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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2450/2453

第2450話:世界の王よりも

 ――――――――――エンディングエピソードその四三:世界の王よりも。


『ドーラは世界最大のポテンシャルを秘めている』


 レイノスのほぼ中央、大階段下の広場で、ドミティウス閣下が市民を前に熱弁を振るっている。

 通貨単位統一事業の啓蒙のために、事実上のトップであるお父ちゃん閣下にドーラでも演説してもらおうぜ、ってことになったからだ。

 あんまり使われてない拡声器の久しぶりの出番だ。


『世界地図を見てもらおう。地理的に見てドーラは片田舎などではなく……』


 意外にもお父ちゃん閣下がやる気なんだよな。

 いや、通貨単位統一事業に力が入るのはわかる。

 でも今日相手にしてるのはドーラの住民だしな?

 いかに事務局を置くとは言え、ドーラなんか小国に過ぎないのになあ。


 でもドーラが片田舎じゃないって言ってもらえるのは嬉しい。

 世界貿易が活発になれば、ドーラは中心になり得る国だとあたしも思っているからだ。

 あたしが税金を取らずとも、行政府の運営資金を貿易手数料だけで賄えるんじゃないかと考えている根拠の一端はそこにある。


『……クー川下流域は今後大いなる発展を望める、温暖で肥沃な地域であり……』


 ルーネがこそっと言ってくる。


「お父様さっきからドーラのことばかり喋ってませんか?」

「そうだねえ」


 通貨単位統一はどこ行った。

 いや、導入をドーラの話にしてるのかな?

 バアルが以前、お父ちゃん閣下はドーラが将来有望な地であると考えていたから直接支配を企てたと言ってた。

 けどこりゃまた随分思い入れがあったんだな。


 ただ聴衆も通貨単位統一について話されたところで、ピンと来ないとは思う。

 今日はドーラの話でもいいけどね。

 帝国の偉い人が来て語ってったとゆーだけでも十分なのだ。


「ユーラシアさんもドーラには開けた未来があるって考えているんですよね?」

「もちろんだよ」

「温暖で広いということはその通りですけれども、ハンデも大きくないですか?」

「ハンデ?」

「魔物が多いこととか、魚人の勢力範囲の問題で港が作れないこととか」

「ルーネはその辺をハンデと見るか」

「違うんですか?」

「違わないね」


 魔物がいなければドーラはどえらい大きな食糧生産余地があって、ノーマル人が住んでいるエリアだけでも今の一〇倍近い人口を住まわせることができるだろう。

 発展には人口が必要だというのはあたしの持論でもあるしな。

 魔物がいることが、ドーラの発展を阻害していることは間違いない。


 また魚人の支配領域がドーラ近海のほぼ全てに及んでいる関係で、ドーラでは漁業と海運が発達しないというのは、これまた明らかなことであるのだ。


「でも魔物と海の王国のことがなかったら、ドーラは独立してなかったろうしな」

「独立は絶対に必要でしたか?」

「今日のルーネはツッコミが厳しいね。絶対に必要ではないけど、好き勝手できる余地が多いほど面白いじゃん?」

「わかります」

「ドーラの行政府は何とか体裁を保ってるってレベルで、目一杯対外的窓口になろうとしているだけなんだけどさ。でも独立してからのドーラはスリリングだね。あたしも楽しく関わることができてるし」


 大きく頷くルーネ。

 植民地時代のドーラにハンデがなかったら、確実にもっと帝国の手が入ってた。

 植民地から海外領土に格上げになってたかもしれないな。

 逆に言えば独立など夢のまた夢だったわけで。


「まードーラに魔物がいなかったら、ルーネは冒険者になることなんか到底できなかった。今でも皇宮で燻ってたと思うわ」

「まったくもって面白くないですね」

「でしょ? おいしい魔物がいるのは事実だし、あたしとしてはそう魔物を否定できないとゆーか」


 魔物がいなきゃドーラが魔宝玉の産地って言われることもなかったわけだしな。

 現にある条件を、ない仮定で話すのは意味がないんだわ。


「ユーラシアさんが魔物をどう考えているかはわかりました。魚人の方はどうですか?」

「魚人だけじゃなくて亜人全体に言えることなんだけどさ。あたし達の持ってない技術や知識があるわけよ」


『……そして亜人についてもドーラの扱いは問題がある。亜人との交流は密にすべきだ』


 奇しくもお父ちゃん閣下も亜人の話題にシフトした。

 亜人を差別している上級市民は親帝国感情の強い人達だ。

 帝国の皇子で大実力者の閣下が、親亜人的な考えに言及してくれるのは助かるなあ。


「亜人とはぜひ仲良くしたいね」

「では植民地支配についてはどう思います?」

「ルーネの聞きたい本命はそれか。植民地ったって、誰も住んでなかった地域に植民するケースと有人地域の征服とでは違うね」

「征服の方で」


 わかってたけれども。


「あたしは基本的に戦争嫌いじゃん? 仲良くしてお互いにメリットになる方策を模索したい」

「ユーラシアさんの考え方はそうですよね」

「でも互いの利益がバッティングする、絶対に避けられない戦いがあるとも思ってるよ。魔物がいい例だね。同じ土地を奪い合うとなかなか共存はできない」

「……」


 人と魔物を同じ括りにするのは抵抗があるか。

 人とは話し合いがしやすいってだけで同じだけどな。

 帝国の植民地主義が間違ってるとは言わない。

 どうしても敵になっちゃう相手もいただろうから。

 ただトータルでプラスになってるかって考えるとどうだろう?

 微妙じゃない?


「皇室の信仰するパンタラッサ教会の教義で、外洋へ進出するってことがあったみたいだしな。国民の意識を一つに向けさせることは必要ではあるし」

『……通貨単位統一が成れば、事務局のあるドーラは世界の中心となる。通貨単位統一を構想し、推進したユーラシア君は世界の王だ!』

「おろっ?」

「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」

「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」


 ルーネが笑っている。


「ユーラシアさん、世界の王ですって」

「せいぜい世界の王に相応しい振る舞いに終始するよ。今までも聖女に相応しい振る舞いだったから大丈夫だけどね」

「大丈夫だぬ!」


 アハハと笑い合う。

 大きな興奮を群衆に与えたまま、お父ちゃん閣下が演説を締めるようだ。

 お見事でした。

 できればあたしが世界の王ってことよりも、亜人との交流を密にすべきということが人々の心に残っていますように。

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