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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2445/2453

第2445話:フェイさんの話&あくまのおんがえし

 ――――――――――エンディングエピソードその三六:フェイさんの話。


「イネの生育は順調だ」

「収穫が楽しみだねえ」


 フェイさんが話があるということで、JYパークの黄の民のショップに来ている。

 カラーズ間の壁が取っ払われた時、黄の民は比較的売り物がなくてどうかなと思ったものだ。

 ところが対レイノス交易の輸送隊では主力だし、建設では活躍しているし、米作だって楽しみだ。

 全然心配することなかった。


「ドーラは温暖で天候は年を通して安定しているからな。農業には向いている」

「魔物さえいなきゃねえ。魔物もおいしいやつがいるから、一概には否定しないけど」

「来年は本格的に作付けできる」

「まず開拓民、次いでカラーズ、最後にレイノスって具合に、段階的に広めていけば問題ないな」

「レイノスに広めるのは簡単か?」

「レイノス東の自由開拓民集落では米作ってるんでしょ? あっちで来年多めに作ってもらって、レイノスに売り込もうよ。これは新聞使ってあたしも手伝う。仮にレイノスでウケなくても、拝火教礼拝堂のところの移民はたまには米食べたいと思うから、余って困ることはないな」

「うむ。では輸送隊からそう連絡しておこう」

「あたしもグーム出身の後輩がいるから、伝えとくね」


 ふっくら炊けたらいすはうまーいからな。

 ドーラの食文化が一段階ステップアップするわ。


「米を炊くのに専用の釜が必要だそうだが」

「開拓民から話を聞いて、赤の民に作ってもらおうか」


 釜のことを忘れてたわ。

 まあ鍋で炊けないことはないだろうから、どうってことはない。


「秋には水路の一応の完成をみる」

「早いねえ。去年の今頃には全然考えられないことだったよ」

「塩の生産に入ろうと思うのだ」

「お願いしまーす。海水を転移して持って来る装置は、サイナスさんに預けてあるからね」

「需要はどうなのであろう?」

「塩の?」

「うむ、以前物価調整のために、海の王国から都合してもらっているとは聞いたが」


 あ、フェイさんはあたしと海の女王の関係がどんなもんか知らないから、価格競争になっちゃうことを心配してるのかもな。


「海の王国との関係は良好だから、価格と生産については完全に調整下にあると思って」

「ほう?」

「まー塩みたいな安くあるべき必需品に輸送費乗っかると面白くないからさ。海の王国産の塩はレイノスまでだな。カラーズ含めたアルハーン平原には黄の民産の塩を流通させる考えで行こうよ」


 安い塩でも輸送費込みだと高くなってしまうこと。

 必需品の生産元は複数あった方が都合がいいことに、フェイさんも気付いたろう。

 塩は期待してるよ。


 唸るフェイさん。


「精霊使いユーラシアらしい、広い視野の意見だな」


 そお?

 従来産地の塩と海の王国産と黄の民産。

 特に必需品はいくつかの入手ルートがあるべきだと思うよ。

 あたしはドーラをいい国にしたいから。


「カラーズと移民開拓地の塩を賄う体制が理想かな。製塩はメッチャ儲けが出るわけじゃないけど、安定して経営できるし国にとって必要な事業なんだ。よろしくね」

「うむ、わかったぞ」

「さて帰ろうかな」

「年明けにはインウェンと祝言を挙げる予定だ。式にはユーラシアも出席してくれ」

「ありがとう! インウェンにもよろしく」


          ◇


 ――――――――――エンディングエピソードその三七:あくまのおんがえし。


「感動した!」

「感動したぬ!」


 一応ミスティさんとワッフーにも旧『アトラスの冒険者』の廃止と異世界とのいざこざについて報告しておこうと、聖火教本部礼拝堂を訪れた。

 旧『アトラスの冒険者』と異世界『アガルタ』について、断片的にしか話してなかったからな。


 そしたらヴィルごと礼拝堂奥の間に通されたのだ。

 何事かと思ったら、ミスティさんが童話を書いたんだそーな。

 タイトルは『あくまのおんがえし』。

 以前ヴィルがここの礼拝堂の結界に捕まったことと、その後ドーラ独立戦争の際、あたしとともにテンケン山岳地帯で暴れて聖火教徒じゃないよと偽装したことをモチーフにした作品だ。

 細部は違うけど、主人公はまんまヴィルの名前で出てくる。


「うふふ。ヴィルちゃんには助けられてますからね。少なくとも本部礼拝堂近辺の集落の聖火教徒でヴィルちゃんを悪く思う人はいません」

「よかったねえ」

「よかったぬ!」


 可愛いやつめ。

 ぎゅっとしたろ。


「物語にして語り継いでいこうと思ったんです」

「嬉しいぬ!」

「考えてみりゃ、童話の本ってないな? いや高い本はあるかもしれんけど、子供に読み聞かせるようなやつ」

「本は高価なのが常識だったからな」

「よろしくないな。必要のない常識は壊していかないといけない」


 ヴィクトリアさんが口伝の民話を集めてるって話だった。

 子供が聞いて楽しかったり、あるいはこの『あくまのおんがえし』みたいな教訓的な内容の童話寓話をいくつか集めて出版したら、値段次第で売れそう。

 幼児教育の難しさについて考えてるところだったしな。


「もし『あくまのおんがえし』を出版するってことになったら、許可もらえる? 歩合で聖火教にも儲けは分配するって条件でどう?」

「もちろん結構ですよ」

「よーし、真剣に考えてみるべえ」

「何で精霊使いが本のことなんかに一生懸命なんだ?」

「識字率を上げたいんだ」

「……考え方としてはまともだと思うが、どうして?」

「だって『精霊使いユーラシアのサーガ』が出版された時、読む人が少なかったらつまんないじゃん」


 唖然とした顔すんな。

 ジョークだというのに。

 半分本気だけど。


「識字率が低いことは発展を妨げるでしょ? どこの国でも大きな問題になってるんだよね。今後絶対にあちこちの国が識字率を上げようとするよ。識字率が上がると、当然のことながら本が売れるの」

「ビジネスチャンスということですね?」

「そうそう。カラーズ緑の民が、本にできる質のいい紙を結構安く売ってるんだよ。だから今は帝国よりドーラで本作った方が、輸送費を考えても安いの。ドーラを富ませるための重要な輸出品にしたいから協力してってこと」

「夢がありますねえ」


 あるんだよ。

 でも今日は『あくまのおんがえし』を知れてよかった。

 良質の童話だ。

 シシーちゃんに読んであげたいくらい。


「じゃ、今日は帰るね」

「バイバイぬ!」

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