第276話:大魔道士は昼寝中
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、ユーラシアさん」
魔境トレーニングエリア北辺から急ぎ足でベースキャンプに帰ってきた。
オニオンさんが迎えてくれる。
「お疲れですか?」
「そーでもないな。でも働いたって気はする」
「ハハッ、充実してますねえ」
うむ、充実してるって大事なことだな。
次何しようっていうパワーが湧いてくるから。
「北辺はどうでしたか?」
「ちょっと探索しただけだよ。魔物も様々だけど、植物や素材もいろんなのがある。魔境の縮図だね。イビルドラゴンなんかも普通にいるから、魔境に来慣れない人は危ないと思う」
「ふむ。魔境ビギナーはベースキャンプ周辺に張りついているものですが、一応注意喚起しておくことにします」
「あ、でも人形系レアは多かったよ。ウィッカーマンも中央部より遭遇頻度高い。稼ぎたい人は狙い目かも」
「そんなのユーラシアさん達しかいませんから」
オニオンさんが笑う。
まだ魔境北辺についてはわからんことが多いけど、稼げるというのは実感した。
どうやら人形系が多いので、クララの『フライ』で北まで行って時間短縮するのが賢いだろうな。
レベルカンストしたクララの飛行魔法は結構すごいから、飛ぶ魔物も余裕で躱せるだろ。
「先ほどスキルハッカーさん達のパーティーが来てましたよ」
「ソル君達が?」
魔境行きの石板出たとかゆー話だったな。
「オニオンさんの感想はどうだった」
「思ったよりも可愛らしい少年でしたね」
「だよねえ。思わず推したくなっちゃうわ」
アハハと笑い合う。
「今日はお試し探索のようでしたね。それでも二時間ほどいらっしゃいましたよ」
「しまった、行き違ったな。何か言ってた?」
オニオンさんが顎に手を当てる。
「特には……いや、ギルドでペペさんが寝てると」
「ペペさん? あっ!」
寝てるペペさんに遠慮して起こせないんだな?
ソル君用のスキルがもうできたのか、それともあたし専用のが完成したのかもしれない。
「ありがとう、ギルド行ってみるよ」
赤プレートでヴィルにギルドへ行くよう指示する。
「じゃ、オニオンさん、またね」
「はい、さようなら」
魔宝玉は今日までの合計で、黄金皇珠二一個、羽仙泡珠一〇個、鳳凰双眸珠三個となる。
『豊穣祈念』の効果もあり、なかなか順調だ。
クエストの成果として納品するのに、恥ずかしくない数ではあると思う。
しかしこんなもんで満足していては大富豪になれないな。
期限までまだ二〇日以上あるし、問題なく魔境に来られるならかなりの数をゲットできそうだ。
依頼者がヒーヒー言うまで毟り取ってくれる。
他にあんまり忙しい仕事入りませんよーに。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
ベースキャンプの転送魔法陣からギルドにやって来た。
「やあ、チャーミングなユーラシアさん、こんにちは」
「こんにちはー、ポロックさん」
このやり取りはほっこりするなあ。
「ユーラシアさん、マスタークラスになったんだって?」
「魔宝玉が欲しくてレア魔物を狩ってたらレベル上がっちゃって」
「ああ、例の依頼かい?」
ポロックさんも期待してくれてるようだ。
頑張っちゃうぞ。
「この依頼の話すると、おっぱいさんが怖いんだよね。何でだろ?」
「ハハハ、かもしれないね。依頼者の関係でね」
ポロックさんの言質が取れた。
やっぱり依頼者に難あり? 訳あり? の案件か。
「楽しみだなー」
「楽しみか。やはりユーラシアさんは大物だね」
ポロックさんが褒めてくれるのはいつものことだ。
さて、ギルドの中へ。
あ、いるいる。
ヴィルとソル君パーティーとラルフ君パーティーだ。
「御主人!」「「「ユーラシアさん!」」」「「「「師匠!」」」」
「ちょっと待っててね。こっち換金しちゃうから」
買い取り屋さんの用をすませ、まずラルフ君の話を聞く。
「三日後の午前中にカラーズへ伺います、との父からの伝言です」
「午前中?」
「途中に聖火教の礼拝堂があるでしょう? あそこに寄進して泊めていただくことになったのです」
「ああ、なるほど。じゃあそう伝えとくよ。三日後はもちろんあたしも行くから」
さて、次はソル君だ。
「どうせペペさんが寝てて起きないとかなんでしょ?」
「はい。気持ち良さそうなので……」
わかる。
ペペさんは見かけが幼女っぽいので、起こすの気が引けるんだよな。
かといってあたしは手加減しないが。
スキル屋ペペさんの店へ。
『ソール様、スキルできてます』という札がかかっている。
ははあ、あたしのじゃなかったか。
ソル君パーティーと打ち合わせる。
「じゃ、いくよ? せーのっ!」
「「「「たのもう!」」」」「たのもうぬ!」
「ふああああっ?」
突っ伏していた店主が飛び起きる。
いつものことながら薄緑の前髪が変な跳ね方して、口紅が頬っぺたまでべろんとなってる。
「うーん、ギルド来る時は口紅やめておいた方がいいんじゃない?」
「そお?」
袖でゴシゴシしているペペさん。
紫のローブだと口紅あまり目立たないんだな。
「ソル君のスキル完成したんだって?」
「あっ、そうそう」
荷物からゴソゴソ一本のスクロールを取り出す。
「じゃじゃーん、『衝波五月雨連撃』! バトルスキル『五月雨連撃』に衝波属性を追加したものでーす! 使用コストはおんなじ!」
「へー、『五月雨連撃』の完全上位互換?」
「いえ、刺突属性が衝波属性に置き換わってるのよ」
『五月雨連撃』の出番で普通に使える上、人形系レア魔物をも一掃できる、極めて利用価値の高いバトルスキルだ。
さすがペペさんだな。
「『スキルハッカー』の固有能力持ち限定スキルよ。普通じゃ習得要件を満たさないから」
「ありがとうございます!」
「よかったねえ」
アンセリも嬉しそうだ。
結局冒険者としての成長度合いはレベルが重要だ。
人形系をまとめて倒せる『衝波五月雨連撃』覚えてりゃ、レベルアップに困ることないだろ。
魔境探索が捗る捗る。
「ペペさんもユーラシアさんも、本当にお世話になります」
「おっと、礼を言うなら実績で返してもらわないと!」
「そうよ、アートでロマンでドリームなスキルの報酬は、アートでロマンでドリームじゃないとダメよ!」
「で、実際のお値段は?」
「三〇〇〇ゴールドになります」
値段まで普通の『五月雨連撃』と同じじゃん。
相変わらずペペさんの値付けはよくわからねえ。




