第273話:煽ってるとしか思えない
フイィィーンシュパパパッ。
「おーい、じっちゃーん、エル!」
海の王国から帰還して、急ぎ塔の村にやって来た。
まあデス爺の頭は気の毒なほど輝かしいから、少々離れたところからでもすぐ見つかる。
あれ? 塔の村は雨降ってないのな。
あたしん家はまだ降ってるのに。
「おお、ユーラシアよ」
「心外だなー。今日のは昼御飯を邪魔したエルが悪い」
「いや、うまく事を収めたとのことなので、たまには褒めてやろうと思ったのじゃが」
珍しいな。
いつもこのパターンは、何だかんだと文句言われる流れだったから。
「じっちゃん、褒めるのはたまじゃなくてもいいんだよ。褒めてくれるなら形にしてくれると嬉しいかな」
「残念じゃが、嬉しがらせることはできないようじゃ」
「可愛いあたしを褒めるところなんてたくさんあるじゃん。遠慮せずにほれほれ」
「余計なことは口にせずともよい」
「余計じゃなくて重要なことだぞ? 人は褒めれば伸びるもんなのだ。人材育成の観点からホニャララ」
「最後まで頑張らんかい」
デス爺との掛け合いを聞いていたエルが笑う。
焼き肉パーティーをいつにするか決めなくちゃいけない。
「エルから話聞いたかな? 海の女王のとこで焼き肉パーティーやるんだけど、いつがいい? 女王はいつでもいいけど早めがいいって言ってた」
「明後日の昼はどうじゃ?」
「オーケー、そう伝えとく。エル、コウモリ肉持参でよろしく」
「ああ、わかってる」
「ユーラシアよ。少々人数が増えても構わんかの?」
「海底の城は広いよ。お肉の量さえ足りてれば女王は気にしないと思うけど」
コモさんでも連れてくるのかな?
ならばチラッと交易の話もしておくべきか。
「ドーラの今後を考えると、魚人勢力とは仲良くしとくべきじゃん?」
「可能であればな」
「可能なんだよ。で、海の王国が、というより女王が地上との商売に前向きなんだ。でも魚人がいきなりレイノスとの取り引きなんてムリじゃん?」
「ハハッ、レイノスの亜人嫌いは相当じゃからの。ドーラの人口は少ないのだから、上級市民どもの排他的な思考は邪魔なのじゃが……」
デス爺もそう思ってるのか。
亜人排斥だけじゃなくて、今後移民が多くなった時に上級市民の選民思想はドーラの発展を妨げると考えてるみたい。
「手始めに塔の村と交易はどうかなってことなんだけど」
「うむ、ユーラシアよ。よくやったではないか」
「えへへー。例えば塔の村からは何が売れるかな?」
「ふむ、素材の類は消費するから難しいの。塔で取れる魔物肉、ポーション、マジックウォーターくらいか」
「女王から商売の話が出るかもしれないからよろしくね」
「うむ。覚えておこう」
これでよし。
規模の小さい取り引きであっても、商売はまず始めることが大事だ。
「エルにこれあげる」
パワーカード『ポンコツトーイ』を四枚取り出す。
「魔物倒した時の獲得経験値を五割増しするパワーカードだよ」
「ありがたいな。ユーラシアのパーティーで余ってるカードということなのかい?」
「うちのパーティーは皆、レベルカンストしたから、もうこれは必要ないんだ」
エルが驚く。
「レベルカンストって……」
「何故お主はそれほどまでにレベルアップが早いのじゃ?」
「今、黄金皇珠以上の魔宝玉を持ってこいっていうクエストを請けてるんだ。デカダンスやウィッカーマンとかの人形系レア魔物倒しまくってるの。レベル上がる上がる」
デス爺は疑問に思ったようだ。
「高級魔宝玉をドロップせぬから倒しまくっているということか?」
「いや、この依頼個数制限がないんだよ。相場の五割増しで引き取ってくれるって言うから、一〇〇個くらい納めて大富豪になってやろうと思ってるの」
デス爺とエルがあんぐりと口を開けている。
変わったパフォーマンスだな。
「ユーラシアはいつも楽しそうだな……」
「楽しいけれども」
能天気みたいに言われるのは心外なんだが。
「無謀な依頼を出したのはどこの誰じゃ?」
「わかんないんだよね。依頼者の情報は秘密みたいで」
「む、さようか」
デス爺が何か考えている。
「いや、この依頼一度断ったんだよ? 魔宝玉たくさん持ってったら対価を払えないだろうって。そしたら個数無制限で改めて依頼してきたの。あたしとしては請けざるを得ないじゃない?」
「煽ってるとしか思えない……」
煽るつもりじゃなかったんだけどな。
結果としてはボーナスゲームになったけれども。
「あ、じっちゃん。アルアさんのところに転移石碑あるじゃん? あれの大地から魔力を集めるのってマルーさんの技術なのかな?」
途端にデス爺が顔を顰める。
「魔力吸収の技術に興味があるのか。言っておくが、あれには黒妖石という鉱物、しかもかなり大きいものがないといかんのじゃ。滅多なことでは手に入らぬ」
「黒妖石は確保してあるんだ。亜人の遺跡で結界の維持に使われてたやつを見つけたから、購入予約してあるの」
「ユーラシアは抜け目がないな」
感心するところだろーが。
どーして二人して珍獣を見るような目で見るのだ。
「……マルーの異名を知っておるか?」
「『強欲魔女』」
「とんでもない業突く張りじゃぞ。一生知り合いになぞならないほうが幸せじゃ!」
「あたしの知り合いの冒険者も同じようなこと言ってた。でもじっちゃんにそこまで言わせる人って、却って興味が湧くんだけど」
嫌々ながらデス爺が続ける。
「大地から魔力を吸い出す技術は確かにマルーのものじゃ。固有能力鑑定と魔力操作に関する知識において、あやつは他の追随を許さぬ」
「マルーさんって鑑定もすごいんだ? シバさんも一流だなーって思ったけど」
「シバ殿もなかなかじゃな。固有能力には未だ発現せぬ状態のものがあるそうな。それが何なのかを知り、発現させる条件を知る者はおそらくマルーだけじゃ」
シバさんは素因の種類はわからんって話だったし。
デス爺に嫌われながらここまで言わせるマルーさんもすごい。
「わかった、ありがとう」
「マルーに関わろうとするなら、まっこと気をつけねばならんぞ」
「やだなー、まだ知り合ってもいないんだよ?」
でも近い内に会うことになる気はするんだけど。
あたしのカンは当たるからな。
「じゃあ、あたし帰る。明後日楽しみにしてるよ」
転移の玉を起動して帰宅する。




