第265話:どいつもこいつも
黒の民のクロード族長は協力的じゃないか。
やりやすいなー。
この調子でカラーズをまとめていけばいい商売ができそーだ。
「最初参加する全村の族長と商人さんの顔合わせのあと、各村が個別で交渉って形になると思う。全体の雰囲気として、仕方ないからお前に売ってやるっていうふうに持っていきたいんだよね」
「値切らせないためにか?」
「うん。でも高きゃいいってものでもないよ。調味料は普及させなきゃ意味ないじゃん? 高いとより安く商品を提供するライバルを生みやすいってこともある。よーく考えて卸す価格を決めて。もっと言うと希望小売り価格も指定するといい。黒の民で一番外の世界を知ってるのはピンクマンだから、よく相談して」
サフランとピンクマンの絡みも多くなりそうだなあニヤニヤ。
笑顔を崩さず続ける。
「黒の民のフードは表情を読ませないために有効だよ。黙ってりゃいい感じだから。でも仕草に出す謎コミュニケーションあるでしょ? あれはなるべく控えて。読まれると与し易いと思われるよ」
「わ、わかった。しかしその顔やめてくれんか。怖いんだが」
何であたしの笑顔は怖いとか悪いとかって言われるんだろ?
世の中ミステリーに満ちている。
お供のサイナスさんが笑いを堪えているんだが。
まったく失礼な。
「呪術グッズの展開は本当に焦らなくていいからね。工房の処理能力もあるし、品質落としたら命取りだよ」
「う、うむ」
「黒の調味料は戦争の関係もあって、あたしも商人さんも優先順位が高いんだ。マジで売る気でいるから、とっとと増産しろって話にすぐなると思う。どこに新しいラボ作るかサフランと相談して早めに決めといて」
言いたいことだけ言った。
こんなもんだろ。
さいならー。
◇
「黒の民は悪魔に抵抗ないんだったっけ?」
悪魔や天使に馴染みがあるみたいな話を以前聞いた。
ドクロや呪術が好きだったり、黒の民っておかしなやつらだなあ。
「らしいね」
「せっかくだからヴィルを連れていけばよかったか」
「まあ今日は交易の話だったからな。気が散る要素があったらどうだろうか?」
ヴィルに気を取られてもよろしくないってことか。
ヴィルと会わせるのは今後の楽しみだな。
「黒の民の説得はスムーズだった」
「目指すところは同じだからね」
経済的に潤えばいいのだ。
皆でウィンウィンがベスト。
「ユーラシアは商売のことになるとえらく熱心だよな」
「多分コモさんの影響だなー」
元冒険者の灰の民コモさん。
今にして考えると、コモさんの冒険者話ってサバイバルか商売の話ばかりだったよ。
移住先の塔の村でも元気してるから、また話でも聞きに行きたいな。
サイナスさんが懐かしそうに言う。
「コモさんは達者かな?」
「もちろん。テキパキとよく動いてるよ。デス爺がムダに頭を光らせてる間に」
アハハと笑い合う。
さて、次の目的地に着いたぞ。
サイナスさんとうちの子達を連れて赤の民のショップへ。
族長のカグツチさんは、と。
いるいる、当然のようにスクワットしてるのな。
秋も秋なのに暑苦しい気がする。
「こんにちはー」
「おお、精霊使い殿。よく来た!」
声デカいよ。
まったくこの人もムダにパワーがあり余っているとゆーか、そのパワーを有効に活用しろとゆーか。
「商売のことで」
「レイノスとの交易のことだな?」
「うん。今度間に入ってくれる商人さんがカラーズに話し合いに来るから、日程決めたいんだよ。いい日教えてちょうだい」
「いつでもいいぞ」
ふむ、いつでも、と。
族長は皆暇なのかなあ?
とゆーかカラーズは全体的にのんびりしている気がするな。
ここから内緒話ね。
「赤の民からはガラスと陶器を交易に出せると」
「刃物も出せるが、鍛冶品は数を揃えられないな」
「受注生産がいいかもね。最初はガラスと陶器で十分だよ。バカ売れすることはないけど、普通に大丈夫。黒の民の調味料を推していくから、その容器として結構数が出ると思うよ」
カグツチさんが首をかしげる。
「調味料を? 何故だ?」
「帝国と戦争になるんだ。保存食需要で必須になるかなと思ってる。これ口外厳禁ね」
かなり驚いたようだが、無言で頷くカグツチさん。
「商人さんが来た時、まず族長クラス全員と顔合わせして、その後に各村で個別の商談ってことになるよ。で、顔合わせの際に黄のフェイさんに仕切ってもらおうと思ってるんの。御了承いただける?」
カグツチさんがあたしをじっと見つめる。
「……何か考えがあるんだな?」
「カラーズで最も立派な黄の民族長宅を使わせてもらいたいって事情もあるんだけどさ。商人に足元見られるとよろしくないじゃん?」
「買い叩かれるのは嫌だ」
「あたしも嫌なんだよ。渋々だけど売ってやるよって形に持っていきたい。本来なら貫禄からしてカグツチさんの役割なんだけど、カグツチさん腹芸苦手でしょ?」
「うむ」
「苦手なことはこっちに任せて。カグツチさんは無言で睨みつけて、商人にプレッシャー与えてくれるといいな」
「役割はわかった。了解だ」
おお、赤の民もスムーズだな。
「個別交渉の際に商人さんに見せるサンプルは、多めにあったほうがいいな。こういうもの作れますかっていうやり取りはあると思うから、ちゃっちゃと答えられる職人さんは必ず控えさせておいて。原価計算はきちっと詰めといてね。まとめて作ったらどれだけ安くできるってところは特に」
「まとめて? どうして?」
「セット売りが多くなるんじゃないかな。同じ品質なら個性なんかなくても安い方がいいし、形揃ってた方が洗いやすいし運びやすい。まとめて注文したらどれだけ安くできますかって話は必ず出るって。目先のおゼゼに釣られると、職人さんの苦労が増えるばかりで儲かんない。絶対に譲れないラインは割っちゃダメ」
「お、おう」
どーした、腰引けてんぞ?
ヨハンさんに舐められるぞ?
「将来的に高級品売りたいけど、戦争の関係があるんで今はまだなしね。そーだ、商人さん来た時、とびきり出来のいい器で飲み物でも出してあげると、食いつかせるネタになるかもしれないな。赤の技術を見せつけてやれば、いずれ商売になる」
「わ、わかった。しかし精霊使いよ。その顔何とかならんか。迫力があり過ぎる」
笑顔なだけだとゆーのに。
まったくどいつもこいつも。




