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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2452/2453

第2452話:新妻オーラ

 ――――――――――エンディングエピソードその四六:新妻オーラ。


「バエちゃん、こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「あら、ユーちゃんいらっしゃい」


 灰の民の村にやって来た。

 バエちゃんは現在こっちの世界の女性の標準的な服装である、簡単なワンピースを着ている。

 なかなか似合うじゃないか。


「お肉持ってきたぞお!」

「やったあ!」


 小躍りからクネクネダンスのキレは相変わらずだ。

 素晴らしいなあ。


「そっちのお鍋は何なの?」

「今日作ったドーラのかれえの試作品だよ。味見してみる?」

「ぜひ。どれどれ……随分本格的な味ね」

「いやー、まだまだだな。薄っぺらい味だわ。こっちの世界に追放された『アガルタ』の旧王族を、あたし達は赤眼族って呼んでるじゃん?」

「ええ」


 僅かに表情を変えるバエちゃん。

 しかし赤眼族に対して強い感情はないみたい。


「赤眼族は過去何度かの火事で昔の記録をかなり失ってしまってるんだ。でもかれえのレシピは残っててさ。そのレシピそのまんまで作ったのがこれなんだよね」

「……ということは、向こうの世界……『アガルタ』で一〇〇年前まで食べられていたカレー?」

「そーだね。カレーも進歩してるんだなあって思った」


 まだバエちゃんは『アガルタ』と発音するのに抵抗があるらしい。

 徐々にでいいんだよ。

 るうは料理アシスト材料として加工しやすくするために用いられているのかと思ってたけど、尖った味をマイルドにする役割もあるんだなあ。


「赤眼族は香辛料がわかんなくて、レシピが残っていながらかれえの作り方が失伝しちゃってたんだ。赤眼族にも試食してもらってさ。美味いと喜んではもらえたんだけど」

「ユーちゃんは全然納得していないのね?」

「こんなん人を呼べるレベルではないわ。ドーラではバターが高いからさ。野菜のペーストと骨スープで改良していこうと思うんだ。絶対に美味くなる」

「熱心ねえ」


 バエちゃんが笑う。

 美味いかれえには中毒性がある。

 完成すれば絶対にドーラ発の料理として世界に広まるのだ。

 となると観光客を呼ぶこともできるし、材料を輸出することもできる。


「魔道コンロの調子どーだろ」

「バッチグーだわ」


 ちょっとでも異世界から来たバエちゃんの調理の負担を軽減してやろうと、エメリッヒさんに頼んで設置してもらったやつだ。

 試作品としての意味もあるが。


「うんうん。でも大地から魔力を集めて出力するタイプの魔道コンロはもう作らないかもな」

「そうなの?」

「うん。地中の魔力は多いけど、水や空気の中に比べて動きづらいらしいんだよね。近い場所で大地の魔力を頻繁に利用する設備があるとよろしくないみたい」

「向こうの世界では、大気中の魔力を利用していたのよ?」

「らしいね。こっちの世界ではそーゆー技術がなかったんだよ。でも『アトラスの冒険者』本部の人が、『アガルタ』製転移の玉に使用されてる技術を教えてくれそーなんだ」

「便利になるのね?」

「少しずつね。研究施設と素材を提供してやらないと」


 まだまだやるべきことはあるなあ。

 視界が前に開けることは実に楽しい。


「バエちゃんから新妻オーラが溢れてる気がする」

「ユーちゃん、新妻オーラって言いたいだけでしょ?」

「まあそうだけれども」


 アハハと笑い合う。

 バエちゃんはサイナスさんのお嫁さんになったのだ。

 めでたい。

 照れ照れのバエちゃんが新鮮だ。


「サイナスさんは優しいでしょ?」

「ええ、とっても。ユーちゃんには素敵な人を紹介してもらって嬉しいわ」

「バエちゃんには幸せになってもらいたいんだ。結構前から、サイナスさんとバエちゃんの相性がピッタリだなーと思ってて」

「ユーちゃんの見立てはすごいわ!」

「あたしのラブセンサーは冒険者活動より自信があるのだ。絶対だぞ?」


 サイナスさんにもいい人を紹介できて嬉しいのだ。

 何だかんだでサイナスさんには世話になってるし、放っといたら結婚しそうになかったから。

 バエちゃんは異世界の人だから、どうなるかわからなかった。

 でもサイナスさんと一緒になるような、うっすらとした予感はあったんだよな。


「……『アガルタ』に帰れなくなってどうなることかと思ったけど」

「それについてはマジごめん」

「違うの! 私はこっちの世界が合ってるみたいなの」

「よかった。バエちゃんはどっちにしても向こうの世界に帰れないと思ってたんだ」

「えっ? どっちにしてもってどういうこと?」

「えーと、あたしが『アガルタ』に攻め込んだ。情報をどこから得たんだってことになると、当然チュートリアルルームの職員であたしと一番接触があったバエちゃんが疑われるわけで」


 さあっと青ざめるバエちゃん。


「せ、責任問題になってる?」

「多分。実際にはあたしはバエちゃんだけから情報を得て動いてたわけじゃないよ? でも楽観的に考えてもバエちゃんの処断は免れなかったと思う」

「……」


 思うとゆーか、シスター・テレサに『ユーラシアのリベンジスマイル』のあとの『アガルタ』の状況を聞いているから確実なわけだが。


「バエちゃんは向こうの世界で国を売った究極の悪女にされちゃうわけだ」

「御主人と並んでだぬ!」

「おお、そーいやそうだ。あたしとお揃いだ」

「あはははは!」


 よしよし、バエちゃんの笑顔が戻った。


「まーマリボイラ副評議長をはじめ、わかる人にはわかってるわけよ。『アガルタ』の混乱を最小限にするためにバエちゃんの働きが必要だったってことは。だけど神様案件だから、全員にその意識を共有させることはできないんだな。誰かが泥被んなきゃいけないわけで、損な役割を引き受けなくちゃいけないのがバエちゃんだった」

「ユーちゃんだって恨まれるだけ損じゃないの」

「損ではないよ。あたしは自分のやりたいようにやっただけだもん。覚悟はできてるし、向こうの世界のことは知らんわ」


 実際には知らんと突き放してるわけではない。

 エルを『アガルタ』に戻さないことはウィンウィンの結末だと思っている。

 あたしなりにベストの目標を達成して今がある。


「バエちゃんに頼みがあるんだった。新『アトラスの冒険者』の職員が一人妊娠して調子が悪くてさ。バエちゃんにヘルプして欲しいんだよ」

「もちろんいいわよ」

「ありがとう。これ転移の玉とビーコンね」

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