第2427話:告白
――――――――――エンディングエピソードその九:告白。
「ほう? 『ユーラシア』でも大地の魔力を集めることはできるのか」
「うん」
塔の村で異世界人の話を聞いて回っている。
ちょっとはクシュンとしてるかと思えば、皆元気でやんの。
『アトラスの冒険者』の関係者だけあって、魔物を倒してレベルを上げるという原始的な(失礼な)生活に憧れがある人も多かったんだって。
嬉々として塔のダンジョンに潜ってるそーな。
塔の村の冒険者は異世界人達を偏見で見ないし、それなりに情報も得やすいから、急速に馴染んだようだ。
金銭的に困るなら援助しようかと思ったけど、余計なお世話だった。
ドーラのためにキリキリ働け。
「大地に含まれる魔力量は多い。しかし空気や水に比べて循環しにくいから、集中的に大地から魔力を吸収していると、魔力が足りなくなるという事態が起こり得るぞ」
「あんまこの方式を普及させちゃダメってことだね。転移石碑くらいにしとこ」
「それくらいなら大丈夫だぜ」
異世界人の中に魔力利用の技術者がいたのはラッキーだったな。
もっとも転移転送に魔力を用いる『アトラスの冒険者』の関係者なら、そっち関係の専門家がいても不思議じゃなかった。
「カル帝国には魔力炉ってもんがあってさ。機密みたいだけど」
「魔力炉? 何だそれは」
「えーと、使えない状態の魔力を壊して、使える魔力を作り出すとかいう説明を受けた。あたしにはよくわからんけど」
「ははあ、不活性魔力を励起させるという発想か。『アガルタ』では廃れた技術だな」
「何で廃れたの?」
「危険だからだ」
やっぱ魔力炉って危ない技術なんじゃん。
だよな、炉の厚みを薄くできないって言ってたし。
「転送魔法陣は空気中の魔力を集めてるわけでしょ?」
「極めて効率よくな」
「それってこっちの世界でも作れる?」
「……不可能じゃないが」
希少な素材を使うのかな?
『ファントマイト』使うことはあたしでも考えつくが、あれは重いしなかなか手に入んないしな。
「かなりのレア素材が必要なんだ。特に入手が難しいのが『逆鱗』と『巨人樫の幹』だな。『アガルタ』では人工的に合成が可能にはなっているが、『ユーラシア』じゃ数十年はムリだ。基礎研究が足りてない」
「そーか、狩り過ぎるとドラゴンや巨人が絶滅しちゃうもんねえ」
「え? そういう意味じゃないんだが」
どういう意味だったかな?
『逆鱗』と『巨人樫の幹』は提供するから、基礎研究とやらを進めて欲しいもんだ。
ま、こっちの世界に来て間がないわけだし、生活が安定してからだな。
「あっ、エル! エンジェルさん!」
どうかと思ったけど、距離縮まってるやないけ。
よきことかな。
無乳エンジェルが呟くように言う。
「エル、ですか。エルでいいのか」
「そーいやエルは偽名っていう設定があったな」
「本名を隠してたのは悪かった。知らせた方がいいかな?」
「『エル』より短いなら聞こうかな。長いならいいや」
「君、名前を覚えるのが面倒なだけだろう?」
「ズバリ核心を突くね」
アハハと笑い合う。
エルが本名を隠してたのは理由もあるんだろうから、特に聞きたいとは思わん。
エルはエルだ。
「エンジェルさんはエルを『アガルタ』に連れ帰ってどうするつもりだったの? 成功してればえらいことになってたぞ?」
絶対に『アガルタ』は大混乱に巻き込まれることになってた。
無乳エンジェルならそれがわからんはずはないんだが。
告白を聞こうじゃないか。
「……『アトラスの冒険者』が廃止されることもありました。最初は田舎に引きこもって細々と暮らしていこうかと思っていたんです。ところが娘が昔の王族の血を引くということがマスコミに報道されてしまい、世論が沸騰してしまったんです。引くに引けなくなって……」
「おまけに神様もエルを連れ戻せ連れ戻せってうるさいし?」
「ユーラシアさんが神様について知っていたのは驚きでした」
「ちょっと理由があるんだ」
無乳エンジェルは神様の事情を聞いてないだろ。
こっちの世界のたわわ姫と『アガルタ』のレス何とかさんがほにゃらら。
「……ってわけで、こっちの世界の女神様は、『アガルタ』に干渉されるのを嫌がってた」
「全然知らないことでした。まさかの事実です」
「神様からは夢に現れるくらいしか人と関係しちゃいけないんだけどさ。あたし達から会いに行くのは構わないらしいんだ。で、時々御飯一緒に食べて、情報を集めてたの」
「ユーラシアは具体的には何をしてたんだ? どうせロクでもない立ち回りをしてたんだろう?」
「ロクでもないゆーな」
バエちゃんを通じてエルの素性をそっちの世界にバラすと同時に、エルのどーでもいい情報を大量に送りつけ、無乳エンジェルの処理能力の限界がどうのこうの。
「あっ、あれも作戦?」
「ごめんよ。戦いとは残酷なものなのだ。人死にが出なかっただけ感謝して欲しいわ」
「大喜びでやってたんだろう?」
「そりゃまあ。でもエルがこっちの世界にいたいって言ってたからだぞ?」
じゃなかったら丁重にお返ししたわ、というあたしの告白。
「せっかくこっちの世界に攻めてきてくれるんだから、一網打尽にしたらこっちの世界の進歩がかなり早まるなと思って、情報集めて作戦を立てました。『アークセコイア』を壊せるかは賭けだったけどね」
「せっかくって。ユーラシアのやることはえげつない」
「まーそーゆーなって。あたしだってメリットが欲しいんだよ。結果には大満足です」
「いえ、皆さんにとてもよくしていただいているんですよ。本当、悪いみたいで」
「ドーラは移民の国だから。昨日敵でも今日味方ならいいんだぞ?」
「それ君だけの考え方みたいじゃないか」
「あたしは極端みたいだけど、多かれ少なかれドーラには皆で協力しようって考え方があるんだって」
人口の割に魔物が多いので、助け合わなきゃいけない環境にあるのだ。
だから帝国で胡乱な目で見られている聖火教徒も、ドーラでは受け入れられる。
「イシンバエワは大丈夫でしょうか? チュートリアルルームの」
「あっ、言い忘れてた! バエちゃんもドーラに連れてきたから大丈夫だぞ。あたしの住んでる東の方にいる」
近々いい報告ができると思いまーす。
「じゃーねー。また来るよ」
「バイバイぬ!」




