第268話:運び屋の価値
フェイさん眼帯男サフランのレベルが三〇を超えたところでレベル上げを打ち切った。
一応上級冒険者の目安となるレベルだし、こんなもんだろ。
フレンドであるピンクマンのホーム、黒の民の村に転移する。
ピンクマンが天を仰ぐ。
「こんなに簡単にレベルを上げられるとは」
「あんたは知ってたでしょ」
「常識が小生の認識を阻害するのだ」
何だそれは。
あたしが常識のない子みたいじゃないか。
「どうだった? 強くなったの実感できると思うけど」
「うむ、全然違うな。スキルも覚えた」
ピンクマンによると、フェイさんは習得スキルからして『格闘』の固有能力持ちだろうということだ。
拳士っぽい固有能力で、フェイさんにはピッタリだ。
「オレッチも強くなったァのはわかりやァす。でもスキルはねェです」
「でも眼帯君も何かの固有能力持ちだからね。機会があったら調べてもらうといいよ」
「わかるのか? 『鑑定』の固有能力は持ってなかったろう?」
「レベルが上がったらカンが働くようになったんだよ。固有能力の種類まではわからないけど。ちなみにサフランも固有能力持ちだよ」
「ああ、だからレベル上げに連れてきたのか」
サフラン連れてったのは固有能力持ちだからじゃないけどニヤニヤ。
眼帯男が聞いてくる。
「固有能力とはァ何です?」
「その人の持つ能力の個性だよ。例えば魔法を使えたりとか、ある状態異常にかからないとか。あたしの『精霊使い』もそう。四、五人に一人しか発現しないんだって。あんたも固有能力持ちだから、しっかりフェイさんの言うことを聞くんだよ。有能なナンバーツーになれるからね」
「へい!」
「サフランはどうだった?」
「あの、魔法を覚えました」
魔法系の固有能力持ちだったか。
「どんな魔法?」
「一つだけですけれども。ユーラシアさんの使う『リフレッシュ』という……」
「「え?」」
あたしとピンクマンが同時に声を上げる。
「これかなりレアな魔法だって話だよ?」
「冒険者なら引っ張りだこだ。しかし『リフレッシュ』の習得には、運のパラメーターは関係ないようだな。条件が謎だ……」
おーおーピンクマンが関心持ってくれて嬉しそうだな、サフラン。
「こうやってレベル上げとけば、盗賊を恐れる心配はないと思うんだ」
「でもこんなに簡単に強くなれるなら、盗賊も同じなのではないですか?」
ピンクマンが慌てて言う。
「いや、レベルを上げるのは簡単じゃない。普通の冒険者が三〇まで上げるとなれば、強い意志と行動力を持っていても一〇年近くはかかる。ユーラシアのやり方がおかし、いい意味でおかしいんだ!」
「うーん、ギリギリセーフ」
でも『いい意味で』って言っとけばいつも許されると思うなよ?
「オレッチが思うにはァ、あのデカブツを倒しまくればァいいんじゃァ……」
「理屈としては正しいんだが、普通の人間はまず魔境に来られない。それにデカダンスをあんなに簡単に倒せるのはユーラシアだけなんだ」
フェイさんが苦笑する。
「うむ、まずは礼を言おう。しかし他人のレベル上げがユーラシアの専売特許なら、これを商売にしてもいい気はするな」
フェイさん、わかってて言ってるだろ?
言わせようとしてんだろ?
「いや、商売にしちゃうと、おゼゼには逆らえないからね。悪そーな人がレベル上げしろって言ってきたら困るし。あんた達をレベル上げしたのは信頼してるからだよ」
眼帯男とサフランの顔がわかりやすく紅潮する。
フェイさん策士だよなあ。
「アターシ頑張ります!」
「オレッチも!」
適当でいいからね。
見ろ、フェイさんのあの笑いが悪い顔だ。
あたしのキメ顔は大して悪くない。
「さて、交易の運搬に関しては黄の民が行うでいいのか?」
「黄が主体でやって欲しいけど、各色合同の方がいいかな」
「パワーバランス的な意味でか?」
「いや、安全上の問題で」
各部族間のパワーバランスについては気にしなくてもいいと思う。
事実あたしやピンクマンは高レベルだけど、だからといって灰や黒の民がブイブイ言わせてるわけじゃないしな。
「あたしの見たところ、黄の民は状態異常耐性が総じて低いんだよね。全員眠らされて積荷奪われたなんてことは困るから」
「なるほど、考えねばならんことだな」
掃討戦の時に『激昂』食らってたフェイさんには身に染みる話だろう。
もっとも黄の民独占じゃない方が、輸送の責任を分散できていい気はしている。
「できれば輸送隊メンバーに魔法使える人がいた方がいいんだけどな」
「でしたらアターシが」
「サフランは調味料ラボで全力尽くしてもらわないといけないからダメ」
どうせパワーレベリングするなら、固有能力持ちだとお得感があるからそうしたいもんだ。
でも人選は難航しそう。
サフランみたいに、条件は合致してても他で活躍してもらいたい人もいるし。
「まあ、万全を期すればということだろう?」
「そーだね。考え得る限り安全なら、少々高くても輸送頼んでくる人はいるんじゃないかと思うんだけどな」
将来的な話だが。
フェイさんも運び屋そのものの価値に気付いたらしい。
「ふむ、面白い」
「護衛を別途冒険者に依頼するより安上がりだとなれば特にね。まあ最初から完璧を求めてもしょうがないや。まだ先でいいけど、黄の民で信頼できて運び屋やる気ある人リストアップしといてよ。その中でできれば固有能力持ちを育てよう」
「心得た」
全員固有能力持ちで高レベルの輸送隊って、かなりすごくない?
「じゃ、あたし達帰るよ。商人さんが来る日程決まったらまた連絡するから」
「おう、頼んだぞ」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「ダンテー、明日雨なんだよね?」
「イエス、ボス」
干し柿取り込んでおかないと。
さて、明日はどーすべ?
「明日はお肉持って海の王国行こう」
「「「了解!」」」
雨降った日は濡れない海底がいいな。
女王もお肉食べたいだろうし。
あとやんなきゃいけないことは……。
「ユー様、まだ日が落ちるまで時間がありますがどうしますか? 先にコブタマン狩りに行ってもよろしいですが」
「いや、明日狩ってから海の王国行きだな。あたしちょっと気になることがあるんで、今から聖火教の礼拝堂行ってくるよ。あんた達はゆっくり御飯の用意と海岸のチェックしといてくれる?」
「「「了解!」」」




