第2449話:西域改造の未来予想図
――――――――――エンディングエピソードその四二:西域改造の未来予想図。
「中のサイズが良さそうだ。三〇ヒロ間隔程度で、おそらく西域街道並みの魔物除け効果があると思う」
「中のサイズね。りょーかーい」
あたしの名前のついた自由開拓民集落の様子を見に来たら、たまたまバルバロスさんに会えた。
ラッキー、バルバロスさんには以前、大・中・小と大きさの違う碧長石の魔除けを渡して効果を検証してもらっていたのだ。
主目的としては、西域から南部へ街道を引くこと。
現在南部はあんまドーラの改革に乗ってない感じがするからな。
コショウその他の暖地でしか栽培できない作物を増産して、外貨の獲得に貢献してもらいたい。
「三〇ヒロ間隔で十分な効果が出るって、結構大したもんだねえ」
「うむ、西域から魔物がいなくなれば、開発などどうにでもできるのだが」
あれ?
バルバロスさんは魔物必要ない派の人だったのか。
草食魔獣に襲われて飢えた集落をたくさん知ってると、魔物を憎む方向に行っちゃうのかもしれないな。
「ドワーフの記録によると、この中のサイズの魔物除けが西域街道に埋まってるのと同じやつなんだ。してみるとヒバリさんも色々試してこの大きさにしたんだろうな」
「ほう、伝説の冒険者ヒバリの秘密の一端に触れられるとは愉快だな!」
「またドワーフに注文出して、中のサイズの魔物除けをたくさん作ってもらっとくね」
「よろしく頼む。しかし金はいいのか?」
「いいや。お肉持ってくとドワーフは安く仕事してくれるから。その代わり設置は任せていい?」
「ガハハ、ユーラシアが自腹を切ってるのに、己がサボるわけにはいくまいが」
豪快に笑うバルバロスさん。
気持ちのいい人だ。
「南部からクルクルへのルートでよいのだな?」
「一番距離が近いからいいと思っただけだよ。バルバロスさんの考えではどお?」
「己も賛成だ」
よし、南部からクルクルへのルートで決定だな。
「カトマスと塔の村の中間くらいで、核になる集落が欲しかったんだよね」
「うむ、同感だ」
「クルクルは特産品が何もない集落だから、交通の要所としては却って都合がいいよ」
「バボこそかつては何もない集落だった」
バルバロスさんが遠くを見るような目になる。
バボ、それは今いる自由開拓民集落ユーラシアの旧称だ。
昔は追い剥ぎ村だったなあ。
昔ったってリリーが引っかかって一年も経ってないわけだが。
「立派な村になった。洞窟コウモリとクレソンは、名物料理として知られるようになっているではないか」
「西域街道の宿場としてはいい感じだよね。その内輸出品を作ってもらいたいんだ。この村だけじゃないけど、西域で」
「自給自足が精一杯だった西域の自由開拓民集落で輸出品か。ユーラシアが考えている有望なものがあるか?」
「考えてるのは砂糖、お茶、柑橘、オリーブだな。特にこの辺ならば、山の斜面を利用して柑橘とオリーブを作ってもらいたい」
砂糖は平地の方が作りやすいので、西域でもカトマスに近い側がいい。
お茶の栽培と加工は難しいから、ザバンから徐々に広がってくれるのが望ましい。
必然的に西域の中部から西は、柑橘とオリーブがいいんじゃないかと思う。
「オリーブとは何だ?」
「実からメッチャいい食用油が取れる木だよ」
「油は保存できるから輸出品に向いてるな」
「でしょ? フェルペダで苗もらってきたんだ。帝国でも暖かいズデーテンで作ってるんだけどさ。帝国本土でオリーブ油はあんまり知られてなくてチャンスなの。ドーラの気候に合ってると思うから、今試験栽培してるんだ。イケそーだったらもっと詳しいこと話すね」
オリーブ油は鳥系のお肉やニンニクと相性のいいことはわかってる。
レシピとセットで帝国に売り込んで大ヒットさせてくれるわ。
バルバロスさんが生温かい目で見てくる。
何なん?
「ユーラシアと初めて会ったのはザバンだったか?」
「そーだね。プリンスルキウスとイシュトバーンさんとパラキアスさんが一緒の時だ」
「よく覚えている。鮮烈だった」
「そお?」
感傷に浸ってるのかな。
クマみたいな見かけに似合わねえ。
「当時己はドーラを分裂させてやろうと思ってたのだ」
「おっと物騒な発言ですよ。何でなん?」
「わかるだろう? オルムスのやり方にはついて行けなかった」
当時オルムスさんは、住民から公平に税金を徴収して政府を運営していこうと考えていた。
でもドーラ政府にそんな力も権威も組織もないし、住民側も今まで取られてなかった税金取られて嬉しいわけない。
帝国に軍事占領された方がよかったまである。
「レイノスはレイノスで勝手にやれ。西域も自由にさせてもらうって考え方だね」
「そうだ」
「なくはないなあ」
「だろう? しかしお主はドーラを一つの国とすることに拘った」
「人口は力なんだよ。やっぱ国内と国外は違う。人口大きい国の方が商売しやすいんだよね」
「しかし輸出にも拘るではないか」
「そりゃドーラに力がないからだよ。本来だったら国に力がないから輸出で儲けようなんて、邪道の考え方だと思うぞ? そもそも小さい国の言うことなんて、大きい国は聞かなくてもいいんだもん。今はドーラが帝国に負い目を負わせるような独立の仕方したことと、帝国の新皇帝がドーラに縁があることにつけ入ってトリッキーなことしてるだけ。いつまでもこれが通用すると思っちゃいけない」
またさっきの生温かい目だ。
「ユーラシアは偉いな」
「自分のやりたいことやってるだけだってば」
「偉いぬよ?」
「己は自主自立をモットーにしながら、潰れた集落をいくつも見てきたのだ。小さい村ほど体力がなかった」
バルバロスさんの思いが痛いほど伝わる。
強みを生かすやり方がいいとは思うよ。
でも強みがない集落もあるからなあ。
「もう廃村は見たくない。規模を重視するユーラシアのやり方は正しい。これからは一つのドーラだ」
「わかってもらえると嬉しいなあ」
「南部街道を実現できれば、おそらくクルクルを中心としたドーラ西域中央部が活性化する。己は生涯をこれに捧げると決めた」
気合を入れてるバルバロスさん。
うん、南部街道は任せたから頑張ってちょうだい。
あたしも目一杯応援する。
何故ならあたしはドーラのスーパーヒロインだから。




