきましたぞ」


 人数をチェックしていったか。

 やはり予想通り。

 おそらく運命は、ドーラと帝国との戦争に向かって急速に傾斜する。

 この前ミスティさんに聞いたことと繋ぎ合わせると……。


 内心を隠し、努めて明るい声を出す。


「こっちが順調でよかった。そろそろあたしは帰るね。ゼンさんに伝えたいことがあれば承るけど」


 長老はちょっと首をかしげ、ゆっくりと首を振る。


「いや、息災でやっとるなら何よりだ」


 長老はゼンさんを信じているんだな。

 ゼンさんは大丈夫だよ。

 むしろこの村の人々の方が危ないのだ。


「じゃねー」


 転移の玉を起動して帰宅する。

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