第2420話:無乳エンジェルの身柄を確保
「やっぱ使えないか。だろうと思った」
異世界『アガルタ』から帰って来たあと、『アトラスの冒険者』でもらった方の転移の玉を使用してみたが、反応しないのだ。
『アトラスの冒険者』本部が、メンバーの持つ転移転送のシステムを停止したか。
いや、相当混乱してるだろうに対応が早過ぎる気もするな。
ぶっ壊した『アガルタ』で一番高いという建造物、あれは単にビーコンになってるだけじゃなくて、『アガルタ』の構築した全ての転移転送と連動しているのかも。
注意深く眺めていたクララが言う。
「予想通りじゃないですか。でも魔力を周りから集めてるのは変わらないみたいですよ」
「おお、クララはいいところに気がついたね。ぎゅーしてやろう」
何かヴィルを相手にしてる時みたいなパターンになってきたぞ?
ついでにバアルも来たわ。
可愛いやつらめ。
ぎゅーはともかく、魔力を集めるのは転移の玉を構成する素材自体の性能っぽいな。
『ファントマイト』みたいなもんだ。
重さからして『ファントマイト』じゃないけど。
「人工素材かもしれませんね」
「うん。いずれ研究してもらお」
おっと、アトムダンテが戻ってきた。
「バニッシュね!」
「え?」
「転送魔法陣が全てなくなっていやす!」
「とゆーことは『アガルタ』のデカい塔にあったのは単なるビーコンじゃなくて、もっと根本的な何かみたいだな。連動が切れると全部使えなくなるっぽい」
転送魔法陣が使えなくなるだけじゃなくて消えちゃうというのは、そーゆーことなんじゃないかな。
もちろん『アトラスの冒険者』じゃなくなると魔法陣が消されるようだから、個別にも扱えるんだろうけど。
ま、今考えるべきことじゃない。
計画通りなら異世界人捕虜が一杯いるはずだ。
ボチボチ教えてもらえばいいや。
「予定通りっちゃ予定通りだな」
「うしさん……」
「おおう、クララはまだウシ飼うのを諦めてなかったのか。よし、東の区画に牧草生やして、来年乳離れしたウシの子を買ってこよう!」
「はい!」
奇しくも約一年間の冒険者生活で、ウシを買うおゼゼについては心配しなくてもよくなった。
遠回りのようで近道って不思議だなあ。
「御主人!」
「よーし、ヴィル戻ってきたか」
飛びついてきたヴィルバアルクララをぎゅー。
「ああ、至福である」
「バアルはこれまでぎゅーしてやれなかったからな。ところでヴィル、首尾はどうだったかな?」
「上々だぬ!」
ヴィルは『アガルタ』で別行動を取り、シスター・テレサのお店を探してもらっていたのだ。
これで今後も『アガルタ』とコンタクトを取れる。
「テレサに連絡するぬか?」
「いや、いいよ。シスターも『アトラスの冒険者』の元関係者だから、今日のあたしの逆侵攻に関して聞き込み調査が入ると思うんだ。ほとぼりが冷めた頃に連絡取ろう。ヴィル、それまでたまにあっちの様子観察しといてくれる? 見つからないようにね」
「わかったぬ!」
「危なくないであるか?」
「多分大丈夫だな。『アガルタ』は外敵を想定してるような作りの街じゃなかったじゃん?」
全員が頷く。
本当に平和な国なんだろうなあ。
たわわ姫も世界間をちょろっと移動しただけでは、神様も把握できないと言っていた。
だったらヴィルが時々行って見てるだけじゃバレやしないわ。
「昼御飯にしよう。クレソン摘んでくるね」
◇
「おや? チャーミングなユーラシアさん。外からかい? 珍しいね」
「ポロックさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
昼食後ギルドに来た。
ギルドに来るのに一々ヴィルの手を煩わさなければいけなくなったのは面倒だな。
まあぎゅーの機会が増えたと思えばいいか。
「所長のエンジェルさん来てる?」
「ああ。食堂だと思うよ」
「ひょっとして揉めてると嫌だから、外から来たの。こっちは全部終わった」
「全部終わった、とは?」
「皆に説明するよ。もうフルステータスパネル起動しないと思うけどどうかな?」
「……本当だ。起動しないね。どういうことだい?」
「マジで全部連動してるみたいだな。すげえ。ポロックさんも来てよ」
ギルド内部へ。
「何だこれ?」
昼間から完全にできあがってるやんけ。
誰だ、異世界人にお酒飲ませたの。
「よう、ユーラシア」
「ダンが飲ませたの?」
「まあな」
得意げだ。
変に自棄っぱちになられても困るし、いい気分にさせといた方がいいか。
「エンジェルさん、こんにちはー」
「あっ、ユーラシアさん……」
「はい、全員注目! 今あたしは『アトラスの冒険者』本部のある異世界『アガルタ』に攻め込んで、重要施設である一番高い建物を破壊してきました! もう転送魔法陣と転移の玉は使えません。事実上、旧『アトラスの冒険者』は終了です!」
冒険者達はその時が来たかって顔してるけど、異世界の連中が慌てて転移の玉弄ってるがな。
遅いわ。
「ほ、本当だ。起動しない!」
「帰れない!」
「だからそー言ってるじゃん。こっちの世界に攻めてくるなら、攻められるリスクも覚悟しないと。やったらやられる、当たり前だぞ?」
あれ、酔いが醒めちゃって、青い顔になってるがな。
対照的に愉快そうなダン。
何なの?
「異世界が『アガルタ』なら、こっちの世界は何て言うんだ?」
「実に絶妙なところを気にしてるね。向こうの人達はこっちの世界を『ユーラシア』って呼んでるんだよ。ピッタリだと思わない?」
「ハハッ、でき過ぎた話だな」
聖女ユーラシアが『ユーラシア』の聖女になっちゃったわ。
青い顔ズに聖女らしい言葉をかける。
「皆さんは文化的技術的に進んだ国からやって来た優秀な人材でーす。『ユーラシア』でももちろん優遇しますので、ともにいい国にしていきましょう」
「つ、捕まって虜囚とかじゃないのか?」
「そんなことしないわ。ドーラには虜囚に食わせるおゼゼがないわ。キリキリ働け」
「おい、本音が漏れてるぞ」
おっといけない。
「塔の村でエルを捕まえようとしてた人達もパニック起こしてる頃だと思いますので、向こうに合流しまーす」
「おい、俺も連れてけ」
勝手について来りゃいいじゃん。
あっちはどーなってるだろ?
ギルドに連絡係を寄越してなさそーなところを見ると、多分エルは連れ去られることなく、異世界の連中は捕まってるんじゃないかな?
転移石碑から塔の村へ。




