第2446話:賢者リモネスと聖火教&ぶるんぶるん
――――――――――エンディングエピソードその三八:賢者リモネスと聖火教。
「積極的な理由はないと思いますな」
イシュトバーンさんを連れて皇宮に来たら、近衛兵詰め所でリモネスさんに会えた。
せっかくだから何で帝国で聖火教徒が白い目で見られるか聞いてみたのだ。
しかし積極的な理由はないと言う。
「そーかー」
「ドーラでは聖火教徒が差別されるなんてことはねえだろ?」
「うーん、だけど最近帝国からの移民が多いじゃん? ちょっとあれ? って思ったことはあった」
「あんたのことだからそのまま放っておいたわけじゃねえんだろ? どういうオチつけたんだ?」
「オチって。魔物の多いドーラで、対抗手段である聖水を作ってる聖火教徒にケンカを売ろうとはいい度胸だ、みたいなことは言った」
「ハハッ、あんたの脅しは的確だな」
脅しじゃないわ。
ただの事実だわ。
魔物を甘く見ないことは大事だしな。
レベルが低い者にとって魔物はマジで脅威だから。
「強いて言えば聖火教徒の生活は控えめです。目立たぬような生活をするという態度が、却って疑念を生じさせるのかもしれません」
「ドーラはデフォルトが貧乏だろ? 聖火教徒が目立たないのかもしれねえ」
「元々いわれなく避けられていた者が、聖火教の教えに感応しやすいということもあるでしょうな」
「ふーん、まー特別な理由がないんじゃしょうがないな」
「あんた理由の方を潰そうと考えてたのかよ?」
「可能なら。だって迷惑なんだもん。最近ドーラに来た移民には聖火教徒が多いんだけどさ。同じ移民でも非聖火教徒は聖火教徒を色眼鏡で見ようとするんだよ。ドーラの中にそーゆー異分子を排斥しようという考えがあるのはよろしくない」
イシュトバーンさんとリモネスさんが面白そうな目になった。
「あんた随分不満があるようじゃねえか。聖水うんぬんの他にも何かしてるだろ?」
「新『アトラスの冒険者』に聖火教のハイプリーストを一人採用した」
「新『アトラスの冒険者』は、ドーラの重要な機関になりますかな?」
「なるね。ドーラ政府からは独立しているけど、逮捕権と懲罰を与える権利を持たせた、それなりに権威のある機関だよ」
治安維持に大きく効果があって儲けも期待できる組織だ。
聖火教徒が情報に遅れないために、一人新『アトラスの冒険者』にいて欲しかったという理由もある。
本当はドーラ政府が出資してくれるといいんだけどな。
将来的には出資させる方向に持っていくべきか、あるいは協力組織の方がメリットが大きいか。
考えどころではある。
「あと、聖火教の集落のとこを観光地にしようとは言ってある」
「観光地?」
「何だか面白れえ話になってきたな」
「リモネスのおっちゃんも似たようなこと言ってたけどさ。聖火教徒って何やってるかわかんないから、胡散臭いと思われてるんじゃないかと思うんだ。だから観光地保養地にして、聖火教はこんなことやってるんですよってアピールする」
「……なるほど、礼拝堂のあるエリアはレイノスからの距離が近いから」
「カラーズや開拓地からもね。今あそこ朝市を開くようになってるんだよ。まだカラーズの輸送隊や巡礼者くらいしか知らんだろうけど、聖火教徒の移民が多くなってくると朝市の規模も大きくなるじゃん? 遊びに行く価値のある場所になってくと思う」
とゆーか礼拝堂のあるところは地理的に重要な地点だ。
聖火教が色眼鏡で見られると、ドーラの統治のマイナスなのだ。
「精霊使い殿がいてくれて安心ですぞ」
「いやいや、ドーラには亜人差別っていうもっと大きな問題があってさ。つまらん偏見はなくしたいの」
やらなきゃならないことはまだまだあるねえ。
「おっちゃんバイバイ」
「バイバイぬ!」
「イシュトバーンさん、行こうか」
◇
――――――――――エンディングエピソードその三九:ぶるんぶるん。
「最高だったぜ」
「ありがとうね、お爺ちゃん。また見に来ておくれよ」
踊り子キリアナお姉ちゃんのダンス公演を見に来た。
だってイシュトバーンさんが連れてけ連れてけってうるさいから。
いや、あたしもキリアナお姉ちゃんに会いたかったけれども。
「もっとこう、おっぱいの存在感があるもんかと思ってたよ。ぶるんぶるんって」
「オレもそういうのを期待してたな。でも踊りにくくなっちまうんじゃねえか?」
「お爺ちゃんの言う通りだよ。でも揺れを期待してる人も多いからね」
「ギリギリの見極めが重要ってことなのか。思ったより奥が深いんだなー」
以前ちぎれたおっぱいカバーが名人芸で作られてるって話があった。
実際にキリアナお姉ちゃんのダンスを見て、こういうことかと納得したわ。
奔放に暴れるおっぱいを制御して踊りを妨げさせず、かつ観客に揺れを楽しませるという。
確かに職人技が必要だわ。
「あたしは踊るのにおっぱいが邪魔になることないからなー」
「ユーラシアはこれからだよ」
「あんたの魅力は腰から尻だぜ」
「そーゆーけど、お姉ちゃんだって腰細いじゃん。いーなー」
キリアナお姉ちゃんやイシュトバーンさんは慰めてくれるけど、ないものねだりとわかってはいる。
手に入れられないものほど欲しくなるなあ。
無念。
「今日ユーラシアは、あちきの舞台を見るためだけに来てくれたのかい?」
「そうそう。イシュトバーンさんがどうしても見たいって」
「精霊使いに頼らねえと、あんたの勇姿を見に来られねえからな」
「本当のお爺ちゃんと孫みたいだねえ」
お姉ちゃんの言葉に思わずイシュトバーンさんと目を見合わせる。
確かになあ。
あたしに爺ちゃんがいたらこんな感じの関係だったかもしれない。
でもデス爺やマルーさんにも、本当の孫みたいに可愛がってもらってる気がする。
爺ちゃん婆ちゃんが何人もいるみたいなもんだ。
そう考えるとあたしは幸せだ。
「この前描かせてもらった絵の完成品がこれだよ。画集の販売はちょっと先になるけど、ポスターとしてドーラの一部で売られているんだ」
「ほう、いいじゃないか。さすがイシュトバーン・クラナッハだねえ」
「だろう? また描かせてくれよ」
「喜んで」
またいつかキリアナお姉ちゃんを描きに来る時がありそうだ。
次は舞台衣装でって、イシュトバーンさんが考えてる気がする。
まあいいけれども。




