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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2444/2453

第2444話:雛鳥が巣立つ時

 ――――――――――エンディングエピソードその三五:雛鳥が巣立つ時。


 あたしとルーネ、ヴィル、ぴー子で大空高く飛んでいる。

 編隊飛行だ。

 無言で合図してくるぴー子。


「獲物を見つけた? よし、もう一度チャレンジしてみようか」

「くおっ」


 ぴー子が小さく返事を返してさらに舞い上がっていく。

 うんうん、成長したねえ。

 いつの間にか飛べるようになり、『ぴい』と言わなくなったぴー子を頼もしく思う。

 ルーネが聞いてくる。


「ユーラシアさん、ぴー子がどこに獲物を見つけたんだかわかります?」

「いや、わかんないな。猛禽の目は大したもんだねえ」


 今日はぴー子の初めての狩りに付き合っているのだ。

 大声で鳴いて獲物に感付かれたり逃げられたりしたけど、段々ぴー子も学習している。

 ぴー子は賢くて可愛いやつだから。

 今度こそうまく狩れるといいな。

 なだらかな平地で、地形としては絶好だ。


「おっ、急降下だ。頑張れぴー子」

「下に何かの群れがいます!」

「この距離であたし達にもわかるくらいの大きさならキングヌーかな?」


 気付かれた。

 獲物も必死で逃げる。

 群れが散開した。

 しかしぴー子は迷いなく突っ込んでいく。

 慌てず一匹に狙いを定めているようだ。

 うん、ちゃんと経験が身になってて偉いな。

 バサッと地上へ。


「捕まえたっぽいな。やったぜぴー子!」

「行ってみましょう」


 あたし達も降下する。

 よしよし、鋭い鉤爪でガッチリ捕まえてるな。

 やはりキングヌーだ。

 小さいからまだ子供だと思われる。

 しかし負けた者が御飯になるのは世の習いであるから。

 大人しくぴー子の胃袋に収まりなさい。


「おめでとう! ぴー子よくやった!」

「くお……」

「ん? どーした。あっ、足ケガしてるじゃないか」


 勢いよく突っ込み過ぎたんだな。

 まあ仕方ない。

 何事も経験だ。


「ヒール! どう?」

「くおっ!」

「よしよし、もう平気か。いい子だね」

「いい子だぬ!」


 ヴィルとルーネとぴー子でぎゅー。

 可愛いやつらめ。


「これからあたしのいない時にケガしたら、カムイ隊長に診てもらうんだよ? 隊長も回復魔法使えるからね」

「くおっ!」

「じゃあ今日のレッスンはここまでだ。御飯を食べちゃいなさい」


 ガツガツとキングヌーの幼獣を頬張るぴー子。

 自分で初めて仕留めた獲物には感慨があるかな?

 これが大人になるってことだ。


          ◇


「ただいまー」

「ただいまぬ!」


 ぴー子のねぐらのあるオンネカムに戻ってきた。

 カムイ隊長が問うてくる。


「どうだ?」

「上々だね。一頭キングヌーを捕らえることに成功したよ」

「ほう、よかった」

「問題がないわけじゃないけど、何度か狩りに行ってる内に学習すると思う」

「そうか」

「くおっ!」


 誇らしげに翼をバサッと広げるぴー子。

 今日はよくやったよ。

 隻腕の傭兵カムイ隊長もぴー子に労いの声かけてやりゃいいのに、優しく見つめるだけだ。

 心配してたろうになあ。

 隊長は無口というのではないが、不必要なことは言わない傾向にあるのだ。

 あたしはお喋りしたいのに。


「君はいつもぴー子にエサをやったらすぐに帰ってしまうが」

「何? 美少女聖女のあたしと話をしたかった? いやん」

「いやんだぬ!」


 アハハ、こういうやり取りも好き。


「今日は時間あるんだ。モイワチャッカとピラウチ両国の様子はどうかな?」

「完全に停戦状態だ。両国の代表をタンネトに迎えた会合以来、小競り合いすら報告されていない」

「いいことだねえ」

「両国間で書簡のやり取りが始まったんだ」

「しょぼいけど、まー最初はそんなもんか」

「ついこの前まで国交断絶してたんだからな? 著しい進歩だ」


 あたしはせっかちなので、すぐ結果が欲しくなっちゃう傾向にある。

 何十年も戦争してたんだから、簡単に仲良くなれるわけはなかったか。

 前進する一歩が重要なのだ。


「君のおかげだ」

「よせやい。あ、そーいえば『アトラスの冒険者』はなくなっちゃったんだ」

「何だと?」

「なくなっちゃったというのは語弊があるな。今までみたいにわけわかんないクエストを振られることがなくなったとゆーか」


 カムイ隊長に細かいことを話すつもりはない。

 直接関係ないしな。


「特に影響はないんだな?」

「ないね。ぴー子がエサを自分で獲れるようになっても、時々こっちに遊びに来るのは一緒。でも隊長やぴー子と会えたのは『アトラスの冒険者』のおかげじゃん? 突然の出会い系エンターテインメントが今後はないんだと思うと、乙女のハートがセンチメンタルに押し潰されそうで」

「意訳すると、何となくつまらんということか」

「そんなことはないぬよ? 御主人はいつも楽しそうだぬ」

「いつも楽しいのは事実かもなー」


 『アトラスの冒険者』がなくなったらなくなったで、愉快なイベントはどんどん目白押しのよーな気はしている。

 あたしはエンタメの星の下に生まれついているから。

 誰だ、トラブルメーカーだからって言ってるやつは。


「モイワチャッカとピラウチの開発が進むと困ったことも起きる」

「ん? 困ることって何だろ?」

「ぴー子の狩場がなくなってしまうのだ」

「あー」


 ぴー子ほどの巨体で狩りをするなら平地じゃないと難しそう。

 でも開発が最も容易なのも平地だしな。


「あんまり考えることもないんじゃない? ぴー子は自分で狩りができなくても、エサもらえて自由に飛べればいいと思うよ」

「くおっ!」

「ほらほら、それでいいって」

「そうか、狩りができないとストレスということはないか」

「カル帝国の皇宮の地下でガルーダが飼われててさ。あれは機嫌が悪いんだよな。やっぱ閉じ込められてるとダメみたい」


 人形系の亡骸をあげると機嫌は直るけど、それは自然なことじゃないもんな。


「ぴー子には邪気がないし人馴れしてるから、御飯さえもらえて自由にさせとけば悪さするとは思えないよ。それこそピラウチの王様に聞いてさ。『神の親』だった初代の王様がどう相棒のガルーダと付き合っていたか、調べとくといいんじゃないの?」

「ふむ、ヘレグフト王との話題にしろということか」

「そうそう。コミュニケーション大事」


 モイワチャッカとピラウチこそこれからの国家だ。

 でもドーラと同じでポテンシャルはあるから、今後の発展が実に楽しみ。

 撫でて欲しそうに頭を寄せてくるぴー子をぎゅっとしながらそう思った。

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