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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2437話:魔王島の『アトラスの冒険者』

 ――――――――――エンディングエピソードその二五:魔王島の『アトラスの冒険者』。


「御主人!」

「よーし、ヴィルいい子!」

「友ユーラシア!」

「何なんだもー。順番に並びなさい」


 聖グラントのクオンさん以下四人を連れて魔王島にやって来た。

 クオンさん以外の目が点になってるがな。


「彼らが……悪魔?」

「悪魔だよ」

「悪魔ぬよ?」

「魔王だぞ」

「魔王島は魔王の統べる島だからね。悪魔がいるのは当然」

「どうして君は悪魔と親しいんだ?」

「根本的なところに疑問を持たれても。悪魔は可愛いし面白いから好きなんだもん」


 枝葉のことで時間を浪費されてもな。

 ぎゅーされたくて並んでる悪魔を見て理解してよ。

 あんた達は悪魔じゃなくて、税金のない新天地に興味があるんでしょ?

 知りたいことはどんどん聞くなり調べるなりしなよ。


「ザップ、すげえじゃねえか! ここが新天地か!」

「そうだ。魔王島だ。少し空気が重い感じがするだろ」

「魔王の島であるぞ」

「ちょっとややこしいから説明するね。ここは魔王とその配下の悪魔の根拠地の島だよ。でも悪魔達はおゼゼが欲しいわけじゃなくて、尊敬の感情が欲しいんだ。魔王と悪魔を敬う限り税金はありませーん」

「税金がないってのは最大の魅力だな」

「見てくれ、このトウモロコシを。種蒔きの時期が遅かったけどきちんと実ったぜ。オレ達みたいな農業素人でもこれだけのことができたんだから、土地は肥えてると思う」

「ああ、いい土だ」


 今日クオンさんが選んで連れてきた人達は農業知ってるみたいだな。


「弧海州に比べると気温は涼しい」

「うむ、しかし魔王島もこの近辺は雪はほとんど降らぬぞ。まず温暖と言ってよい」

「いい条件だな、おい」

「魔王様、オレ達が移住してきても構わないのか?」

「もちろん歓迎するぞ。ノーマル人が多くなるということはすなわち、魔王達の求める尊敬の感情を多く得られるということだからな」


 普通に魔王と喋れてるじゃないか。

 あたしがぎゅーしてたからか、それともクオンさんにある程度話を聞いてたからか、悪魔に対する抵抗はさほどないようだ。

 いいことだな。


「税金がなくて、自分達の思うように自給自足社会が作れるのか」

「どうだ、羨ましいだろう?」

「いや、聞く限りでは羨ましいわ。理想の大地だわ」

「待った、魔王島の良くない部分も聞かせてくれ」

「魔物が出るんだ。しかしそれは魔王様達が駆除してくれる」

「ま、魔物か。怖いな」


 うむ、魔物って言われちゃうと躊躇したくなるだろうな。

 特に魔王島の魔物は結構強いし、悪魔達が魔物を駆除してくれるとはいってもどれくらい信用できるのかの問題もある。

 あたしだって『アトラスの冒険者』になったのは、魔物の脅威を退けたかったからだ。


「あとわかっているかと思うが、魔王島は外洋の孤島だ。ユーラシアが来てくれない限り、外の世界と連絡を取る術がない」

「「「……」」」


 これまた大きなデメリットだ。

 自ら外洋に出帆するほど追い詰められていたザップさん一行には許容できるデメリットであったとしても、現在実際に社会の中で生きている人間に耐えられるのか?

 一人が言う。


「ザップ、ここはいい島だ」

「だろう? ならば……」

「だけどよ、実際自分が移住するとなると考えさせてもらいたいぜ」

「そ、そうか」

「い、いや、絶対に移住しねえって言ってるんじゃねえんだ。ただ覚悟がな……」


 痛いほどわかる。

 移住したら戻れないと同義だもんな。


「いくつか作物の種と苗を持ってきたんだ。置いてくから試してみてくれよ」

「ああ、すまんな」


 クオンさんが目でザップさんに謝ってるけど、これはしょうがないよ。

 今日来た人達から魔王島の様相がさらに知られ、興味を持ってくれる人が増えることを祈ろうじゃないか。


「ヴィル、聖グラントに飛んでくれる?」

「了解だぬ!」


          ◇


「はあ」

「気を落とさない。作物の種と苗をもらったことだけでも十分な前進じゃん」

「ま、まあな……」


 クオンさん含む四人を聖グラントに送ったあと、もう一度魔王島に戻ってきた。

 結構ザップさんが落ち込んでいる。


「魅力はあるんだよ。今の生活と天秤にかけて、魔王島の生活の方がよければ移住者は来るんだって」

「結局魔物と隔絶されてることが理由じゃどうにもなんないじゃねえか」

「どうにでもなるとゆーのに」

「……あんた確か、以前もどうにでもなるって言ってたな。何か手段があるのか?」


 いよいよ本題だ。

 ザップさんの覚悟を問う。


「ザップさん、『アトラスの冒険者』やってみる気ない?」

「あんたみたいに転移できる冒険者ってことかい?」

「そうそう。正確には改組したから以前の『アトラスの冒険者』じゃないけど、メンバーが推薦する希望者ならなれるようになったの。転移でこことドーラを行ったり来たりできるようになるから、魔王島が人類社会から孤立してるってことがなくなるよ。ある程度魔物と戦うこともできるようになる」

「……いいことばかりだな。その代わり危険があるんだな?」

「まあ」


 あたしがレベル上げするし、ふつーにやってれば危険なんかあんまりないけど。

 とゆーかレベルなしにこんな強めの魔物が出る島に住む方が、よっぽどヤバいと思うけど。


「あとはそーだな。ドーラのルールに従ってもらうことになるかな」

「選択の余地がねえようだ。いくらかかるんだ?」

「三万ゴールドだけどいらない。あたしが出しとく。ザップさんが『アトラスの冒険者』をやってくれると、魔王島がドーラの経済圏に入ることになるからね。利益が計り知れないのだ」

「経済圏だ? 学者みたいなことを言いやがる」

「あたしは賢いからなー」

「賢いんだぬ!」


 アハハと笑い合う。

 ザップさんも吹っ切れたようだ。


「オレも『アトラスの冒険者』の仲間に入れてくれ」

「よーし、ヴィル、魔境飛んでくれる? あっ、魔境の前にギルドだな。ポロックさんとおっぱいさんに話を通しておこう」

「了解だぬ!」


 これで魔王島もドーラの仲間だ。

 帝国からの移民で成り立ってるドーラと弧海州移民で作られている魔王島では、大きく異なる風習もあるだろう。

 デリケートな部分に立ち入る気はないけど、魔王島の人口が増えたら、互いに行き来できる転移石碑を設置してもいいな。

 繁栄の未来をともに。

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