第25話:後輩はスキルハッカー
「実に美味かった。あの空飛ぶお肉は」
「洞窟コウモリですよ」
「そーだ、そんな名前のお肉だった。臭みがなくてサッパリしてるから、嫌いな人いないよね、きっと」
「また狩りに行きやしょうぜ」
「いい提案だねえ。とても断れる気がしないな。あんなんがいるなら、確実に仕留める手段が欲しいもんだ」
切実に思うわ。
お肉のことはともかく、苔むした洞窟から帰宅後、クララアトムとともに今後の方針を決める。
「さて、やらねばならんことは片付けておこう。明日チュートリアルルームに行って、二つ目のクエストクリアあーんどアトムが仲間に加わったことの報告をダシにしてパーティーね。お肉持ってくから、クララは残りの洞窟コウモリ捌いておいて」
「わかりました」
「アトムは干し藁運んでベッド作ろう。あとでクララがシーツ出してくれるから」
「わかりやした」
こういう時、家が広いのは都合がいいな。
倉庫という名の空き部屋を一つ、アトムに提供する。
「あたしは明日お邪魔するって、バエちゃんに伝えてくるね」
「行ってらっしゃい」「行ってらっせい」
転送魔法陣からチュートリアルルームへ飛ぶ。
仲間が増えてパワーカードも手に入れた。
冒険者としての見通しがすごく明るくなったことを、バエちゃんに伝えたい。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
あれ、今日はいつもと様子が違うぞ?
テストモンスターと誰かが戦ってるわ。
バエちゃんが様子を見守っている。
少年のようだ。
おそらく新人さんだろう。
あたしにも後輩ができるのか。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「今日はお客さんがいるんだ?」
「ええ、ユーちゃんより三日後輩の新人冒険者よ」
「三日? 何で今、テストモンスターと戦ってるの?」
三日後輩ってことは、スライムクエストの前日か。
まーあたし達もすぐにはクエスト行かなかったもんな。
後輩君もバエちゃんの説明に納得いかないものを感じて、躊躇しているのかもしれない。
スライムクエストはもう四日も前になる。
初めて戦闘を経験し、知識も増えたが、不安も大きくなった日だった。
今のあたし達は二つ目のクエストを終えて、自信を深めているのだ、ふふん。
バエちゃんが心配そうな顔で少年の戦いぶりを見ながら答える。
「あの子、一つ目のクエストがうまくいかなくてね。もう一度テストモンスターで練習させてくれって」
「真面目か」
あたしと同じ、戦闘経験のないずぶの素人だな?
わかりみ深し。
初めはうまくやっていけるかの目安がないもんなあ。
あたしも要領わかんなくて無我夢中だったぞ?
主にバエちゃんのせいだが。
「ユーちゃんはどう? 二つ目のクエスト入ったでしょ?」
「今日行ってきたんだ。クリアしたよ。嬉しいことに精霊の仲間が増えてさ。すっごくおいしいお肉を手に入れたから、新しい仲間の紹介がてら明日来ていい?」
「やたっ! 美味い肉だ!」
おいこら、いいか悪いか返事してから喜べ。
テストモンスターを倒した少年が、軽く肩で息をしながらこちらを向く。
背の高さはあたしと同じくらい。
無骨な皮の胸当てを装備しているが、可愛い雰囲気の金髪男子だ。
「新人剣士のソール君よ。こちらはソール君より三日先輩のユーラシアさん」
「初めまして」
「こちらこそ」
感じのいい子だ。
握手を交わしたところでバエちゃんが言う。
「ユーちゃんはすごいのよ。ソール君と同様、戦闘や武術に何の心得もなかったけど、もう二つ目のクエストクリアして二人の仲間とパーティーを組んでいるの」
「も、もうですか? 才能があるんですね……」
ソル君が憮然とした顔で言う。
違うよ、運が良かっただけなんだよ。
あたしだってようやく今日、何とか冒険者としてやっていけそうだって目処が立ったばかりだわ。
まだまだ悩みもわからんこともたくさんあるわ。
「戦士系の冒険者は初期で脱落しちゃうことが多いのよ。ほら、戦士系は装備による補正が最も大きいじゃない? 強い武器持ったら強い、みたいな。『アトラスの冒険者』のシステムだと、初めに供与する装備品の価格は一定と決まってるから、戦士系の未経験者はどうしても不利なのよね」
「ふーん。わからんことはないけど、後衛職だって魔物にダメージ与えにくくてキツい気がするけどな?」
要は未経験者がツラいんだろ。
レベル一で入ってきた新人の、一番初めのクエストの達成率は四割ないのだとバエちゃんが言う。
しかも何日もかけてやっとこさっとこクリアしたものまで含めて。
マジかよ、そりゃあ素人新人が一日でクリアすれば褒められるわ。
あたしにはクララがいたけど、ソル君の場合は未経験者でかつ一人ってのが厳しいんだろうな。
「ユーラシアさんの職種は何ですか?」
「職種? 何だろ、精霊使い?」
「精霊使い、とは?」
「精霊しか仲間にできない、人生ハードモードの業を背負った職業よ。他には何も取り柄がないの」
おい、言い方。
あたしは精霊しか仲間にできないわけじゃないわ。
精霊しか仲間にする気がないだけだよ。
「ということは、パーティーメンバーは二人とも精霊ですか。大変に貴重な……」
「もっともユーちゃんは『発気術』の固有能力も持っているから、レベルさえ上がれば強いスキルを覚えるはずよ」
ますますソル君が暗くなっていく。
「ねえ、ユーちゃん。ソール君は超レアの固有能力持ちなのよ。とっても真剣に取り組んでくれてるいい子だし、こんなところで脱落されちゃ困るの。何とかならない?」
「あたしだって素人に毛が生えたようなもんなのに、無茶言うなあ。アドバイスして独り立ちさせるのはバエちゃんの仕事だろーが」
「そうなんだけど」
「ところでソル君の超レア固有能力って何なの? ちょっと興味ある」
乙女の好奇心がくすぐられるわ。
「『スキルハッカー』よ。アクティブスキルなら習得条件関係なく何でも覚えられるの。魔法でもバトルスキルでも」
「何でも? メッチャヤバくない?」
「習得可能なのは全部で一二個までっていう制限があって、汎用スキルもその中に入っちゃう。教える側が了承してないと覚えられないから、見れば覚えられるってわけでもないけど。条件さえ整えば魔物のスキルでも身につけることができるはず」
いやいや、十分チートですがな。
初期で落伍していい人材じゃないのは理解したよ。
空飛ぶお肉(笑)。
楽しそうですね。




