第249話:食卓が豊かになっちゃう
フイィィーンシュパパパッ。
午後は嬉し楽し大好き魔境だ。
今日は『氷晶石』の回収という仕事がある。
いや、もちろんレベル上げもしたいけれども。
「こんにちはー、オニオンさん」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん。あれ? 今日は随分と大荷物ですね?」
「うん、『氷晶石』掘り出してくるんだ。冷たくて大きいから、それ持って一旦転移で家に戻るよ。『メドローア』対策のカード仕入れたから、ウィッカーマンと再戦もしたいんだよね。もう一度こっち来ると思う」
「御苦労様です。行ってらっしゃいませ」
「行ってくる!」
ユーラシア隊出撃。
「今日はどうしやす?」
「一度家へ戻る前提だから、素材やアイテムたくさん持ち帰れるよ。東周りで湿地みたいなところあったでしょ? あそこ行ってから中行こうか」
クララがウキウキしながら言う。
「あの湿地帯は、食べられる草が多そうな気がするんですよ」
「そお? 楽しみだなあ」
クララが言うなら確度は高い。
また食卓が豊かになっちゃうかー。
嬉しいなあ。
「クレイジーパペットね」
「頼むから逃げるなよー」
おそらくクレイジーパペットには、こっちのレベルを判断する能力があるんじゃないかな。
魔境来たばかりの頃より、明らかに逃げちゃうことが多くなった。
しめた、逃げずに向かってくる。
こまめに倒そう新経験値君。
「リフレッシュ! 藍珠と透輝珠だね。うん、コツコツいこう」
新経験値君では、例のクエストに必要な高級魔宝玉は得られない。
でも経験値とおゼゼが儲かることには変わりないしな。
先制で『フレイム』は食らうものの、おいしい魔物だ。
オーガ帯東側をさらに北へ進む。
湿地の近くにはあまり来たことがなかったんだよな。
足元ドロドロになりそうだし。
クララが声を上げる。
「あっ、ユー様! これターメリックです!」
「やたっ! かれえが近付いた!」
「これは根っこを使うんですよ」
「シャベル持ってきてラッキーね」
「シャベルはいつも持ってくるべきなんじゃねえか?」
うむ。
秋ってこともあって、植物は種の採取がメイン。
可能なら枝を折り取って挿し木するかみたいな考え方だったけど、根っこごと持ってかなきゃいけないケースも多そう。
シャベルの携帯は乙女のエチケットのような気がしてきた。
「この辺かなり素材が多いねえ」
あんまりこっち来る冒険者いないのかもな。
『氷晶石』を持って帰ることを考えると既にナップザックの余裕がなくなってきたぞ?
まあ一度帰るからいいか。
湿地まで来た。
ごわさーっと生えてる草を指してクララが言う。
「あれクレソンです。ちょっと辛みがあっておいしいです」
「これ全部食べられるのか。雑草っぽいね。育てるの簡単そう」
「水の湧くところなら放っといても繁殖しますよ。挿し木で増えますので、少し持っていきましょう」
「どこがズブズブになってるかわかりにくいから、飛んでいきなさい」
「はい」
『フライ』を操り、器用に茎を折って摘んでいる。
クララも最初『フライ』使った時はメッチャフラフラしてた気がするけど、最近はかなり慣れてきたようだ。
レベルアップの恩恵か練習の成果か、きっと両方なんだろうな。
「随分たくさん摘んできたね?」
「今日の夕御飯の分も込みです」
「よーし、じゃあ中行くよ。目標はドラゴン帯『氷晶石』のところね」
「「「了解!」」」
クレイジーパペットを蹴散らしつつドラゴン帯へ。
デカダンスが二体、ありがたいなあ。
君は今や経験値とおゼゼにしか見えないよ。
残念ながら黄金皇珠はドロップしなかった。
「寒くなってきたね。どこだったっけ?」
「こっちでやす」
おお、ここだ。
『マジックボム』の跡がある。
「ドラゴン帯ってのが場所的に危険だよなー」
「そうでやすねえ」
「手早く掘り返そう。クララとダンテは周り警戒してて」
「「了解!」」
シャベルとクワで氷晶石を覆う表土を取り除いていく。
ごめんよアトム。
精霊はこういうパワー系の道具使うの苦手だろうに。
「いや、このくらいならそうでもないでやすよ? レベルが上がってるからでやすかね」
「ふーん、レベルアップって大事なんだなあ」
「何にでも効くんじゃないでやすか? あっしも酒に呑まれることがなくなりやしたぜ」
「余計なとこには効かんでもいい」
まったくアトムは飲兵衛なんだから。
表土を剥がしていく内に、『氷晶石』の全容が見えてきた。
デカい。
わかっちゃいたが、このままではとても運べない。
「割ろう」
「どのくらいの大きさで?」
「片手で持てるくらいだな。昨日くらいの大きさでいいよ」
「マンティコア、こちらに来るね!」
くっ、邪魔な!
空気読めよ!
「走ってなるべく離れて! ここで暴れられちゃ『氷晶石』がボロボロになる!」
「「「了解!」」」
離れた位置に誘導してから『煙玉』で逃走、よしよし。
「アトム、急いで割ってくれる?」
「へい!」
氷晶石が一二個並ぶ。
お腹が冷えるってばよ。
一度に持って帰るのもこれが限界だな。
深いところにはもっと『氷晶石』ありそうだけど、ドラゴン帯で深掘り作業は今のあたし達じゃとてもムリだ。
「よーし、一旦戻るよ!」
「「「了解!」」」
たあめりっくとクレソンと『氷晶石』か。
うんうん、大収穫だね。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「ユーちゃん、冷てえよ! 何とかしてくれ、このままじゃ薬草枯れちまう!」
畑番の精霊カカシが悲鳴を上げる。
「ごめんごめん。クララ、『フライ』でまとめて南の敷地外の影響なさそうなところに『氷晶石』転がしといて」
「わかりました!」
いかに『氷晶石』の冷却効率がいいと言っても、ちょっと魔境の魔力を吸ってるだけだろ。
長くとも数日で冷たくなくなるはず。
「アトム、ダンテ。カカシの指示に従って、たあめりっく植えといて。あたし湧き水のところにクレソン挿してくる」
「「了解!」」
灰の民の村へ通じる道の途中に、湧き水が小川に流れ込んでいる。
あたしん家の近くでは一番水の奇麗なところだ。
クレソンを順に数本挿しておく。
魔境ではメチャメチャ繁殖してたけど、こっちではどうだろうか?
魔境の環境に適応した特殊なクレソンかもしれないしな?
寒くなる前に根がつくといいな。
「さて、もう一度魔境行くよ。今度はウィッカーマンと再戦するのが目的ね」
「「「了解!」」」




