第270話:グオングオングオングオングオングオーン!
――――――――――六三日目。
フイィィーンシュパパパッ。
今日はダンテの予報通り雨だ。
本の世界でコブタを狩ったあと、海の王国にやって来た。
地上が雨の時は、あたし達もやることなくて退屈だ。
『アトラスの冒険者』になる以前よりはマシだけどな。
前はマジで本読んでるクララをぎゅーするくらいしかなかったから。
今後も雨の日は女王のところにお肉を食べに来たい。
女王もお肉食べたいだろうからウィンウィンだろ。
さて、銅鑼の前に立つ。
こやつはどーして叩けと言わんばかりの形をしているのか?
……ってゆーと銅鑼がマゾ的存在っぽいけど。
「えーと、一回だけ鳴らせばいいんだっけ?」
「そういう話でやしたね」
一回、一回ね。
じゃあいくか。
どーしたクララ、目で念を押してくるな。
あたしはちゃんとお約束のわかってる子だわ。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「これ、すごくいい音だよねえ」
「イッツビューティホーサウンドね」
「でもユー様、それは一回ではなく一息なのでは?」
「見解の相違だねえ」
ダンテが『ワンタイムとは?』って自問自答してる気がする。
「肉かっ!」
女王が転げ出てくる。
「その通りだ! お肉だ! 一緒に食べよう!」
「やったわい!」
ヒラヒラと舞い踊る女王。
いつも思うけど、衛兵出てくるの遅くない?
女王が衛兵に指示する。
「これを調理場へ運んでたもれ」
「「「はっ!」」」
衛兵達がうんとこどっこいコブタマンを運んでいく。
「今日はともに肉を食しに来たんじゃな?」
「うん」
「おお、楽しみじゃのう!」
これ一緒に食事するのが楽しみなのか、それともお肉が楽しみなのかどっちだろうな?
女王が聞いてくる。
「おんしらは、肉が取れるとここへ来てくれるのかの?」
「いや、ここに来る時に狩ってくるんだよ」
「ほう、腕が良いのじゃの。さすがは『アトラスの冒険者』じゃ」
「『アトラスの冒険者』が全員いい狩場を持ってるわけじゃないんだけどね。あたし達お肉については恵まれてるんだよ」
「素晴らしいではないか」
女王の言う通りだ。
いつもお肉を狩れるのは素晴らしいことだな。
何故ならミートは乙女心にジャストミートするから。
「して、何かきっかけがあって海底に来るのかの?」
「雨が降ると来たくなるかな」
「雨、とは上から水が降る現象じゃったか?」
雨は通じづらいか。
海底じゃ雨降らないもんな。
「うん。地上では雨降ってない状態がデフォルトで、たまに雨が降る感じなんだ。雨降らないと植物が育たないし、飲む水にも困っちゃうんだけど、地上の人間は水に濡れるのあんまり好きじゃないんだよね。だから雨だと家から出ないことも多いよ」
「ほう、そういうものか」
「雨降るとお肉狩って女王んとこ行くかーってなる。ここだと濡れないじゃん?」
女王が切れ長の目を興味深げに一層細める。
「ふむふむ、海の文化は水とともにあるでの。違うものよのお」
地上と習慣が違うとゆーことはあるな。
水とともにある文化と言えども、やっぱり海底の城だと外に出るのは億劫なんじゃないだろうか?
初めてここに来た時も、女王が暇だから呼ばれたって話だったし。
クララが声を上げる。
「女王様、お肉が来たようですよ」
「おお、来たか、ささ、皆」
「「「「「大地と大洋の恵みに感謝し、いただきます!」」」」」
女王の指示だろうか、今日は焼き肉というより炙り肉だな。
あれ、炙りのほうが美味いぞ?
脂が落ちてる分旨みがシャープで、香ばしさがいい感じなのだ。
「最高に美味いなー。フルコンブ塩で食べる時は脂落とすのがいいねえ。塩が引き立つよ。この食べ方は覚えておかねば」
「ほう、脂を落とさぬのが美味い焼き肉もあるのかの?」
「醤油って調味料があってさ……」
焼き肉のタレの話をする。
「女王の口に合うかはわからないけど、そっちもかなり美味いんだ。焼き肉のタレだと、しっかり脂乗ってる方がパンチがあっていいんだよ。炙り焼きよりも鉄板焼き向き」
「ふむ、さすがに獣肉の食べ方については地上に一日の長があるの」
「でも食べ方に拘ってる人、ドーラにはあんまりいないみたいなんだよなー」
「何故じゃ? 美味い肉は美味く食すべきではないか」
「実にもっともだな。多分ドーラがビンボーだから、食文化に力を回す余裕がないんだと思う」
女王も楽しげですね。
「醤油や焼き肉のタレは手に入ったら持ってくるね」
「すまんの。地上はいいのう、肉が豊富で」
「うーん、ところがそうでもないんだよ」
女王は意外そうだ。
「何故じゃ?」
「例えばこのコブタマンは魔物のお肉なんだ。でも普通の人は魔物なんて狩れないじゃん? もちろん家畜のお肉もあるけど高級品で、お金持ちの口にしか入らないの。地上でもお肉は御馳走なんだよ」
「そうじゃったか」
「冒険者になって一番よかったことは、お肉を自在に狩れるようになったことだな」
女王が頷いている。
「本当は他にもおいしい魔物肉があるんだ。でもその地域の人達の貴重な食料になってるお肉は狩りづらくてね。減っちゃうと困るでしょ? コブタ肉だけは狩り尽くす心配がないから、気楽に持ってこられるけど」
「なるほど、考えるべき問題があるのじゃのう」
「やっぱ家畜を増やすべきだな。お肉を安く安定的に手に入れられるようにしなくちゃならん」
であれば海の王国と交易が始まった時、女王もふんだんにお肉を購入できるだろうし。
「ところで女王は、お肉以外の地上の食べ物には興味ないのかな?」
「あるぞよ。肉よりおいしいものがあるのなら、ぜひ紹介してたもれ」
「お肉より美味いものって言われるとハードル高いなー。ジャンルが違うものなら」
あんまり海底には甘い食べ物がない気がする。
ただ炙り肉フルコンブ塩は女王でもあたしでもおいしいわけだし、そう味覚が違ってることはなさそう。
いずれ砂糖たっぷりのお菓子や、果物みたいなものを食べさせてあげたいものだ。
あたし達でも簡単に手に入れられるものじゃないんだが。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
不意に鳴り響く銅鑼の音。
中にいると結構反響するとわかった。
ガンガン鳴らさなくても聞こえるわ、これ。
「何事じゃ!」
女王の鋭い声。
やっぱこれ警報っぽいな。
鳴らすと衛兵も出てくるもんな、遅いけど。




