第2428話:諦めておらん&ことの顛末
――――――――――エンディングエピソードその一〇:諦めておらん。
「ほう、クリームヒルトがの」
「おめでたいことですね」
ゼムリヤにやって来ている。
上皇妃様とヴィクトリアさんがゼムリヤでの避暑を終え、帝都に戻るのだ。
ダールグリュン家にお嫁に行ったクリームヒルトさんと、その娘シシーちゃんについて報告している。
「で、クリームヒルトの娘はどうじゃ? ユーラシアの見るところ」
「シシーちゃん? メッチャやる子だね。成長が楽しみ」
「そうかそうか」
「ダールグリュン家でしっかり勉強はすると思うから、あたし達の役割はしっかり遊んでやることだな」
「うむ、遊んでやろう」
「楽しみですね!」
「ダールグリュン家には伝えておくよ。すぐ顔見せに皇宮へ来るんじゃないかな」
まあ上皇妃様とヴィクトリアさんに可愛がられてれば将来安心。
ダールグリュン家が存在感を増すのも遠いことじゃないだろ。
「さてヴィル、皇宮に行ってくれる?」
「わかったぬ!」
「じゃ、帰ろうか」
「ユーラシア」
ウルピウス殿下か。
ウ殿下は社交シーズンが本格化するまで、ゼムリヤで勉強していくと言っていたが。
「予は諦めておらんからな」
「何を?」
「ユーラシアを妻とすることをだ」
「おおう」
ウ殿下みたいないい男にそこまで言われると揺れちゃうわ。
メッチャ真剣な目で見てくるし。
でもなー、あたしはドーラの発展に協力してくれる人がいいんだよなー。
可能ならあたしの旦那は『精霊の友』の方がいいしなー。
「うむ、ウルピウス天晴れ」
「そうですよ。諦めてはなりません。ユーラシアさんほどの女傑は他にいませんからね」
「女傑って。まー将来状況は変わるかもしれないしな」
先のことなんてわからないと、今のあたしは知っている。
一年前に今のあたしが聖女になってることなんて、全然想像できなかった。
ウルトラチャーミングビューティーになってることはわかってたけど。
「殿下はいつまでゼムリヤにいるのかな?」
「一月半後に迎えに来てくれ」
「うん、わかった」
ウ殿下もメルヒオールさんにしごかれて、どんどん領主っぽくなってきている。
帝国一の大貴族辺境侯爵に相応しい風格というか。
一月半後が楽しみだな。
『御主人、ビーコンを設置したぬ!』
「ありがとう。そっち行くね」
背中にウ殿下の熱い視線を感じるわ。
◇
――――――――――エンディングエピソードその一一:ことの顛末。
「あなたが落としたのは金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
「やっほー、たわわ姫こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシアさん達ではないですか! いらっしゃい!」
たわわ姫の家がある、『不思議の泉』の転送先だった場所にやって来た。
おっと、たわわ姫嬉しそうだな。
「聞きましたよ。ユーラシアさん、大活躍だったらしいじゃないですか」
「そーなんだよ。あたしからの話も聞きたいかと思って」
「もちろんですよ。レスリエイが悔しがってること、尋常でないです。ユーラシアさんにも見せてあげたいくらいです」
「マジで見たいなあ。お肉持ってきたから食べようよ」
「バーベキューセット出しますね」
たわわ姫もお肉が好きだから。
◇
「……とゆーわけで、ダンテの最強魔法が『アガルタ』で最も高い建造物『アークセコイア』にどかーんと炸裂。『アガルタ』から攻めてきた二〇人とチュートリアルルームの係員バエちゃんは、晴れてドーラの住人になったのでした。ちゃんちゃん」
「すごい冒険活劇です! 興奮します!」
「落ち着け。火傷するよ?」
思ったよりたわわ姫がノリノリだ。
そんなに向こうの世界の神様のこと嫌いなんかな?
上空から見た『アガルタ』は素晴らしかった。
平和で安定した社会に浮かぶ、緻密な計画性が垣間見えた。
『ユーラシア』もあんな世界にしたいもんだ。
あれだけ技術の進んだ世界を作り上げたのなら、かなり有能な神様だと思うんだが。
「あ、もうこれ焼けてるわ。いただきまーす」
「レスリエイはかなりショックを受けていましたのよ? 最初は『アガルタ』の貴重な人員を返せって息巻いてましたもの」
「理屈が間違っとるわ。こっちの世界の住人であるあたしが勝手にやったことじゃん。何で神様が干渉してくるのよ。おかしいだろ」
「もちろんユーラシアさんの言う通りです。我々も規則に反することは勝手にできませんからね」
「勝手じゃなければできるんだ? 『アトラスの冒険者』はどういう経緯で成立したの?」
ここはちょっと興味あるポイントだ。
何だかんだで『アトラスの冒険者』については知らないことが多い。
しかも今後は聞ける機会もなくなっちゃいそうだしな。
「『アガルタ』の旧王族を『ユーラシア』に追放するという処置は、向こうの住人が勝手にやったことです。だから我々は差し戻すことができませんでした。しかし技術的に優れた世界の住人を送るということに関して、レスリエイが難色を示したんです」
「何で送る前に夢で忠告しなかったんだろうな?」
「あとから気付いたみたいです。自分の担当の世界のことでも、個々の事象はなかなか追いきれないですからね」
「ふーん」
「監視をつけ、『ユーラシア』の住民になるべく接触させないようにする手立てを認めさせて」
「それが『アトラスの冒険者』か。なるほどなー」
「さらに時間が経って、『アトラスの冒険者』自体が技術を流出していることに思い当たったみたいです」
「バカなんじゃね?」
「レスリエイは予定外のハプニングに弱いですから」
あたしの逆だ。
つまり小物だな?
「失敗は仕方ない。亜空間超越移動はもう許さないと言っていましたよ」
「遅いわ。今回捕まえた『アトラスの冒険者』本部の人員の中には、結構な技術者もいるんだよ。こっちの世界は随分と進歩しちゃうんじゃないかなー、ありがとうって自慢しときなよ」
「うふふ、そうします」
「あたしは『アトラスの冒険者』になれて幸運だったよ。あたしは幸運を最大限に膨らますタイプだぞ? 絶対にもっといい世界にしてみせるよ」
「ユーラシアさんには大いに期待していますからね」
『アトラスの冒険者』という外的要因がなくなり、こっちの世界の真価を問われるのはこれからなのだ。
「青空の下で食べるお肉はおいしいな」
「お肉はいつもおいしいぬよ?」




