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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2435話:録音の魔道具

 ――――――――――エンディングエピソードその二二:録音の魔道具。


「プラス二なわけじゃん?」

「わっちも入れてプラス三ぬよ?」

「そーだった。ヴィルを忘れてた。ごめんよ、ぎゅっとしてあげようね」

「ありがとうぬ!」


 アンセリとルーネも含めてぎゅー。

 ソル君が生温かい目で見とるわ。


 つまり今はソル君が『アガルタ』人にもらった録音の魔道具を調べてもらおうと、魔道研究所に行く途中なのだ。

 何がプラス三かっていうと、奇麗どころの数だ。

 ソル君にはいつもアンとセリカがセットだけれども、今日はあたしとルーネとヴィルがいるじゃん?

 何ということでしょう、華やかさが二・五倍にアップしたではありませんかとゆービフォーアフター。


「重要なのは録音の魔道具ぬよ?」

「おおう、ヴィルに問題提起されてしまったわ」

「ユーラシアさんはどう思います?」

「面白いアイテムだよね。どれくらいの時間の音声を記録できるの?」

「一〇秒くらいです」

「一〇秒かー。ちょっと使い道が限定されちゃうな」


 何かの発言を狙って記録しておくというのはほとんど不可能だろう。


「例えばルーネが使うとするじゃん?」

「私ですか?」

「うん。『お父様、起きてください。朝ですよ』と録音するでしょ?」

「お父様へのプレゼントということですね?」

「そうそう。ルーネがお嫁に行く時にお父ちゃん閣下に渡すんだよ。一生使うと思うね」

「お父様がですか? まさか」


 まさかじゃないよ。

 泣きながら使うよ、きっと。


「アンセリだったらどう使う?」

「どうと言われても」

「一〇秒ですもんね。業務連絡くらいしか」

「業務連絡?」


 どゆこと?

 何々? ホニャララが必要ですって吹き込んどいて、誰かが聞いたら了解って録音し返す?

 普通に賢い使用法だな。


「ソル君への用を吹き込んどけばいいじゃん。で、返事には『愛してる』って入れてもらうの」

「「いいですねっ!」」


 アハハ、ソル君が何言いだすんだって顔してるけど、サービスしてやりゃいーんだよ。

 言うだけはタダだから。


「ユーラシアさんだったらどう使います?」

「えっ? オチを期待されちゃってる?」

「期待してるぬ!」

「うーん。でも録音時間がネックだよなー」


 クララは寝てる間に思いついたことをメモしときたい、なんてことがあるらしい。

 メモより録音の方が手軽だから、役に立つんじゃないかな。

 一度寝たら朝までおきないあたしには必要のないものだけど。


「お値段お安めで作れるなら、プレゼント品にしたいね」

「プレゼント品ですか?」

「うん。面白いもんだなとは思うけど、自分で買う気にはならないじゃん? 誰かにあげると喜んでもらえそう」

「ユーラシアさんだけ、使うの方向性が違う……」


 オチとしては弱かったかな?

 いーんだよ、方向性なんて。


 さて、魔道研究所にとうちゃーく。

 受付に誰もいないわ。

 中のラウンジまでずんずん進む。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「やあ、ユーラシアさんか。ルーネロッテ様もいらっしゃいませ」

「こちらはドーラの冒険者仲間のソル君、アン、セリカだよ。音を記録できるっていう、ちょっと面白い魔道具を手に入れたから、相談しに来たの」

「ほお?」

「ドルゴスさんかマーク君いる?」

「おう、ちょっと待っててくれ」


          ◇


「えーと、随分集まったね?」


 宮廷魔道士長ドルゴスさんやあたし番のマーク青年以外にも、結構人が出てきたぞ?

 何でだ?

 こいつら自分の研究に予算寄越せ以外には、何も考えてないのかと思ってたわ。


「要するに美少女に飢えてるってことだったか」

「「「「「「「「違うよ!」」」」」」」」「「「「「「「「それもあるけど」」」」」」」」

「判定、ドロー!」


 アハハ、結構面白い。

 ドルゴスさんとマーク青年が言う。


「音を魔道的に扱うというのは難しいのですぞ。単純に音を増幅する拡声器以外に成功した例を聞きませぬ」

「ユーラシアさんはヴィルを介して遠隔で通信できるでしょう? 興味を持ってる魔導士は多いと思います」

「赤プレートはヴィルとの信頼の証だから貸せないけれども」

「信頼の証なんだぬ!」


 ふーん、音って魔道では難しい分野なのか。

 やっぱ『アガルタ』は進んでるんだな。

 ソル君に録音の魔道具を報酬としてくれたのは、音を扱うのは難しい技術だとわかってたからかもしれない。


 『アガルタ』の神様は魔道の専門家じゃないから、大したことないものをこっちの世界に渡したって認識だったと思う。

 あたしだって面白いことは面白いと思ったけど、こっちの世界の発展に直接役立つとは考えなかったもん。

 でも専門家達が興味を持ってくれるのはいいな。

 将来すごいもんが発明されるかもしれない。


「これは異世界の魔道具なんだ」

「異世界の魔道具、とは?」

「あたし達の世界とは別の、亜空間で隔たれた進んだ世界の産物ってことだよ」


 驚愕が広がる。

 でもさすが宮廷魔道士だな。

 これだけでどういうことか皆把握しているらしい。


「どうして別世界の魔道具が手に入るんだ?」

「『アトラスの冒険者』が関係してるんだ。異世界は『アガルタ』と言って……」


 『アトラスの冒険者』が異世界『アガルタ』の事業だったホニャララ。

 再び驚愕の感情が場を支配する。


「『アトラスの冒険者』とはそういう……」

「正体がわからんとは思ってたんだ。直接ドーラとは関係ないようだったし」

「あれ? 『アトラスの冒険者』に興味を持ってくれてた人もいたのか」

「そりゃそうだろ。当たり前みたいにヤマタノオロチを倒すわ、精霊や悪魔を配下にしてるわ、政権の中枢に食い込んでくわ」


 『アトラスの冒険者』じゃなくてあたしのことじゃないか。

 おまけに皆が聖女の恩恵に浴するわ。


「ま、どっちにしても異世界『アガルタ』とは、今後交渉を持てなくなっちゃったんだ」


 ヴィルが何か言いたそうだけど黙っていなさい。


「その録音の魔道具が、異世界が残していった最後のアイテムか」

「うん。ドーラじゃ調べらんないから、皆さんにお願いしたい、調査料はこれでよろしく」


 魔宝玉をごそっと置いてく。

 本来宮廷魔道士は公務員で帝国の仕事以外しないもんなんだろうけど、この前真珠についても調べてくれたしな。

 予算さえ出せばガタガタ言うまい。


「じゃ、よろしくお願いしまーす」

「よろしくお願いしますぬ!」

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