第2436話:享楽者セウェルス殿下のズデーテンルポ&寝込むデス爺とサディスティックコケシとめでたし
――――――――――エンディングエピソードその二三:享楽者セウェルス殿下のズデーテンルポ。
「南方の諸島諸国から入ってくるユニークな産物があってな。それがズデーテンを帝国内でも一風変わった地域にしている。中でもオレのお勧めはワイナイナ産の果実酒だ。芳醇な香りと濃厚なコクが……」
新聞記者トリオを連れてズデーテンにやって来た。
セウェルス殿下がメッチャ語る語る。
何これ? 別人みたい。
新聞記者が取材している間、あたしは元辺境伯爵バルタザールさんと話をする。
「殿下の調子随分良さそうだね。あんなに舌が動く人だと思わなかったわ」
「そうだの。先日の訪問から特にやる気になっているようで、ユーラシア嬢の再訪を今か今かと待っていたのですぞ」
「マジか」
セウェルス殿下が?
どうなってんだ?
「新聞記者も紙面が埋まって嬉しいと思う。慢性的に記事不足でさ。あたしが帝都行くと、ネタ欲しさに寄ってくるの」
「ふむ、重畳じゃな」
「ウィンウィンだねえ」
バルタザールさんも満足げだ。
セウェルス殿下が元気ってこともあるけど、ズデーテンの現在の様子が帝都に伝わることは、反乱の噂を消すと同時にズデーテンの産物を売り込むチャンスにもなるから。
「ズデーテンのもので帝都に入ってるのってお茶だけ?」
「あとは柑橘が少々だな」
「オリーブ油は売らないんだ?」
「おっ、ユーラシア嬢はオリーブ油の風味を御存じだったか」
「質がいいよねえ。ニンニクと合う」
「何、ニンニクとな?」
あっ、ニンニクは涼しいところの方がうまく育つんだったか。
ズデーテンにはあまりないのかな?
「あたしは東方のフェルペダって国でオリーブを知ってさ。フェルペダではオリーブ油ニンニクトウガラシをワンセットみたいに使う料理が盛んで、メッチャおいしいの」
「そうだったか。ニンニクは帝都にも多いしの。きっかけがあればオリーブ油は普及しそうだが……」
「共闘しよう。ドーラも気候が近いからオリーブを導入しようと思って、試験的に栽培始めてるの。いずれ帝都に売り込みたい」
「何と。ドーラがライバルになってしまうのか」
「ライバルっちゃライバルだけど、オリーブの知名度を上げる役には立つよ。ドーラのオリーブはフェルペダから導入してる品種だから、住み分けはできると思う」
オリーブ油ならズデーテン産だ。
いやいやドーラ産もなかなかだぞっていう構造になれば、どっちも売れるのだ。
今は帝都で全然オリーブが認知されてないから売れないだけ。
「ドーラ~帝国間の貿易を一番一生懸命やってる商人さんは、皇帝陛下と懇意な人なんだ。仕掛けはドーラからの方が利きやすいから任せて。数年経ったらオリーブのブームにしよう。その時は乗り遅れずにズデーテンからも売り込んでね」
「うむ、わかったぞ」
握手。
ズデーテンとヴィクトリアさんの宣伝があれば、オリーブが帝都で受け入れられるのは早いと見た。
となればドーラにも大きなメリットだ。
フェルペダやズデーテンで、オリーブ油をうまく使ったレシピを集めとかないとな。
こういう企みは楽しいなあ。
◇
――――――――――エンディングエピソードその二四:寝込むデス爺とサディスティックコケシとめでたし。
「あいたたた……」
「もー頑張り過ぎだろ」
「頑張り過ぎだぬ!」
塔の村の様子を見に来たのだ。
もうすっかり異世界人達は村に馴染んで、塔のダンジョンの探索をしている者も多いそうな。
めでたし。
で、めでたくないのがデス爺だ。
腰やっちゃったみたい。
小屋で寝ていた。
ゴーストアイドルのライブやら異世界人の侵攻やらその後始末やらで多忙だったからな。
気の毒といえば気の毒。
でも実際によく動いてたコモさんじゃなくて、デス爺の方がぎっくりしちゃうって因果だなあ。
「ぎっくり腰に回復魔法は効くんだぞ? じっちゃん『ハイヒール』は使えるでしょ?」
「使えるが手が届かん。身体を捻るとあいたたた……」
「ムリしない」
しかしあたしの見るところかなりひどい。
言うなればドラゴンレベルのぎっくり腰だ。
『ヒール』だと何発撃っても完全には治んなさそう。
クララ呼んでくるか。
「こんにちは……あっ、ユーラシアか」
「エル、いいところに!」
エルのパーティーが来た。
エルはデス爺にツラく当たってるように見えて心配はしてるんだな。
「コケシ、ちょっと手を貸してよ。じっちゃんの腰治したいの」
「どうして私が?」
「『ハイヒール』じゃないと治んなさそーなんだ」
「だからどうして私が回復魔法を使わなければならないんです?」
「待て! コケシに手伝わせるくらいなら、寝てた方がよっぽどマシじゃ!」
「意識の乖離がすげえ。じゃああたしからコケシにお礼しようじゃないか。それならいいでしょ?」
不承不承納得するデス爺とコケシ。
デス爺はコケシで大丈夫なのかって顔してるし、コケシは私を納得させる礼品なんでしょうねって顔してる。
何なんだ。
あんたらは二人ともメリットが明快だろーが。
「いいかな? 回復魔法でぎっくり腰治すのにはコツがあってさ。悪いところにピンポイントで撃ち込まなきゃいけないの」
「撃ち込むですか。私好みですね」
「本当に大丈夫なんじゃろうな? あいたたた……」
「大丈夫だとゆーのに」
あたしは帝都でぎっくり腰のエキスパートと言われてるくらいだぞ?
「じっちゃんはこっち向かなくていいから伏せてて。コケシ、もう一ツカ上で。そうそこ。深さ半ツカくらいを狙って『ハイヒール』して」
「ハイヒール!」
「いいね。今の位置にもう一回『ハイヒール』」
「ハイヒール!」
「よーし、オーケー! じっちゃん、もう痛くないでしょ?」
「おお、すまんな」
身を起こすデス爺。
顔色までよくなってる。
めでたし。
「ユーラシアさん。報酬はしっかりいただきますよ」
「わかってるよ。これあげる」
「お酒?」
「帝国の南にある島国特産の果実酒だよ。帝国の皇子が推してた逸品。本当はじっちゃんのお土産に持ってきたんだけど」
「何故皇子が推すほどの酒をコケシにくれてしまうのじゃ!」
「喜んでいただきます」
ハハッ、コケシがお酒飲むかは知らんけど、デス爺を悔しがらせるというシチュエーションはツボだろ。
あたしも面白い場面を見ることができてめでたし!




