第2426話:モジモジするオニオンさん&ウィンウィンとは?
――――――――――エンディングエピソードその七:モジモジするオニオンさん。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルとクララをぎゅっとする。
うちの子達及びアレクケスハヤテを連れて魔境にやって来た。
「ユーラシアさん、いらっしゃいませ」
「オニオンさん、魔境どう?」
「今のところ開店休業状態ですね」
「だろーなー」
オニオンさんは苦笑するが、さもあらん。
旧『アトラスの冒険者』の廃止で、ベースキャンプ内にある回復の魔法陣がなくなってしまったのだ。
うちのパーティーは自動回復だけで困らないくらいだけど、魔境来たばかりの冒険者じゃ、マジックポイント切れが結構きついからな。
魔境トレーニングエリアなのにトレーニングできなくなってしまっては一大事。
ドーラの冒険者の質の低下を招いてしまうかもしれない。
塔のダンジョンがあるし、そんなことはないか。
「じゃーん! 回復の石碑が完成しました!」
「おお、待ってましたよ!」
「どこに設置すればいいかな?」
今まで回復の魔法陣はベースキャンプ内にあったが、回復の石碑は大地から魔力を集めるので外に設置するのが望ましい。
が?
「外だと魔物に壊されちゃうかもしれないのかな?」
「いえ、ワタクシが観察したところ、ベースキャンプ近辺に魔物が近付いてこない効果は、『アトラスの冒険者』廃止後も継続しています」
「じゃ、外でいいな」
とゆーことは『アトラスの冒険者』本部が遠隔操作で魔物を寄せなかったわけじゃなくて、ベースキャンプ自体に魔物除けの性能があるんだな?
どういう仕組みか知らんけれども。
魔境クラスの魔物にも通用する魔物除けの強力なやつなのか、あるいは魔境の魔力濃度を利用した魔道具なのか。
いずれにしても研究の価値があるものだな。
知りたいことってたくさんあるもんだ。
わっせわっせと穴を掘り、回復の石碑の設置完了と。
「どう? アレク」
「バッチリだよ」
「姐さん、これも私費で設置してるんだろう?」
「まあね。でもいいんだ。あたしは『アトラスの冒険者』でたくさん得たものがあったから。少しは後輩に還元してやりたいの」
「かっこいいだ」
「よせやい」
何だかんだで魔境は素材の回収効率がいいのだ。
冒険者の生活を安定させるためにもドーラの経済を回すためにも、ここの回復の石碑は必要。
「塔のダンジョンの地下もいいけど、人形系の魔物は魔境の方が多いみたいなんだよね」
「儲かるだか?」
「儲かるんだよ」
ハヤテは儲けに敏感だな?
アレクケスハヤテも塔のダンジョンに飽き足らなくなったら、新『アトラスの冒険者』になって魔境で魔宝玉回収に勤しむといいよ。
「オニオンさーん、設置できた! 今までみたいに魔境で働けるぞーって宣伝しといてよ」
「わかりました。助かります」
「ちょっと探索してくるね」
「あっ、ユーラシアさん……いや、失礼。結構でした」
「ははーん?」
オニオンさんがモジモジしている。
ラブいことだ。
大体何が言いたいか想像はできるが言わない。
デリケートなことだからな。
「行ってくる!」
「行ってくるぬ!」
「行ってらっしゃいませ」
ユーラシア隊及びふよふよいい子、今後のドーラを背負う三人出撃。
◇
――――――――――エンディングエピソードその八:ウィンウィンとは?
「おにくびみらー!」
「何なの? それは」
アンヘルモーセンの聖務局で天使達と昼食だ。
呆れた顔をしている銀髪ロングの天使ハリエルに説明してやる。
「魔王が支配する国ソロモコの、お肉食べる時の掛け声だよ」
平然とした顔をしているアズラエル以外の天使が気色ばむ。
「ちょっとあなた、そんな国があるんですの?」
「正確にはソロモコの住人の信仰心を、魔王バビロンが利用してるんだな。天崇教を使って信仰心を吸い上げてるアンヘルモーセンと大して変わらん」
痛いとこ突かれたみたいな表情になる天使ズ。
悪魔のやってることは非難したいが、天使のやってることも同じだと言われるのは嫌みたいだな?
「いいんだぞ? ウィンウィンだから」
「ウィンウィン?」
「あなたも幸せ、私も幸せってことだよ。天使だって天崇教徒達から尊敬や崇拝の感情を得ていることは、特に悪いことだと思ってないでしょ?」
「思ってないであります。その分の恩恵はあるでありますから」
「ソロモコは魔王に関わってるおかげで、カル帝国の侵略を免れたって側面があってさ」
「ふうん。悪魔もたまにはいいことをするのね?」
「うーん、ま、いろんな性格の子がいるよ。悪魔は大体自分のことしか考えてないけどな。自分が得することなら乗ってきてくれる」
多分いいことをしようなんて意識は悪魔にない。
天使にもないんじゃないかな?
我が儘で傲慢だから。
あたしから見れば天使も悪魔も似たようなもんだ。
「あんた達も悪魔のヴィルを許容してくれてるじゃん? だからあたしはアンヘルモーセンに来ることができるし、あんた達はお肉を食べることができる。これがウィンウィンだね」
「わかりやすいわ」
「リスクもあってさ。あたしだってヴィルみたいないい子は、わかってもらえさえすれば天使とそう衝突しないだろうなと思ってる。けど生意気な悪魔は多いぞ? 天使と悪口の応酬から入る悪魔をアンヘルモーセンに連れてこようとは、さすがのあたしも思わない」
もっともメリットの方が大きくなる場合は別だ。
物事は損得関係で決まるので、もし悪魔を連れてくることによってウィンウィンの関係を築けるケースならば、天使達にも我慢してもらおう。
「なるほど」
「もっと詳しいことを知りたいならアズラエルに聞きなさい。アンヘルモーセンや天崇教のシステムを作り上げたアズラエルは、その辺のことをよくわかってるはずだよ」
「あ」
「どーしたアズラエル」
ポリポリ頭をかくアズラエル。
「ここで振られる展開は予想していませんでした、はい」
「そーなん?」
直接自分に関わることだから未来が見えなかったってことか?
でもあたしがお肉持ってくることは正確に予知してるんだよな。
アズラエルの能力も謎。
「お肉を美味しくいただくことの方が大事ではなくて?」
「そーだ、ハリエルの言うとおりだ。じゃ、いくぞ? おにくびみらー!」
「「「「「「「「おにくびみらー!」」」」」」」」




