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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第272話:友達ならありがとう

 海の王国の歴史について、エルに丁寧に教える。

 一〇〇年ほど前に女王とヒバリさんとの間に結ばれた協定と、現在に持ち越す女王の敵対戦力の存在を。

 特にエルは異世界人で、ドーラの事情にも詳しくないだろうから。

 逆に先入観や偏見なしで、素直に情報を受け取ってくれるんじゃないかと思うのだ。


「……ってことで、海の王国の領海に侵入すれば自動的にパトロール隊に攻撃される。女王にも事後の報告しかなされない」

「し、しかしあんまりの理屈じゃないか!」

「エルがそー思うのもわかるけど、一方の理屈だけでは片付けられないんだよ。海の理屈からすると、可哀そうな少女達の乗った船は、戦時警戒中に不法侵入した不審船でしかないんだ。沈められるだけの理由はあった」

「……」


 厳しい言い方だっただろうか?

 黙り込むエル。

 女王もまた憮然とした様子でエルに話しかける。


「いや、わらわにとっても少女達の無念は不憫じゃ。ゴーストはどうしてくれと言うておるのじゃ? できるだけのことはしてやりたい」

「……彼女らはカル帝国の国民だった」


 ドーラ人だったら間違っても海に船で乗り出そうなんて考えないだろうからなあ。

 いや、帝国船だってドーラ近海の危険さは知っていただろうけど、レイノス港の位置を見失って彷徨っていたのかもしれない。

 エルが気重げに言葉を続ける。


「……積み荷の中に、一度も袖を通すことのなかった舞台衣装があるんだそうだ」

「舞台衣装?」

「彼女らは芸能の志望者で、できればそれを返してもらいたいと……」

「遺体は海岸に埋めたが、船は丸々残してある。探せば積み荷もあるはずじゃ」

「えっ?」


 女王にとっても悔いの残る事件だったんだろうな。

 あたしには無念の気持ちがわかる。

 だって女王商売人だもん。

 交易を進めて海の王国を発展させたいだろうに、地上のノーマル人と揉めて得することなんかないから。


「こちらへ」


 女王と衛兵達に六番回廊の先の倉庫のような場所に案内される。


「この船じゃ」

「大きい船だなー」

「……これが四六人の少女達が乗っていた船、か」


 大穴が開いてはいるが、船体はバラバラとは程遠い。

 なるほど、これなら積み荷が残っていても全然不思議ではない。


「衛兵達よ。舞台衣装が入っているという積み荷を探せ」

「「「はっ!」」」


 こんな大きな船が積み荷も暴かれずそのまま残っているのだ。

 海の王国がお宝狙いの海賊行為のために無差別襲撃を行っているわけではないと、エルも理解しただろう。

 舞台衣装はすぐに見つかった。

 在りし日には煌びやかな衣装であったろう、儚い夢の残り香だ。


「持って帰ってたもれ。ゴースト達が少しでも無念を晴らせるなら、わらわも嬉しい」

「……協力を感謝する」


 女王とエルが握手する。

 二人とも照れたような笑顔になる。

 いい雰囲気のシーンだなあ。

 女王が言う。


「一件落着、でいいかの?」

「そーはいくか!」

「「えっ?」」


 あたしから文句が出ると思わなかったか。女王とエルが驚く。


「これで決着じゃ、海の王国側が譲ってばかりじゃないか。エルの側も譲りなよ」

「き、君はどっちの味方なんだ!」

「どっちの味方とかじゃない。対等な関係でトントンにしようぜってことだよ。でないと遺恨が残っちゃうでしょ?」


 女王が遠慮がちに口を出す。


「ユーラシアよ、おんしの気持ちは嬉しいが、よいのじゃぞ。あの事故はわらわの心にずっと棘刺していた件であったし……」

「お詫びのしるしとしてお肉持ってこい!」

「そうじゃ、肉持ってこい!」


 女王、あんたの変わり身の早さも好感持てるよ。


「肉?」


 戸惑うエル。


「お肉。正確にはおいしいお肉だな。不味いやつはお肉の範疇に入らない」

「うむ。美味い肉がよい」

「さっきから二人して肉肉って……」

「女王はお肉大好きなんだってば。でも海底じゃなかなかお肉が手に入らないでしょ? 塔のダンジョンで手に入るおいしいお肉って何?」


 もう塔の村でもダンジョン産のお肉が出回っているはずだ。

 食べたことないやつなら、あたしだって食べたいしな。


「レイカがいつも狩ってくるのはタワーバットだけど……」


 クララが言う。


「洞窟コウモリの近縁種です。肉質も似ています」

「女王、サッパリした美味いお肉だよ。ぜひ持ってこさせよう!」

「そうかっ! ではタワーバットを所望する!」

「ま、まあ肉でけりのつくことなら」


 エルも納得したようだ。


「今度責任者としてデス爺連れてきてよ。あたしもコブタ肉持ってくるから、手打ち式を兼ねて焼き肉パーティーしようぜ!」

「楽しそうじゃのう!」


 うむ、パーティーは楽しいのだ。

 女王も乗り気だな。


「デス爺というのは塔の村の村長なんだ。来れば交易の話ができるよ。魚売ろう!」

「おお、なるほど。おんしは賢いの!」

「塔の村もお肉や薬草、その他アイテムなんかを売れるからウィンウィンだ。これこそ互いにとっていい関係ってやつだよ」

「修好に前向きということだな? 今のを丸々ハゲ爺に伝えておけばいいか?」


 うーん、手打ち式を行うのは早めのがいいんじゃないかな。

 あたしがデス爺に直接言えば、海の王国の事情を詳しく説明できるだろうし。


「いや、あたしも塔の村行って日を決めて、あとで女王に伝えるよ。エルは先に帰ってじっちゃん捕まえといてくれる?」

「ああ」


 エルがデス爺製の転移の玉と思われるものを起動し、積み荷を携えて塔の村に帰っていった。

 あれは『アトラスの冒険者』の転移の玉を参考にしているのかなあ?


「で、お肉の宴はいつがいい? 女王の都合に合わせるよ」

「海底は暇ゆえいつでもよいが、できれば早いほうがよいかの」

「だよね。じゃ、あたしは一旦帰る。向こうの予定聞いたら報告しに戻ってくるよ」

「ああ、ちょっと待った」


 帰りかけたあたし達を女王が止める。


「今日はすまなかったの。客人の手を借りねばならんとは」

「友達だからだよ。地上と海の王国はもっと交流があるべきだと思うし、あたしが好きでやってることだからいいんだ。それより大事にならなくてよかった」

「友達か……」


 女王も嬉しそうだ。


「ありがとうの」


 すいません、すみませんは他人行儀な気がする。

 友達ならありがとうであるべき。

 あたし個人の拘りではあるが。


「うん、じゃあね」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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