第2442話:スライム協会&ウルリヒさんに連絡
――――――――――エンディングエピソードその三二:スライム協会。
「ほう、スライム協会」
「魔物は魔物ですからな。やはり管理はしっかりしておかなければなりませんので」
ノルトマンさんとニライちゃんを連れてスライム牧場へやって来た。
スライム爺さんも孫のヒューバートさんも、帝国の事情を知ってるわけじゃないから、熱心に聞いてくれる。
「帝国は魔物の多い国じゃないからさ。一方で人口は多いじゃん? 逃げ出したスライムが野生化すると、結構な問題になっちゃいそうなんだよね」
「ユーラシア殿から、一旦問題になるとスライムのイメージが悪くなるという意味のことを言われたのですな。もっともなことだと思いまして、事業化の前に協会を設立するのですよ」
「なるほど」
魔物に関する法整備も整えないといかんのもまた自明の理。
ただ法律がガチガチだとこれまた商売やりづらかったり、製品価格に跳ね返ったりしそう。
程度が問題になる。
協会でとゆーか実際にはノルトマンさんとこでテストを続けてみて、どんなルールが必要なのかを練ればいいんじゃないかな。
「大規模飼育設備が整ったら契約に伺いたいと思います」
「わかりましたぞ。ところでスライムを試験飼育してみてどうだったですかな?」
スライム爺さんには飼ってどうかってことが気になるんだな。
あれ? ニライちゃんに不満があるようだ。
「ぶんれつしなくなったぞなもし」
「それは増えなくなったということですな?」
「そうぞなもし」
「ヒューバート、どういう状況が考えられるか言ってみよ」
確かニライちゃんはガダルカナルと名付けたスライムが分裂すると、ガダルとカナルって名前まで分裂させて可愛がってたはずだ。
もっと分裂したら名前どうするんだろと思ってたが、それ以降は増えてないのか。
つまらん。
しかしスライム爺さんには原因が見当ついてるみたいだな。
「そうですね……お嬢様はとてもスライムを大事にしていらっしゃるのでしょう?」
「だいじにしているぞなもし。いつもいっしょにねているぞなもし」
「一緒に寝てるのか。マジでペットとして有望だな」
「あちしのいうことをよくきくようになって、すごくかわいいぞなもし」
「おそらくそれが原因です」
どゆこと?
「スライムにとって分裂して増えるのは本能です。しかし今が快適で分裂すると生活環境が劣化するような場合には、増えなくなってしまうのです」
「飼育環境に沿った適切な頭数以上に増え過ぎることがないというのも、今のお話に通じるものですな?」
「そうです」
「ふーん、じゃあペットとして飼われるスライムは、さほど増えるもんじゃないんだな」
「ざんねんぞなもし」
「ニライちゃんはスライムを両腕に一匹ずつ抱えて可愛がってるんでしょ?」
「そうぞなもし」
「ニライちゃんの腕が二本しかないから、二匹しか飼えないってことだな。もし四本あったらもう一回分裂してたと思うよ」
「「「えっ?」」」
冗談だとゆーのに。
ニライちゃんの腕が四本だったら、それはそれで面白いけれども。
ノルトマンさんが言う。
「寒い時期の飼育で気をつけることはありますか?」
「特にはないですぞ。ああ、帝国はドーラより寒いのでしたな。凍るより低い温度になると、死にはしませんが極端に動きが鈍くなります。代謝も落ちて脱皮もしなくなりますので、商業的に考えるとある程度の温度があった方がいいと思いますぞ」
なるほど、ドーラとは違う注意点もあるんだな。
涼しいところが飼育に適しているって聞いたけど、寒すぎるのはダメみたい。
「ふむ、気温でどうかということは検証してみなければいけないようです。実際の大規模飼育設備相当のところで冬を越させてみます。もう二頭売っていただけませんか?」
スライムの事業化も進んでるなあ。
いいぞいいぞ。
◇
――――――――――エンディングエピソードその三三:ウルリヒさんに連絡。
『御主人! ウルリヒだぬ!』
『ユーラシア君だな?』
「そうそう。著しい高貴の化身のあたし」
『著しい好奇の化身?』
「そーとも言う」
アハハ。
領地に帰っているウルリヒさんに連絡を取ってみた。
『どうしたんだ? 何か起こったのか?』
「まー『アトラスの冒険者』廃止という、あたしの人生における一大事はあったね」
『えっ?』
「いや、後継組織新『アトラスの冒険者』が動き始めたから、大丈夫なんだけどさ」
『驚いた。今までとユーラシア君の置かれている状況は変わらないんだな?』
「変わんない。うちにはヴィルがいるから」
ヴィルがいればあたしの機動力は変わらないのだ。
「さっきノルトマンさんに会ったんだ。スライム飼育事業についてちょっと進展があった。ウルリヒさんはスライムに興味ありそうだったから伝えておこうと思って」
『助かるな』
「ノルトマンさんがスライム協会を立ち上げたみたいだよ。飼育業者は協会を通すことになると思う」
『予定通りだな。社交シーズンになったらノルトマン殿には挨拶しておこう』
「ただし商業飼育は少し遅れそう。帝国の寒さで冬季の飼育がどうかってことを検証したいみたい」
『うむ、当然の懸念だ。まあすぐ事業化できるとは思っていなかった』
「そーなの?」
いや、そりゃそーか。
あたしはせっかちだからすぐ色々やりたくなるけど、事業化なんて考えなきゃいかんこと多いしな。
「連絡したかったのはスライムについてだけだよ。ウルリヒさんの方から何かある?」
『北の編入地だが、立ち入り禁止区域に指定している東端以外は、狩り残した魔物の掃討が終了した』
「おお、早いね。結構な面積があったのに」
『道と水路の整備をしないとな。移民を呼ぶ前に領主導で大規模農業を試してみたいんだ』
随分と弾んだ声だな。
自由にできる広い土地が手に入ったから、色々手を入れてみたくなっちゃったらしい。
ウルリヒさんはやる気があるからな。
『フェルペダから連絡があったのだ。ビヴァ王女の婚約を近々発表すると』
「おっ、いよいよビバちゃんも婚約か。めでたいことだね。フェルペダ遊びに行って、ビバちゃんをからかってこようかな」
『ハハッ、俺から報告すべきことはそんなところだ』
「ウルリヒさんまたね。ヴィルありがとう。こっち戻ってきてくれる?」
『はいだぬ!』




