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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第279話:悪魔の親分

「ヴィル、聞こえる?」


 本の世界からの帰宅後、赤プレートに話しかける。

 本の世界のマスター、金髪人形アリスから重要と思われる情報を入手したからだ。


『聞こえるぬ!』

「今、パラキアスさんどこにいるかわかるかな?」

『パラキアスはパワーが強いからすぐにわかるぬ。ちょっと待つぬ』


 へー、パワーで判別してるんだ。

 パワーってのがレベルのことなのかステータス値のことかはわからんけど。


『レイノスだぬ。大きな役所の二階の部屋にいるぬ。その部屋にはもう一人男がいて、部屋の主だと思うぬ』


 大きな役所、つまりドーラ総督府だな?

 部屋の主であるもう一人とは、レイノス副市長オルムス・ヤンだろう。

 ドーラ総督本人の可能性もないではないが、総督はお飾り貴族だって話だしな。

 戦争が差し迫っている現在、オルムス副市長がドーラ総督と話すことはあっても、独立派だというパラキアスさんは総督に用はないと見た。


「わかった、その部屋の窓をノックして、ユーラシアが話したいことがあるって言いなさい。もう一人がオルムスさんなら一緒に聞かせて構わないから」

『わかったぬ!』


 しばし待つ。

 パラキアスさんも面白いこと好きそうだから大丈夫だとは思うが。


『御主人、準備オーケーだぬ!』

「パラキアスさん、聞こえる?」

『ああ、何か話があるそうだな? オルムスに聞かせてもいいとのことだが』


 ビンゴだ。

 やっぱりオルムスさんだったか。


「構わないよ。さっき本の世界の『全てを知る者』に、帝国の秘密兵器について聞いたんだ。『一ヶ月以内に試作機が完成予定』だって」

『試作機、と言ったのか?』

「うん、一字一句そのままで。ただ厳重な機密みたいで、『全てを知る者』もそれ以上のことは知らなかった」

『ありがとう。帝国からの交易船が滞っていてね。正直こっちで得られる情報がなくてジリジリしてたところなんだ。協力感謝する』

「いやいや。じゃ、パラキアスさんまたね。オルムス副市長にもよろしく。ヴィルありがと。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 よし、これでいいだろ。

 お肉だお肉。


          ◇


 ――――――――――同日同刻、レイノスの総督府副市長室にて。


 『黒き先導者』パラキアスとレイノス副市長オルムスが腰掛けている。

 オルムス・ヤンが呆れたように言う。


「何だい、今のは? 精霊使いはいつの間にか悪魔使いになったのかい?」

「おまけにドラゴンスレイヤーでもある。一体いくつ肩書きが増えるのやら」


 パラキアスが机の上のハーブティーに手を伸ばす。

 ハーブティーは考えをまとめるのにいい。


「以前、私に用がある時にあの幼女悪魔を連絡に飛ばすと言ってたんだ。実際に来たのは初めてだが」

「しかし、僕のことも把握してるようじゃないか」


 オルムス・ヤンは笑顔が女性受けしそうな、パラキアスと同年代の長身の男だ。

 グレーの髪をぴっちり横に撫でつけている。


「まあ大変頭の切れる子だ。君と私がしばしば会ってることも知っているんだろうよ。しかし彼女のことより……」


 パラキアスが考えに沈む。

 試作機、と言っていた。


「試作機か。オルムスはどう思う?」

「どうもこうも。試作機と言うからには乗り物なんだろう。こちらの射程外から撃ち込む長距離砲と、遠距離砲撃を可能にする大型軍船の可能性が最も高いんじゃないか?」


 パラキアスもまたオルムスと同意見だった。

 帝国の兵器と火薬はドーラよりもずっと高性能だ。

 その優位性を生かさずしてどうするというのか?


「しかし、砲撃ではドーラを降伏させる決定的な兵器になり得ぬだろう?」

「では弾の方に殺傷力を増す工夫があるのかもな。毒を仕込むとか」


 毒?

 殲滅目的ならあるかも知れないが、目的は植民地として強圧支配することだろう。

 毒など仕込むだろうか?

 あのカル帝国が?


 帝国が目指すのはまずレイノスの陥落だろう。

 レイノスを拠点化すれば作戦の選択肢は広がる。

 物資を帝国本土から運びこめるのなら、場合によっては長期戦も可能と考えるだろうからだ。


 そして西域やカラーズを個々に攻略できて、初めて帝国の完全勝利があり得る。

 ドーラとの戦争に反対する穏健派や、反帝国派の活動を丸っきり無視した、あくまで数字上の可能性のレベルだが。

 となれば何が何でもレイノスを落とさねばならぬはず……。


「方法はともかく、最短一ヶ月で帝国は攻めてくる」

「ほう、今のを丸々確度の高い情報として信じるのか。君は随分あの精霊使いを買っているんだな」


 オルムスは意外そうだが、あの異常なまでの行動力と我々の持ち得ない情報網、精霊や高位魔族まで従えるカリスマ性は評価せざるを得ない。

 あのいかにも普通の少女然とした外見と冗談口に欺かれては、本当の価値を見誤る。


「ユーラシアは既に確実にドーラの重要人物の一人だ。かなり上のクラスの」


 一ヶ月と少し前、灰の民の村で初めてあの精霊使いに会った時に、極めて印象深い子だと思った。

 しかしその後の急激な成長、もしくは台頭を少しでも予想できたか?

 できなかったのは予想を跳び越えてくる存在だからだ。

 決して敵に回してはならない。


「冒険者としてすごい、だけじゃないんだな?」

「味方として三人選べと言われたら、君とオリオンと彼女だ」

「デス殿やミスティ大祭司よりも優先順位が上なのか……」


 オルムスは衝撃を受けたようだ。

 精霊使いユーラシアには計り知れない価値があるのだ。

 運なのかカンなのか、あるいは他の要因かもしれないが、彼女はポイントポイントで現れ、重要な示唆をくれる。


「いや、ならば僕も認識を改めよう。一度会ってみたいものだ」

「遠くない未来に会うことになるだろうよ」


 オルムスの見識は政治家として得がたい資質だ。

 独立後のドーラに安寧と発展をもたらすのは彼だろう。

 オルムス以上の統治手腕を持つ者はドーラにいない。


「帝国が何をしてくるにしても、被害を最小限に留めなくてはならない。そのためにあらゆる手を打つのが我々の役目だ」

「道理だ」


 パラキアスが立ち上がる。


「さて、私は行く」

「うん、しかし君がいきなり来るのは何とかならんものかな? 僕にだって仕事があるんだが」

「仕方がないだろう。私に悪魔の手下はいないのだから」


 オルムスが首をすくめる。


「君のほうがよっぽど悪魔の親分っぽいんだがねえ……」

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