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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2448/2453

第2448話:テレサの魔法屋

 ――――――――――エンディングエピソードその四一:テレサの魔法屋。


「御主人!」

「よーし、ヴィルいい子!」


 『アガルタ』で二番目に高い建物にあるという、『テレサの魔法屋』にやって来た。

 シスター・テレサは住み込みだ。

 現在はまだ開店前の時間で、居住スペースの方にお邪魔している。


「シスターおっはよー。でも雑然としている」

「雑然としてるぬ!」

「あわわ、住んでいるところだけですよ。店は奇麗にしていますので!」

「当たり前だわ。でも半年も経つと店舗スペースにまでものが溢れる気がする」

「どきっ!」


 久しぶりの擬音トーク面白いなあ。


「色々、話したいことがありますね」

「あたしもシスターに伝えとかなきゃいけないことがいくつかあるわ」

「どうぞお話しください。お願いします」

「まず最初に、シスターはシスター呼びでいいのかな?」

「そこからですか。聖職者ではなくなりましたが、資格は消えませんのでシスター呼びで結構ですよ」

「ふむふむ、ルールはわかった」


 『アガルタ』では聖職者イコール公務員の認識で大体間違っていないらしい。

 一旦聖職者を辞めても、シスターの資格を持っていると、再就職時にポストや給料の面で考慮されたりするのかな?

 進んだ社会らしい仕組みだなあ。


「まず確認させてください。『ユーラシア』に渡ったエンジェル所長以下二〇名とイシンバエワの安否は?」

「全員元気だよ。去年ドーラのノーマル人居住域西端に、塔の村っていう冒険者の探索特化の村ができてさ。エンジェルさん以下二〇名はそこにいる。捕虜とかじゃなくて、村人としてね」

「生き生きとしてるんじゃないですか? 『アトラスの冒険者』事業に就職するような者は、剣と魔法の世界に憧れを持つ者が多いんですよ」

「マジでそう。こっちも働いてくれる人大歓迎だから、皆すぐ馴染んだよ。騒動の元になった精霊使いエルとエンジェルさんとの親子関係も問題ないな」

「イシンバエワはどうです?」

「バエちゃんはドーラの人と結婚した」

「うそっ! どうしてっ!」

「いやまあ成り行きで」

「まだ二〇日も経ってないのに羨ましいっ!」


 手足をバタバタさせてシスター・テレサがヒートアップしている。

 このままではいけない。

 もっと焚きつけねばニヤニヤ。


「やっぱりイシンバエワは『ユーラシア』人と懇ろになったから、『アガルタ』を裏切ったのねっ!」

「えっ? そーゆー理解になったか。いや、わからんでもーないな」

「違うぬよ?」

「バエちゃんが結婚したのは、『アトラスの冒険者』じゃなくて一般人なんだ。あたしが『アークセコイア』壊したじゃん?」

「『ユーラシアのリベンジスマイル』事件ですね?」

「おおう、そんな名前がついてるのか。ちょっとカッコいいな。あの日チュートリアルルームに取り残されてたバエちゃんを助けに行って、次の日に初めて会わせた人だよ。前々からバエちゃんと相性いいなと、あたしが思ってた人。あれよあれよという間に仲良くなって、すぐ結婚しちゃった」

「ユーラシアさんすごい……」

「あたしの超高感度ラブセンサーはマジですごいんだよ」


 冒険者活動より自信あるってのは決してホラじゃない。

 シスター・テレサが居住まいを正す。


「ユーラシアさんはどこまで知っていて『アークセコイア』を破壊したんですか?」

「あの高い塔が転移転送のビーコンになってるのは知ってた。先月二二日にエンジェルさん達が娘であるエルを取り返しに来ることも知ってたから、じゃあ侵攻に合わせてビーコン壊しちゃえば一網打尽だな。進んだ技術を持つ優秀な人材が手に入るなと思って」

「では、チュートリアルルームの転送魔法陣から『アガルタ』に攻め込んだわけではない?」

「違う。クエストで手に入れた『地図の石板』から出た、謎の転送魔法陣から。あちこちで調べて管理者用のものだってわかった」

「……イシンバエワには重大な嫌疑がかかっているんです。故意にユーラシアさんに情報を流して『アガルタ』を危険に晒したと」

「だろうと思ってた。でも情報はバエちゃんだけから得ていたわけじゃないよ。とゆーか、バエちゃんの知ってることはむしろ少なかったな」

「ですよね。チュートリアルルーム詰めで情報収集できるとは思えない。私もそう弁護しているのですが」

「どうせバエちゃんとシスター・エンジェルに責任押しつけとけってことになってるんでしょ?」

「……はい」

「痛くもかゆくもないから構わないよ。でもバエちゃんは、あたしが『アガルタ』に攻め込むことは知らなかった。もう一つ付け加えるなら、バエちゃんは『アガルタ』という言葉を全てが終わるまであたしの前で口にしなかった」


 チュートリアルルームの係員は、『アガルタ』をこっちの世界の住人に教えてはいけなかったようだ。

 バエちゃんが裏切ってなんかいないことは、シスター・テレサにも伝わったろう。


「……安心しました」

「こっちの世界はどうかな? 『アークセコイア』は無人だって聞いてたんだ。人死に出てないよね?」

「ええ、死傷者はゼロです」

「あーよかった。これで安心して眠れるわ」

「御主人はいつでも心置きなく寝てるぬ!」


 アハハ、あたしの睡眠事情はともかく。


「ペペさんが個人で使える消火魔法を発明してさ。初期消火にすごく有効だから、『テレサの魔法屋』で販売するのはどうかなと思って。『アガルタ』でも火事は怖いでしょ?」

「とてもありがたいですけれども、『ユーラシア』と繋がってるのが知られるのはまずいんですよ」

「私が『ユーラシア』から持ち帰ったのは水魔法と盾の魔法だけじゃないのだって、あらかじめ吹いてりゃいいじゃん。ペペさんの了解は取っとくから、タイミング見計らって投入しようよ。あたしはこっちの世界の進んだ技術が欲しいから、それと交換ね」

「わかりました」

「じゃねー。また来るよ」

「あ、ユーラシアさん。ちょっと待ってください」

「ん? 何だろ?」

「ミラさんの様子はいかがです?」


 シスターも優しいな。

 ミラ君のことを気にしてくれていたのか。


「全然元気だよ。ミラ君の相棒が『アトラスの冒険者』の後継組織のメンバーでさ。十分な働きをしてる」

「後継組織……」


 『アトラスの冒険者』の魂は生きているのだ。


「バイバイぬ!」

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