第271話:精霊使いVS精霊使い
「確認してまいります!」
一人の衛兵が銅鑼の鳴った回廊に駆け出していく。
あたし達が来た方向じゃないな。
どこに繋がってる回廊だろ?
ピリピリした緊張感が漂う。
「銅鑼ってあっちこっちに設置してあるんだ?」
「本来は警報じゃからな。すまんの、せっかく来てもらったのに騒がせて」
「いいんだよ。あたしもトラブルがあったほうが楽しめるし」
「おんしらしいの」
女王が笑いながらも警戒を解かない。
一体何だろう?
「こういうことってしょっちゅうあるの?」
「しょっちゅうあれば、衛兵がたるんどらんでいいかもしれぬの」
「あはは!」
あたしが銅鑼を鳴らした時に女王が真っ先に出てくるくらいだもんな。
当たり前だけど、警報が鳴るなんてあんまりないことなんだ。
マジで何事だ?
「困りごとなら手を貸すよ」
「客人の手を煩わすわけにはいかぬ、と言いたいところじゃが、もしもの時は頼むぞよ」
海の王国には敵対勢力があるという話だった。
攻め寄せてきたとなれば大戦になる可能性がある。
待てよ、海で揉めると帝国の艦隊が入り放題になる可能性があるわけか?
地上のドーラ人にとっても他人事じゃないな。
魚人兵士が駆け寄り注進する。
「敵襲です! 地上からです!」
「地上?」
大型魔物でも乱入したか?
「冒険者の得意分野っぽいな。あたしらが打って出る!」
客であるあたし達に迷惑をかけることを躊躇ったようだが、すぐさま事態解決が先と判断したようだ。
「任せた。地上と連絡しておるのは七番回廊じゃ!」
「オーケー! 今騒いでるのが陽動で、本隊が別のところから急襲してくるってこともあり得るから、女王も油断しないでね」
「わかっておるぞよ!」
衛兵達とともに『七』のナンバープレートのかけられた回廊を急ぐ。
「海底の城って地上から近いの?」
「近いです。ノーマル人達がまばらに住む地上エリアの沖、二バークーンくらいです!」
衛兵が答えてくれるが、バークーンって何だ?
魚人の距離の単位わからねえ。
ノーマル人がまばらに住むというと西域っぽいな。
回廊を真っ直ぐ進むと、騒ぎの音がハッキリ聞こえるようになってきた。
確かに近い。
現場に駆けつけ名乗りを上げる。
「精霊使いが助っ人に来たぞお!」
「ユーラシアじゃないか!」
「え?」
何と向こうも精霊使い、知った顔でした。
塔の村の冒険者エルのパーティーだ。
「エルは何しに海底へ?」
エルも戸惑っている。
「ユーラシアこそ、ここで何してるんだ?」
「あたし達は昼御飯食べに来たんだよ。女王と友達だから。今日雨降ってるんで、他に遊びに行く適当なところがないじゃん?」
「え? よくわからない。まあ君のことだから色々あるんだろうけど」
「塔のダンジョンは雨降ってても関係ないもんな。いい遊び場が近くにあっていいなあ」
あたしの闖入で場の殺伐とした空気が困惑に変わる。
雨降った時は、塔のダンジョンに潜る手はあるなあ。
あっちにまであたし達が手を出すのは違う気もするけれども。
「よーし、とにかく双方武器を収めようか。この場は女王とエルの双方の友人であるあたしが預かるよ!」
他に適当な解決手段もなかったか、自然とあたしが仕切ることになった。
「女王のところ行くよ! エルの言い分も聞こうじゃないか」
魚人の衛兵達を引き連れ、エルとともに回廊を中央へ戻る。
「大体どうして君は海の女王と友達なんだ?」
「海に魔法撃ち込んで知り合ったんだ。女王はお肉が好物だからさ、時々お肉持って遊びに来てるの」
エルは首を振る。
「さっぱりわからない」
「海底って変化がなくてつまらないらしいんだよ。女王も退屈を持て余してて。興味をそそる対象としてあたしに白羽の矢が立って、呼ばれたってことだと思う」
「ああ、わかる気がする」
「だから女王が好きなお肉をお土産にするんだよ。お肉は友好の懸け橋」
「……」
失礼なこと考えてるだろ?
最近そーゆーのわかるんだぞ?
「エルが海底に攻め入ることのがわからないよ。えらく乱暴じゃないか」
隊長格の衛兵が言う。
「ノーマル人がこの出入口を知っているというのが解せませぬな。一〇〇年近く使われていなかったと聞いておりますが」
「そーなんだ?」
エルが沈痛な表情で話す。
「ゴーストが教えてくれたんだ」
「「ゴースト?」」
エルが頷く。
何それ?
オカルト案件だったの?
「一〇年ほど前、この付近の海で沈められた船があったんだそうだ。その船に四六人の少女が乗っていた。最近、彼女らがゴーストとなって海岸に現れる。無念を晴らしてくれと」
「ふーん、ゴースト化しちゃったのか。可哀そうな話だねえ」
……思ったより深刻な事情が絡んでるじゃないか。
茶化す隙がない。
「義憤に駆られてエルが攻め入ったってことか。理由はわかった。でも感情的になるのはやめよ? 解決にならんから」
「ああ、わかった」
エルもかなり落ち着いたようだ。
隊長格の衛兵の緊張感もやや解けたように思える。
「ちなみに塔の村から近いの?」
「塔の村から南の斜面を下ると海なんだ。海岸の岩場に海底城への入り口が隠されていた。塔の村からここまでは強歩一時間強だと思う」
「なるほど」
えらく近いな。
なら海の王国と地上との交易は塔の村と始めるのがいいかも。
使ってなかった回廊が商売に使えるなら万々歳だろ。
色々考えている内に女王のいる大広間まで来た。
「不届きな賊を捕えたか!」
「ではなくて、攻めてきたのもあたしの友達なんだよ。そっちも言い分があるから、一緒に詳しい話聞こうかと思って」
「む? ……まあおんしがそう言うなら」
不承不承ながら女王も怒りを収める。
「席用意してくれる?」
すぐさま円卓と椅子が用意され、あたしと女王、エルの鼎談の形になる。
「手早くいくよ。じゃあまず……」
女王に一〇年ほど前にあったという海難事故の話をする。
「よう覚えておる。無残な事故じゃった。あの時の少女達はゴーストとなってしまったのか……」
「事故ですませるつもりか!」
エルが怒るが、あたしが割って入る。
「いや、海には海の事情があるんだよ。女王が悪いんじゃないんだ」
「事情?」
首をかしげるエル。
「海は準戦時体制なんだよ」
「どういうことだい?」
エルも女王も聞く耳はある。
せっかくの機会だ。
このピンチをチャンスに変えてやろう。
女王を肉で餌付けしてるんだな、とエルは思っていました。




