第252話:まさかの三択
世界樹折っちゃうっていうスケールがすげえ。
さすがペペさんだわ。
ただ世界樹がなくて困ることってある?
あたしには全然わからんのだけど。
ようやく泣き止んだペペさんが説明してくれる。
「魔法を試し撃ちしてたら、つい手元が狂って世界樹吹っ飛ばしちゃったの……」
「あーそーゆーことあるよね。仕方ない仕方ない」
「仕方ないわよね」
「うんうん、ペペさんは悪くない。ペペさんのせいだけど」
ダンは変な笑い噛み殺してるし、ラルフ君パーティーはドン引きしてる。
「世界樹の折れた部分を調べたいんだけど、私だけだとどうにもならなくて……」
「世界樹折っちゃったってのはいつなの?」
「七日前……」
「七日間自分で色々やってみたけどダメだったと」
「うん、そお」
ここのところペペさんの姿見ないとは思っていたけど、まさかそんないとをかしな事件を起こしていたとは。
生粋のエンターテイナーだなー。
笑えてきちゃう。
「わかった。今日は用があるからダメだけど、明日一緒に行ってあげるよ。午前中ギルドに来てくれる?」
「うん、ありがとう」
ダンに話しかける。
「世界樹折れるとどんな影響がありそうか、対策どうしたらいいか。意見ありそうな人に聞いといてくれる? マウさんとかピンクマンとか。あたしはあたしで調べてみるから」
「オーケー。明日の朝な」
「じゃーねー」
ラルフ君達に向き直る。
「さて、ラルフ君家行こうか」
「えっ? あの、世界樹の件は……」
「何言ってんの。世界樹と商売の話と、どっちが大事だと思ってるんだよ」
「え? ええと……」
「当然お肉だぞ?」
「まさかの三択!」
やるなラルフ君。
意表を突いたボケだったのに、今のツッコミはなかなか良かったよ。
「し、師匠、世界樹は急ぎじゃないんですか?」
「折れそうとか枯れそうとかなら急ぎかもしれないけど、過去形だぞ? 既に折っちゃったなら、急いでもどうにもなんないじゃん」
「かもしれないですけど……」
「そもそも世界樹折ったからといって、どうってことないのかもしれないし」
ま、でも多分平穏無事なんてことはない。
ペペさんだけではどうにもならないほどの影響が、少なくとも魔境世界樹エリアでは出ているんだろう。
「重要なのは事後の対策。有識者の話を聞いて現地の状態を見て、何かするのはそれからだよ。今あたし達にできることは何もない」
「はあ……」
「ペペさん見てみなよ。あんだけ泣き喚いてたのに、もうせいせいした顔して帰り支度してるでしょ? やるべきことやったらオーケーなんだって」
納得したってしなくたって時間は過ぎていくのだ。
フレンドで転移の玉を起動してラルフ君家へ。
◇
「これは、控えめに言って最高ですな!」
ラルフ君家で昼食だ。
あたしの持ってきたコブタ肉を焼き、フルコンブ塩を振っていただいている。
ラルフ君パパったら、バエちゃんと同じこと言ってるじゃないか。
「でしょ? コブタ肉も美味さに定評のあるお肉なんだけど、この塩とまた抜群に相性が良くて」
「いや、驚きましたよ」
ラルフ君達もラルフ君ママもガツガツ食べてる。
ラルフ君達だと醤油ベースのタレの方が好みかも知れないけどな。
この前ラルフ君達のレベル上げのあとに食べた突進熊も美味いけど、クセがない分コブタ肉の方が食べやすいだろ。
フルコンブの旨みが生きるし。
「この塩は一体何です? 旨みが格別ですが」
「あーこれ非売品なんだよね」
海の女王にもらったフルコンブ塩だ。
もう塩が特別なことに気付いたか。
見る目のある商人だなあ。
「秘密は海、ですな?」
食べつけてないだろうに海藻とわかったか、それとも塩からの連想か?
マジでラルフ君パパやるじゃないか。
ちょっと手の内を明かしとくのもいいだろう。
「ウミウシの女王ニューディブラの使う、焼き肉専用の塩だよ。女王はお肉食べるの大好きなんだ。でも当然のことながら、海底には獣肉を食べる文化がない。この塩も普通の塩の二〇倍くらいの値段になっちゃうし、振りかけてから焼くって用途には向かないもんだから、女王しか使ってないんだよね」
「ユーラシアさんは海の女王とお知り合いで?」
「傑作な話なんだよ」
津波事件からこっち、女王と友達になった件を聞かせる。
ラルフ君パパの目が真剣味を帯びる。
あたしは海の王国とも親しくしているのだ。
カラーズの商売がうまくいったら次もあるということが理解できたろう。
「で、カラーズなんだけど、販売できる商品のアバウトなリストが上がってきてまーす」
「拝見いたします」
リストを見て表情を曇らせるラルフ君パパ。
うん、予定通りの反応だ。
「黄・黒・赤・青の四村だけですか。思ったよりも少ないですな……」
「緑の民の村は最初乗り気だったんだ。でも『ヨハン・フィルフョー』の名を出した途端断ってきたよ。理由はヨハンさんならわかると思うけど」
「……」
ラルフ君ぱポカンとしてるけど、ラルフ君パパは苦々しい顔になる。
やっぱ込み入った事情があるんだな。
ラルフ君の爺ちゃんが緑の民の村を出てきた経緯は、数十年経っている現在でもその関係を拗れさせているらしい。
何があったんだろうなあ、あたしも知らんのだけど。
「緑の民のことはいいんじゃないかな。他の村が交易で発展を始めたら、我慢しきれなくなって向こうから頭下げてくると思う。その時は仲介も仲裁もするから、来るもの拒まず去るもの追わずでオープンにいこうよ」
「……さようですな」
「うんうん、問題ない問題ない」
憮然とした表情ながら希望を見出しているラルフ君パパ。
こっちの強みを見せたまま貸しを押しつける。
たまらんなあ。
交渉はこうでないとな。
「白の民と灰の民についてなんだけど……」
一拍置く。
あえて言葉遣いを丁寧にし、緊張感を出してみる。
「今対レイノス交易に参加しないのにはある事情があります。これを知ることはヨハンさんの商売にとってプラスになり、マイナスな点はありません。ただし知ったからにはカラーズとの商売から降りるのを許しません。どうです、聞きますか?」
とびきりの笑顔を見せる。
これ、あたしのキメ顔なのに、クララやダンが『悪い顔』と評するのは何故だろう?
リストを見ていたラルフ君パパがすぐ決断を下す。
「ぜひ伺いましょう」
ほう、やるね。
できる男は決断が早い。




