第2430話:シンカン帝国の未来
――――――――――エンディングエピソードその一四:シンカン帝国の未来。
「食べづらい」
ウタマロとサヨちゃんを連れてシンカン帝国の都にやって来た。
ウタマロが一度都を見てみたいってことだったからだ。
元々はサヨちゃんの母方に縁のある諸侯に顔繫ぎしようっていう作戦ではあった。
でも先に都の状況を知っとくことも必要ではあるしな。
偵察とゆーか見物とゆーか、皇宮に飛んできたのだ。
この前サヨちゃんを送ってきたのは近衛兵で、あたしやウタマロを見知ってる者もいた。
とゆーわけで皇宮の敷地内に入れてもらい、お土産のお肉でパーティーだ。
お肉は大体誰とでも仲良くできるミラクルな食材だから。
しかし……。
「サヨ様につけられていた首枷を見た呪い師が恐れたそうですぞ。ウタマロ殿には相当強力な守護者がいるようだと」
「そんなことよりあの子は何なん?」
柱の陰から顔を半分覗かせてこっちを見てる男の子がいる。
リキニウスちゃんと同じくらいかな?
一〇歳にもならんだろう子だ。
メッチャ気になる。
食べづらくてしょうがない。
「異母弟のオオタカです」
「とゆーと、皇太子候補ナンバーワンの?」
「さようですな」
「何で一人なのよ。お付きの人がいるべきだろーが、ってのはあたしの勝手なイメージなのかな?」
「オオタカ殿下はイタズラ好きでありますでな。従者をまいて一人で行動していることもあります。殿下を皇宮外に出さぬことは、近衛兵の重要な任務ですぞ」
「ウタマロのライバルか。一人で行動することの怖さも教えてやらにゃならんな。捕まえよう」
「「「えっ?」」」
ダッシュして捕まえる。
ハハッ、あたしから逃げられるわけないだろ。
「放せ!」
「捕虜は言うことを聞くもんだぞ? ところでいい匂いでしょ。オオタカちゃんも食べない?」
「……食べる」
いい度胸だ。
うむ、なかなかやる子だな。
しかも何かの固有能力持ちだ。
「美味い!」
「そうだろうそうだろう。コブタマンのお肉の炙り焼きは最高だぞ?」
「予は温かい食事を取ったことがないのだ」
「えっ? 何で?」
近衛兵が説明してくれる。
「毒殺を警戒せねばならぬお立場ですからな。毒見を繰り返すと冷めてしまうのですぞ」
「マジか。お肉なんか熱々の方がおいしいに決まってるのに、可哀そーだな。これあげる」
「何だ? カード?」
「近衛兵長さん、ちょっとした傷があるね。ちょうどいいや。オオタカちゃん、このカードに念じて『ヒール』してみ?」
「ヒール!」
「あっ、ケガが治った?」
「ドーラ名物、回復魔法『ヒール』と治癒魔法『キュア』が使えるようになるパワーカードだよ。これどこでも喜んでもらえるから、お土産用に持ってるんだ。ウタマロと近衛兵長さんにもあげるね」
「すまないな」
オオタカちゃんがまじまじとあたしを見る。
あたしの魅力に気付いてしまったか。
美しさは罪。
「……お前が精霊の巫女なのだろう? ウタマロの守護者の」
「そうそう。よく知ってるね」
「ウタマロは予の敵だ。どうしてお前が予に良くしてくれる?」
「ふーん、ウタマロは敵と教わってるのか。オオタカちゃん、ちょっと自分の頭を使って考えてみようか」
「な、何だ?」
「つまりウタマロとは次期皇帝を争う者同士だから敵だ、ってことなんでしょ?」
「そうだ!」
「わからなくはない考え方ではあるよ。でも小さいな」
「小さい?」
首をかしげるオオタカちゃん。
うん、見込みある。
「皇帝のお仕事は民を安んじることだぞ? 自分と皇帝の座を争うほど有能な人材を敵扱いして排斥するのはどーなの? 器が小さいと思わない? 民のためになる?」
「なるほど、小さいか……」
言いたいことは理解してくれたようだ。
なかなかじゃないか。
心当たりがあるのかもしれないな。
「皇帝陛下の実子であるオオタカちゃんと聖地の星であるウタマロが協力すれば、シンカン帝国をより上手に統治することができるよ」
「……うむ」
「一方でそれを望まない人もいるよね?」
「……母様と爺様か」
「オオタカちゃんは賢いな。わかってるじゃないか」
聞いていた人達が一斉に息を呑む。
母ちゃんは現皇妃で爺ちゃんは宰相。
オオタカちゃんを傀儡にして実権を握る構造におぞましさを感じたか。
あるいは年も若く、偏った情報しか与えられていないだろうオオタカちゃんが急所を指摘したことに瞠目したのか。
「……では母様と爺様が敵なのか?」
「実力者を敵に回そうとするなとゆーのに。母ちゃん爺ちゃんと敵対するのは絶対にダメだぞ? オオタカちゃんが消されて、妹さんが担がれるだけだから。勝てない勝負をするやつはバカだ。いいね?」
「そ、そうだな」
「オオタカちゃんに今できるのは、母ちゃん爺ちゃんを手懐けながら実力を磨くことだよ。知識、経験、人脈。オオタカちゃんは覇気のあるいい目をしているけど、足りないものはたくさんある」
ウタマロが苦笑する。
「ユーラシア、要求が厳し過ぎるのではないか?」
「皇子として生まれちゃったんだから仕方ないじゃん。生まれは選べないし、サボってて運命を勘弁してもらえるほど人生は甘くないのだ」
「ウタマロさんとオオタカが協力してくれるなら、私にとってこんなに嬉しいことはないのですが」
「姉上……」
「家来の皆さんだってそう思ってるはずだよ。どっちに助力するか悩まなくていいし、国力が低下することもないんだから。オオタカちゃんとウタマロが争って喜ぶやつはごく少数だ」
思いついたようにオオタカちゃんが言う。
「お前はウタマロに味方するのではないのか?」
「あたしは自分に都合のいい方に味方するぞ? 成り行き上ウタマロには肩入れするけど、理想としては将来世界貿易を実現させたいんだ。それにはシンカン帝国内が平和に治まってくれることが前提になるから、現在の条件だとオオタカちゃんとウタマロが手を結ぶ未来はあたしにとっても万々歳だ」
「世界貿易か!」
「胸躍るでしょ?」
今のところ放熱海を自由に超えられるのはあたしだけみたいだから、貿易網を世界中に広げることはまだまだ難しい。
しかし交流はできる。
異世界人を二〇人も手に入れたのだ。
技術的問題が解消された未来に備えて種蒔きをせねば。
「ごちそーさま。オオタカちゃんも頑張れ。今日はあたし達は帰る」




