第251話:折っちゃった……
――――――――――五九日目。
フイィィーンシュパパパッ。
今日は朝からギルドだ。
ラルフ君家に行くために待ち合わせをしている。
「おはようユーラシアさん。……今日はチャーミングじゃない顔をしているね?」
ポロックさんはさすがだな。
あたしが悩みのために小さな胸を痛めていることを敏感に感じ取ったようだ。
大した悩みじゃないだろうって?
そんなことないわ。
『アトラスの冒険者』になってから初めての挫折だわ。
「うーん、今請けてるクエストが暗礁に乗り上げた感じなんだよなー。いや、完了できないってわけじゃないんだけど、愉快なフィニッシュを迎えられないというか。老後どうしようっていう」
「老後? ハハハ、ユーラシアさんの悩みじゃ俺は力になれないだろうけど、全然違う方向から答えが出る可能性もあるよ。先輩冒険者の経験談とか『初心者の館』とかね」
「なるほど?」
何かのヒントが拾えるかもしれないか。
「ポロックさん、ありがとう。気分が楽になったよ」
「やはりユーラシアさんはニコニコしてる顔が魅力的ですよ」
あえてニコニコ魅力を振り撒きながらギルドの中へ。
昨日ゲットしたアイテムは換金しておくか。
おっと、ラルフ君が武器・防具屋で何か買ってる。
「ラルフ君達、おっはよー」
「おはようございます、師匠」
「お買い物? あっ、パワーカードか」
「ええ、『武神の守護』を仕入れてもらったんです。『火の杖』と入れ替えようかと思って。師匠どう思います?」
言われてみれば武器・防具屋で常時買えるパワーカードのリストの中に、『武神の守護』はなかったか。
『武神の守護』は防御力+二五%、ヒットポイント自動回復五%のカードだ。
『火の杖』の魔法力上昇より、前衛寄りのカード構成を選択したか。
「いいんじゃない? 魔法力重視しなきゃいけない場面なら攻撃系のカード下げりゃいいんだし。ムダにはなんないよ」
「ありがとうございます!」
うんうん、自分で考えたカード構成で戦うのがパワーカードの醍醐味だね。
ラルフ君パーティーにはゴール君というこれ以上ない盾役がいるから、正直前衛寄りにするなら『火の杖』を『スラッシュ』や『ナックル』に替えて攻撃力を上げた方がいいとは思う。
けどそれ言っちゃうのは野暮だな。
ボス戦とかで防御力や自動回復を優先したい時もあるし、『武神の守護』がムダにならないってのは本音だよ。
武器・防具屋ベルさんと話をする。
「『武神の守護』は、耐性よりも回復を考えなきゃいけない初心者に向いてるパワーカードだと思う。とゆーか初心者に買えって勧めやすい。いつでも売ってる方がいいんじゃないかな」
「考えておきましょう。ところでユーラシアさん、新しいカードが入ってますよ」
「おっ、商売トークかな? どれどれ?」
『前向きギャンブラー』攻撃力+一五%、会心率+八五%、防御力-三〇%、魔法力-三〇%
「アハハ。何これ? ひどいカードだねえ」
『前向きギャンブラー』か。
アルアさんの交換リストでは見たことないカードだ。
製法の失われたパワーカードの一つなんだろう。
『前向きギャンブラー』っていう名前はまともな気がするから、アルアさんのばっちゃんの作ったカードではないんじゃないかな。
ただ性能はおかしい。
防御力と魔法力の補正値マイナスって何だマイナスって。
会心率を大きく引き上げるカードとしては『一発屋』があるが、あれを極端にした感じだ。
「パラメーター下げるカードなんて初めて見たよ」
「珍しいカードとして一枚いかがです?」
「えー?」
押すなあ。
会心率が上がると物理攻撃でクリティカルが出やすい。
クリティカルは与えるダメージがほぼ倍になるけど、前衛用なのに防御力を極端に下げるデメリットが大き過ぎるだろ。
取り柄は会心率+八五%か。
ん? 八五%……。
「あっ、必要だ! 買う買う!」
「ど、どうしました師匠」
「今苦戦してる魔物がいるんだよ。これで勝てるぞ!」
ウィッカーマンは『メドローア』しか撃ってこないから、防御力下げたって構わないじゃん!
『獣性』の固有能力持ちで元々会心率の高いアトムの攻撃は、『前向きギャンブラー』装備でほぼ全てクリティカルになるはず。
あたしの攻撃が三回以上クリティカルになれば、ウィッカーマンを倒せる可能性が高い!
「一五〇〇ゴールドになります」
「ありがとうベルさん! また新しいカード入荷したら声かけてよ」
「はい、必ず」
武器・防具屋さんにアデューしたね(ダンテ風)。
「どうします。まだ少し時間ありますが」
「お肉も重いけど、換金とスキル屋寄ってっていいかな?」
「あ、申し訳ありません、気付きませんで。肉お持ちします」
「じゃあ頼むよ」
ごめんね、持ってもらうつもりで言ったけど。
買い取り屋さんで換金後、スキル屋ペペさんのところへ。
いつも通り突っ伏して、気持ち良さそうにおねんねしている。
久しぶりだな、ペペさん見るの。
「ラルフ君達はペペさん見るの、ひょっとして初めて?」
「「「「はい」」」」
「すごい人なんだよ。魔法の研究家でさ、自分で作った魔法を試し撃ちしてドラゴン吹き飛ばしまくって、冒険者でもないのにいつの間にかレベルカンストしたっていう伝説持ち。ドーラの実力者『パワーナイン』の内の一人」
あえて魔境って言葉避けたけど、ドラゴンで察したな?
ビビんなくてもいいよ。
実は相当愉快な人だから。
「たのもう!」
「ふあっ?」
ペペさんが飛び起きる。
見た目一〇歳前後でラルフ君パーティーが混乱してるっぽいが、実はさほど若くはないらしいぞ?
詳しい年齢は知らんけど。
「あっ、ゆーらじあぢゃーんだずげでえええええ!」
「どーしたの!」
何だよ、せっかくラルフ君パーティーに格好よく紹介したのに、台無しじゃないか。
「はいはい、泣き止む」
「うええ、ユーラシアちゃん……」
「で、何事?」
「折っちゃった……」
「何を? 大事なものなん?」
「世界樹……」
「え?」
世界樹ってあの有名な世界樹?
世界に一本しかないという、天まで届かんばかりの巨大な木?
折っちゃった?
さすがとゆーか期待を裏切らないとゆーか。
起こすトラブルの規模が半端ないわ。
あーんどトラブルの臭いを嗅ぎつけてくるあんたもさすがだわ。
「おい、愉快な事件だな?」
「愉快な事件だよ、ダン」




