第264話:各村のトップと会う
――――――――――六二日目。
今日はレイノスとの交易に参加する黄・黒・赤・青の民の四村の族長クラスに会う日だ。
朝から凄草の株分けをすませ、灰の民の村へ。
途中の湧き水のところで指差す。
「ここにクレソン挿しておいたんだ。どーだろ?」
「まだ何とも。でも水が豊富で適した場所だと思いますよ」
クララがそう言うなら大丈夫じゃないかな。
来年は今年よりも食卓が賑やかになるだろう。
「こんにちはー」
「ああユーラシア、いらっしゃい」
灰の民の村の族長サイナスさんの家だ。
灰の民はあまり大きな家を作る風習がない。
サイナスさんの家も例外ではなく、むしろあたしの家のほうがずっと大きい。
もっともあたしん家は倉庫を兼ねているという事情もあるが。
「向こうの商人ヨハン・フィルフョーさんと話がついたよ。一度こっちへ来て会談したいってことなので、日程決めに来た。黄・黒・赤・青のトップと会うから従者やってくれない?」
「お供仕ろう」
まあぶっちゃけ精霊使いが独断で勝手なことしてると思われると不安視する人もいるだろうから、灰の族長の了解の下だよっていうポーズだ。
あたしが独断で勝手なことしてるのは大体合ってる。
でもうまくいきさえすれば、本当のことは知らなくてもいいんじゃないかな。
サイナスさんもその辺の機微はわかってくれてるのだ。
これでヘタレでさえなければ立派な族長になれるのに。
サイナスさんとカラーズ緩衝地帯へ行く。
「聖火教礼拝堂の近くに店出したいって話、あれどうなってるのかな?」
「聖火教に話だけは通してあるよ。まだ時期とか規模とか、具体的なことは何も決まってない」
「カラーズ~レイノス間の交易が先に始まりそーな気配になってきたもんねえ。こっちだけでも全然手が回んないわ」
レイノスとの交易が始動してからだな。
本当は聖火教との繋がりを重視して、巡礼者を通してカラーズの産物の良さをレイノスに広めるというのが手堅いような気はしてた。
でも思ったより交易に前向きな族長が多い。
放っとくと各村がバラバラに動いて、海千山千のレイノス商人にいいようにされちゃいそう。
買い叩かれちゃダメだ。
各村をまとめて、商人に対して強く出ることを学んでもらわないといけない。
あたしは相手に主導権握られるの嫌い。
「聖火教徒達が、礼拝堂近くのかなり広い面積を整地してたのが気になったな」
「サイナスさんが直接行ったのか。広い面積を整地って、あの辺道外れると魔物出るでしょ?」
「聖騎士やハイプリースト達がいるから、魔物はどうにでもなるだろうけど」
気になる話だ。
目的がバッティングするようならこっちが引くべきだし。
まあ今考えないといけないのは会談の日程決めだ。
「帝国と戦争になることは話さざるを得ないんだけど」
戦争後が本番なんだぞということを伝えづらいから。
灰の民と白の民だけが知ってるという状況も気持ち悪いし。
「やむを得ないね。族長とその側近クラスに限定し、口止めしておけば」
「りょーかーい」
サイナスさんが面白そうに聞いてくる。
「ユーラシアは黄・黒・赤・青の商品だと、どこが成功しそうだと思ってるんだ?」
「成功させたいのは黒、当たると大きいのは青、赤はそこそこ、黄は当面難しいかな」
「ほう? 黒の民に期待してるのか?」
「酢は保存食に使えるでしょ? 受け入れられるか否かで、戦時の食糧供給が全然違ってきちゃうから」
サイナスさんの目が大きく見開かれる。
「君、そんなこと考えてたのか」
「灰の民とコラボした酢漬け野菜がウケるといいねえ」
「……確かにな」
サイナスさんが続ける。
「ユーラシアも黄の民は難しいと見てるのか」
「木工や家具はすぐに売れる要素がないかな。でも黄には輸送をメインで担当してもらいたいと思ってるんだ。大男が多いから、パワーがあるじゃん?」
「ベストだろうな」
「パワーがあり余ってるじゃん?」
「何故二度言った?」
アハハと笑いながら緩衝地帯の中央広場へ。
まず黒の民のショップからだな。
ピンクマンがクロード族長にせっつかれてたようだし。
「こんにちはー。精霊使いユーラシアと愉快な従者達です」
「従者その一です」
「待ってたよ」
黒の族長クロードさん(多分)が出てきた。
皆黒フードだからよくわかんないけど。
「リスト見たよ。酢だけじゃなく醤油も出せるんだねえ」
醤油もいい。
海の王国との取り引きが本格化して魚が出回り始めると絶対売れるよ。
「酢、醤油、呪術グッズ、これでいけるだろうか?」
「当面は酢と醤油で十分だねえ。呪術グッズはデザインときっかけが重要だよ」
「酢と醤油? 何故?」
「ちょっとこっちへ」
さりげなく他人に声が聞こえない位置に移動する。
「これ内緒だよ? 近い内に帝国と戦争になるの」
「!」
「この辺の事情はピンクマンが詳しいから、彼に聞いてね。不要不急の呪術グッズはともかく、保存食関係で有用な酢と醤油は今、仕掛け時なんだ。特に酢は味を覚えてもらえれば今後独占的に売れる!」
「わ、わかった」
「今度商人さんがカラーズに来るんだけど、あたしの推す方向性を承知しててね。都合のいい日教えてもらえる? 他の村と調整するから」
「うむ、では……」
大体いつでも大丈夫みたい。
「日程決まったら連絡するね。一つ承知してもらいたいんだけど、商人さんとの合同会談では、黄のフェイさんをカラーズ側の盟主として紹介するから」
クロードさんは不満そうだ。
「どうして? 彼は年若だし、族長代理でしかないじゃないか」
「各村のトップ級で一番芝居が上手いからだよ。今あたしが商人さん相手にカラーズの商品価値を上げてるところなんだ。でも向こうは買い叩くのが仕事だよ。こっちで隙見せると値切られちゃってカラーズ全体が損する。悪いけど、クロードさんがそーゆー役割に向いてるとは思わない」
「役割、か」
クロードさんも思うところがあるようだ。
「フェイ君の身体のデカさと落ち着きでレイノス商人を圧迫したいということか」
「うん。ついでに言うと、黄の民の族長宅ってデカいじゃん? あそこに商人を招待すれば、カラーズが舐められることもないだろうから」
「ふむ、しからば私はどうした役割を担えばいい?」
おお、話が早いじゃないか。
あたしも笑顔が抑えられない。




