第2423話:バアルのハンモック&魔道コンロと魔力かまど
――――――――――エンディングエピソードその一:バアルのハンモック。
「いや、あたしはいつも通りなんだよ? バアルが悪いと思うんだ」
「御主人が悪いと思うぬ」
ルーネと新聞記者トリオを連れて『ケーニッヒバウム』へ行く途中だ。
あそこなら大抵何でも売ってるから。
しかしこの件に関しては、主人に忠実なヴィルですらあたしの肩を持ってくれない。
「どういうことなんですか?」
「話せば長いことながら」
「長くはないぬよ?」
「今までバアルは籠に閉じ込められてたから、寝る時部屋に吊るしてたんだ。あたしん家の寝室が大して広くないってこともあるけど。それで何にも問題がなかった。ところがバアルを籠から解放したじゃん?」
「「「ふんふん」」」
ルーネに疑問があるみたい。
「待ってください。ヴィルちゃんは今までどこで寝てたんです?」
「わっちは寝ないぬよ?」
「悪魔は基本的に寝る習慣がないみたいだね。ヴィルは夜中比較的自由にパトロールしてもらってるよ」
「ではバアルさんは?」
「あたしの生活習慣に合わせてたら、夜は寝る習慣になった。寝るのも気持ちいいってわかったみたいで」
とゆーか眠気を吸うのもオツなもんだと思ってるんだろうな。
野生の悪魔はそう油断もできないんだろうけど、うちなら危険もないし。
バアルは要領のいい子だ。
「で、籠から出したバアルを吊り下げるわけにもいかないから、昨日はあたしの布団に入れてやったんだ」
「「「「ふんふん」」」」
「だけどあたしは寝相があんまりよくないじゃん?」
「ははあ、オチが理解できました」
「まあ最後まで聞いてよ。あたしは危険がない限り一回寝ると起きないから、バアルがえらい目に遭ったみたいで。朝起きたら泣きながら文句言うんだ。待遇改善を要求するって」
顔が変形してたバアルは可哀そうだった。
マジでごめんよ。
ぎゅってしたら元に戻ったけど。
「どこか他所で寝ればいいじゃないですか」
「いや、バアルはただ寝たいんじゃなくて、人間の眠いっていう感情を欲しがってるんだよね。だからあたしのいるところで寝たいわけよ」
「チャレンジャーですね」
こういうのってチャレンジャーなのかな?
とにかくバアルの出した結論が吊り寝床だった。
「はんもっくって言うんだって? ちゃんとした吊り寝床が帝国には売ってるから、買ってきてくれって」
「それで『ケーニッヒバウム』へ行くんですか」
「あたし全然悪くないと思わない?」
「「「「ユーラシアさんが悪いです」」」」「御主人が悪いぬ!」
「あれえ? そーなのか」
どうやら満場一致であたしが悪いらしい。
べつにいいのだ。
ルーネを『ケーニッヒバウム』に連れていく口実ができれば。
ルーネにぞっこんのピット君も喜んでくれるだろうしなニヤニヤ。
「ユーラシアさんはハンモック使おうとは思わないんですか?」
「あたしは見えてる罠に自分から嵌りに行く習性はないね」
絶対転げ落ちるに決まってる。
しかし何故こんなのを新聞記者トリオはメモしてるのだ。
他に記事がないのかな?
「私、ハンモックって使ったことないですね」
「うーん、寝相が悪いと使えないらしいぞ?」
「大丈夫だと思います」
「あたしだって寒い冬なら布団に包まってるから、あんまり寝相が悪いことないはずなんだけどな。全て寝苦しい夏の暑さが悪い」
納得していただけない内に『ケーニッヒバウム』にとうちゃーく。
ピット君が笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。ユーラシアさん、ルーネロッテ様」
「ピット君に質問。ルーネの寝相っていいと思う? 悪いと思う?」
「えっ?」
目を白黒させたり顔が赤くなったり忙しいぞ。
一流の商人になるにはまだまだだなニヤニヤ。
◇
――――――――――エンディングエピソードその二:魔道コンロと魔力かまど。
「ほう、異世界からの来訪者か」
「そうそう。こっちの世界よりずっと進んでるからさ。その技術を吸収するために、いずれエメリッヒさんの力も借りると思う。よろしくね」
移民の開拓地のエメリッヒさんとこにやって来た。
バエちゃん用に魔道コンロを作ってもらいたいからだ。
ちょっとは炊事の負担を軽くしてやらないとな。
「そーいや魔道コンロと魔力かまどと、名称としてどっちがいいかな?」
「どっちでもいいだろ。問題は機能だぜ」
「研究者はそーゆーとこアバウトだな。名前一つで売れ行きが違ってくるんだぞ?」
「売るつもりはねえんだろう?」
「まあ」
大地から魔力を集める仕掛けがたくさん普及したら、大地の魔力が足りなくなる気もする。
そーなると転移事故が起きそうだしな。
いや、転移石碑には安全に転移できることを知らせるランプが点灯するんだったか。
どの道魔境や『永久鉱山』から豊富な魔力を引っ張ってくるインフラを整備しない限り、魔道コンロを普及させようとは思わない。
「ビックリしたのは、エメリッヒさんにいい人ができてたってことだな」
「ん? ハハッ、まあな」
「おめでとうございまーす」
やはり移民の女性で、最近一緒に暮らし始めたらしい。
「マジで嬉しい。放っとくとエメリッヒさんは、勝手にのたれ死んだりしそーだったから」
「そんなことはねえよ!」
「ないって言いきれる?」
「……」
「本当によろしくね。エメリッヒさんは今後のドーラの発展に欠かせない、大事な人材なんだ」
「任せといてくださいよ」
朗らかで活気のある人だ。
任せといて問題はなさそう。
いい人見つけたなあ。
「でもいいとこに目をつけたね。エメリッヒさんは将来絶対にお金持ちになるから」
「「そうなのかい?」」
「何であんた達疑問形なのよ。エメリッヒさんほどドーラのために働いてくれる人がビンボーでは、後進の技術者や研究者が育たないだろーが。冗談じゃないわ。何が何でも儲けてもらうわ」
この二人変なところで似ているな。
あんまりおゼゼには興味ないみたいだ。
エメリッヒさんの研究で一番おゼゼになりそうなのは、香料入り石けんだと思う。
生産が軌道に乗れば、大々的に輸出できるんじゃないかな。
ドーラもエメリッヒさんも儲かる上に、雇用も生まれる。
石けんは消耗品だけに期待が大きいのだ。
「じゃ、しばらくエメリッヒさん借りるね」
「キットを組み立ててくるだけだ。すぐ戻るからな」
「はいよ」




