第253話:嵐の前
もったいぶる貴重な場面だ。
丁寧めな口調はそのままに話を続ける。
こーゆー芝居がかった展開は大好き。
「ヨハンさんと奥さん、ラルフ君を除いて人払いを。ああ、うちの子達は事情を知っているのでそのままでいいです」
警備員と執事、ラルフ君以外のパーティーの面々を下がらせる。
「白の民の村の畜産物、灰の民の村の野菜、ともに主要交易品は食料品ですが……」
三人が注目しているのを確認して続ける。
「近い内に帝国と戦争になります」
「「「!」」」
ハハッ、ビックリしてるわ。
不意に『アトラスの冒険者』になった日の直前の夜の夢を思い出す。
自称女神は言っていた。
あたしはカル帝国との戦争で命を落とすと。
「白の民の村と灰の民の村は戦争の際に食料をレイノスに供給することを、パラキアスさんと取り決めているんです。だから今から白・灰への依存度を高めておくことはできない」
「……今交易に参加できない事情、ですね」
「カラーズ内では取り引きが始まっていて、白と灰の農産物はよく売れるんですよ。だから対レイノス交易では他の村の品を優先したいということもあるんですけどね」
ラルフ君パパが呻く。
「『黒の先導者』……いや、帝国との貿易が細っていることは知っていましたが、そこまで瀬戸際の状況にあるとは……」
「開戦は回避できないだろうと。時期はパラキアスさんでも掴みきれてないですけど、おそらく数ヶ月以内です」
全員が黙り込む。
……あの妙な夢を見た日から二ヶ月くらいが経過している。
自称女神が言っていた一〇〇日ずれているのが本当ならば、あと四〇日ほどで戦争になる?
「あまり深刻に考える必要はなくってですね。帝国が勝つ目はないんです。ドーラは独立することになるんですけど、戦争が長引いたり不必要に混乱したり、人死にが多く出たりすると嫌だなーってことで、事情を知ってる人達は動いてます。……ぶっちゃけ何かの間違いでレイノスが落とされると面倒なことになる」
「……我々が協力できることはありますか?」
「商人さんは慌てず騒がず、粛々と商売していただければいいです。この情報を知ったことでの小遣い稼ぎくらいは黙認しますが、それ以上の行為は反ドーラ的活動としてえらーい人達にものすごーく怒られると思うので自重してくださいね。戦争が始まったら、お仲間の商人さん達にもそう伝えていただけると嬉しいです」
ここでもう一度キメ顔を見せておく。
流通止めたり物価派手に上げたりしたら絶対許さんぞ、と。
でもこの顔本当に怖いの?
一度鏡で確認しとかなきゃならんな。
「帝国も他の植民地の手前、またメンツとして簡単にドーラの独立を認めるわけにいかないので、戦争にはなるんです。当然帝国艦隊からレイノスへの砲撃がメインになります。攻撃をいなしておいて、ドーラ総督以下帝国の役人を艦隊に押しつけて返すのが最高のシナリオ。でも帝国もバカじゃないので、小細工はしてくるでしょう。『アトラスの冒険者』には出動要請が出ます。ラルフ君、レベルはできるだけ上げておいてね。必要と思った時点でメンバーにもこの話して」
「わかりました」
おお、いい顔だね。
本当はあたしが魔境へ連れてってレベル上げするのが一番手っ取り早いんだぞ?
また硬直しちゃうだろうから言わないけど。
「ではこの話はここまで。と、一度ヨハンさんにカラーズへおいでいただきたいんですよ。交易についての話を、もう少し詰めたいですね。黄・黒・赤・青四村の族長クラスと、オブザーバーとして灰の民の族長を集めておきますので」
「了解しました。私はいつでも結構です」
「では、こちらの話がまとまりましたら連絡させていただきますね」
◇
「んー終わった終わった!」
両手を上げ、伸びをする。
普段使わない丁寧な口調というのも疲れるもんだ。
舌を噛んじゃわないかとヒヤヒヤしてしまう。
「師匠……」
何だよ、ラルフ君。
シケた顔すんなよ。
「やる気出たでしょ? レベルが欲しければいつでも魔境に連れてくから」
「「「「いやいやいやいや!」」」」
強硬に断られると逆にフリかと思っちゃうよ?
背中押すよ?
「師匠はこれから?」
「うん、世界樹の方の対応しないとな。世界樹が折れてどういう影響が出そうか、詳しそうな人に聞いてくるよ」
「パワフルですね」
「せっかくのイベントだからかな? ラルフ君達も健闘を祈る」
転移の玉を起動し、一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「じっちゃーん、困ったことが起きた!」
「何じゃ、騒々しい」
塔の村へ飛んできた。
物事をよく知っていると言えばデス爺だ。
「ペペさんが魔法撃ち損なって、世界樹吹っ飛ばしちゃったんだって。どうしたらいいかな?」
「世界樹を吹き飛ばした? ペペが? まったくしょうがないやつじゃな」
「うんうん、しょうがないしょうがない」
ニュアンスの若干の違いもしょうがない。
「どの程度の損壊なのじゃ?」
「まだ詳しいことわかんないんだよ。明日見に行くけど」
「ペペの魔法ならば全損と考えておくべきじゃろうな。ふむう、困ったの」
「やっぱり困ったことなんだ?」
デス爺が顎ヒゲをしごく。
「お主はそもそも世界樹とは何じゃと考えている?」
「世界で一番でっかい木」
「まあ正解じゃ。樹体が大きくなるためには、また樹体を維持するためには何らかのエネルギーが必要なのじゃが、魔力なのか負力なのか、それ以外のものなのかが知られておらん」
どゆこと?
クララは頷いてるけど、あたしはわからん。
「世界樹がなくなってしまうと、膨大なエネルギーを消費する素体が失われるということじゃ」
つまりどゆこと?
あたしに理解できるように説明してくれないかな。
「簡単にゆーと何が起きそうなの?」
「凶悪な魔物が増殖するか魔境の領域が広がってしまうのか。ノーマル人居住域にまで影響があるかもしれん。どうあってもロクな結果にはならんの」
「ふーん、大変だなあ」
「どうして他人事なのじゃ!」
「だって他人事なんだもん」
今回はあたし達が原因じゃないし。
悪いのペペさんだし。
「まあよい。クララよ、お主が見れば状況は理解できるはずじゃ。手に負えぬようなら早めに知らせよ」
「わかりました」
「ありがとじっちゃん。じゃあね」
転移の玉を起動し帰宅する。




