第2447話:面白きこともある世をより面白く
――――――――――エンディングエピソードその四〇:面白きこともある世をより面白く。
「……とゆーわけで、フィフィの二冊目の本の表紙絵と、セウェルス殿下に教えてもらった『笑わない酌婦』コレットさんの絵を描くことは予定に入れといてもらいたいんだ」
「おう、わかったぜ」
イシュトバーンさん家で夕御飯をごちそーになっている。
ここはデザートを食べさせてもらえるから、食事の満足度が高いなあ。
「流れの酌婦ってゆー商売が成立するとは知らなかった。でもどうやってコンタクト取ったらいいか、ちょっと難しいんだよね」
「あんたなら何とかするんだろ。しかしオレの聞きたいのはそんなことじゃねえんだ」
「あれ、何だったかな?」
セウェルス殿下がお勧めするくらいなら、絶対にコレットさんはうなじの色っぽい人だぞ?
流れのホステスってのもよくわかんないから、あたしは結構コレットさんに会うのが楽しみなんだが。
「面白話を披露しろよ」
「ええ? いい女以上の面白話ってハードル高いな」
「異世界侵攻の件を話してくれ」
「期待されるほど面白くはないんだけど」
「たわわ姫呼んでねえのは理由があるんだろ? もったいつけんなよ」
さすがにイシュトバーンさんは鋭い。
たわわ姫の口から向こうの世界に漏れるとまずいこともあるからね。
しかし向こうの世界の情報が、今のところヴィルが拾ってきた新聞以外に入ってこない。
あたし自身把握してないことが多いのだ。
掻い摘んでほにゃらら。
ちょっと細かいことも話しとくか。
「……ってわけで、ヴィルのいつもの働きをバアルがしてくれたね」
「『デスマッチ』か。ひでえパワーカードを使ってるじゃねえか。危ねえだろ」
「使い方は要注意だねえ。ただ他の手段で解決できなかったんだよ」
戦闘が終了するまで離脱を許さないという、緊張感のある効果のパワーカードだ。
常用するカードじゃないが、うちのパーティーでは便利に使っている。
ただし他の人に勧める気はない。
「で、その間ヴィルは何してたんだ?」
「御主人の言いつけで、シスター・テレサの居場所を探してたんだぬ」
「ほう?」
イシュトバーンさんの目がえっちな輝きを帯びる。
「つまりそれがたわわ姫に話せねえことなんだな?」
「まあね」
「目的は何だ?」
「いくつかあるんだけど、要は進んだ世界である『アガルタ』に橋頭堡が欲しいじゃん?」
さらにえっちな目になったな。
あたし以外の女の人にその目を向けたらセクハラだぞ?
「あんたは異世界『アガルタ』と今後も関係を持ちたいってことなのか?」
「そりゃ向こうは進んだ世界なんだもん。こっちに技術を導入したいじゃん」
「わかるが、シスター・テレサは協力してくれるのか?」
「シスター・テレサはちょっと前に『アトラスの冒険者』を退職して、『テレサの魔法屋』っていうお店を始めたんだ」
「ほお?」
「ペペさんが開発した水魔法と盾の魔法を販売してるの。ペペさんは最近消火魔法を作ったから、その製作販売の権利をチラつかせれば協力してくれるな」
でなくても向こうの世界で亜空間超越移動が禁止された今、こっちの世界の無乳エンジェルやバエちゃんの消息を知る手段は、あたしとコンタクトを取る以外にないだろうから。
一方で『アガルタ』でしか手に入らない器具や素材を捕まえた技術者が欲しがった時、シスター・テレサに手に入れてもらう手がある。
完全にウィンウィンだな。
「でもあたしが攻め込んだ件で、シスター・テレサも事情を聞かれてると思うんだよね。ほとぼり冷めた頃に様子見に行こうと思ってる」
「もう大丈夫だと思うぬよ?」
「そう? じゃ、ボチボチ連絡取ってみようかな」
「おい、ヴィルに見に行かせてるのかよ?」
「ちょっとだけ」
「いいのか? 警戒されてるかもしれねえぞ」
「あんまりよくはないな。でもたわわ姫は把握できないって言ってたし」
たわわ姫は騒ぎになるような場合じゃなきゃわからんと言っていた。
向こうの世界の技術でヴィルを探知する手段があるかもしれないが、でなきゃ向こうの世界の神様も知る術がないんじゃないか?
向こうの世界にワープしたヴィルを探知する手段がもしあるなら、新聞で報道されそうではある。
『アガルタ』はそーゆーのすぐオープンにする世界みたいだから。
どっちにしてもあたしは一度シスター・テレサに会って、『ユーラシア』に残された『アガルタ』人のことについて報告する義務がある。
「ヴィルが拾ってきた向こうの世界に新聞の記事に、あたしのこと『魔人』って書いてあったじゃん。ひどいと思わない?」
「書いてあったな。面白れえじゃねえか」
「いつか謝罪を要求したい」
「あんたは向こうの世界とも仲良くやっていきたいと考えているんだな?」
「可能ならね。でもまあムリだわ。向こうの世界の人達だけなら丸め込むことができそうだけど、神様が面倒な性格みたいじゃん? たわわ姫の言い分を聞く限りでは。向こうの神様を懐柔する手札がない」
実はないこともない。
たわわ姫との仲を取り持ってやるという、極めて強力と思われる手段だ。
でもたわわ姫嫌がってるしなー。
一度会ってみりゃたわわ姫との相性がわかるんだが、そんな機会もなさそう。
結論、不可能。
「シスター・テレサのお店を拠点にコソコソ向こうの世界を探って、有用なものや技術を導入するくらいしかやれることないかな。こっちの世界を発展させるのには十分だと思うけど」
「そうだな」
イシュトバーンさんが何か考えてるな。
まだ疑問な点ある?
「……バアルはどうした?」
「完全にうちの子になった。ほら」
イシュトバーンさんに赤と濃紺のプレートを見せる。
「こっちの濃紺のプレートがバアルのやつ。これ持ってるとバアルはあたしの感情を吸えるし、あたしはバアルといつでも連絡を取れる」
「そうか、じゃあ心配ねえな」
あ、心配だったのか。
何だかんだ言ってもバアルは大悪魔だからな。
「バアルは毎日夜になると戻ってくるんだよ。うちで寝てるの」
「ハハッ、あんたがやることはつくづく愉快だな」
「面白きこともある世をより面白くってのは、あたしのモットーの一つだねえ」
「ところで『笑わない酌婦』のことだが」
「おおう、話が戻るのか」
アハハと笑い合う。
今日の夜は長くなりそうだ。




