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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第2417話:旅行者のつもりだけど侵入者

「お前達何してる! そいつらは侵入者だ! 捕まえろ!」


 外部から鋭い声がかかる。

 楽しいお喋りはここまでのようだ。


「侵入者? 旅行者じゃなくて?」

「あたし達の感覚では物見遊山に来た旅行者なんだけど、『アガルタ』の人達からすると違うみたいだね。まー彼我の感覚が異なるってのは、大して珍しいことじゃない」

「「えっ?」」

「警備員さん達、ごめんね」


 見張り二人の首の後ろを叩いて気絶させる。

 この技も慣れてきたなあ。


「おのれ抵抗するか!」

「抵抗するに決まってるだろ。ヴィル、手筈通りに」

「了解だぬ!」


 掻き消えるヴィル。

 こっちも行動開始だ。

 人が集まってくる。

 おうおう、人数かけりゃ勝てると思ってるところがシロートだなあ。


「隊長、何事ですか!」

「侵入者だ! 転送魔法陣を用いて異世界『ユーラシア』より来襲したと思われる!」

「まさか!」

「正解! 隊長さんすげー」


 魔法陣の近くに見慣れないやつらがいればそう推測するか。

 しかし『アガルタ』から『ユーラシア』に来るのはいいのに、逆は侵入者扱いなのな?

 歓迎されるとは思ってなかったけど、都合のいいルールだこと。

 もっとも少々荒っぽい展開になった方が、罪悪感を抱かなくてすむから楽だわ。


「走るよ」

「「「了解!」」」「了解である!」

「あんた達周りを観察してたみたいだけど、出口どっちだかわかった?」

「わからなかったでやす」

「じゃあこの広い通路を直進!」

「「「了解!」」」「了解である!」


 とりあえずゴー。

 クララも足遅かったけど、毎日凄草食べてるからか随分早くなったもんだ。

 確認しながら進んでる分には十分ついて来られるようになった。

 バアルは走るって言ってるのに飛んでるがな。

 別にいいけど。


「外に出たらこっちのもんだ。出口探してね」

「真っ直ぐ進んでは行き止まりの可能性もあるのでは?」

「かもしれんけど」


 通路が広いのには理由があるはず。

 さっきの魔法陣は別の世界からの転送先になってるだけじゃなく、『アガルタ』からの転送元でもあるんじゃないかな。

 この通路は転送先世界と物品をやり取りするために広いんじゃないの?

 となるとこの先は外部からの搬入口になってるのではないかという乙女のカン。


「カンではないである。洞察である」

「悪魔って時々心を読むようなことを言うのな?」

「吾が主の考えていることはわかりやすいからして」


 悪魔は感情と一緒に考えも摂取してるのかもしれないな。

 あたしはパワーが強いらしいから、悪魔が摂取してる考えも多いのかも。

 特に困らんけれども。


「スキルキャンセラ!」

「来た来た。当たらん当たらん」

「どうした? 発動しないぞ?」


 脇道から出会い頭に遭遇した警備員に散発的に『スキルキャンセラ』を撃たれるが、全く問題はない。

 バアルの『抑圧者』の固有能力が効いている。

 ここまで計算通り。


「フクロコージね!」

「いや、扉ですぜ」


 チュートリアルルームにあるような、ピッタリ隙間なく閉まる両開きの扉だろう。

 不自然に出っ張っているボタンを押す。


『パスワードを入れてください』

「えっ? パスワード?」


 メインに使ってるエントランスじゃないのかな?

 あれか、でっかい荷物を入れたり出したりにしか使ってないのか。

 探せば常用の扉がどっかにあるんだろうけど、他の警備員とたくさん鉢合わせしそうだしな?

 聖女なあたしは弱い者虐めが好きではないので、つまらん争いに巻き込まれたくはない。


「ユー様、魔法で破りますか?」

「ちょっと待って。パスワードひ、ら、け、ご、まっと」

「ワッツ?」

「あ、開いた。ラッキー」

「すごいである。尊敬するである」

「飛ぶ鳥を落とす勢いで尊敬しなさい」


 うちの子達が何だそれって顔してるけど、サラッと流しなさい。

 こんなもんは勢いなのだ。

 よく見りゃ頻繁に使ってるっぽいキーは磨り減り具合でわかるから、何となくの文字列にしただけ。

 扉が開いて街と青い空が見える。


「よーし、外だ! クララ」

「はい、フライ!」


 クララの高速『フライ』でびゅーん。

 空高く舞い上がる。

 チラッと後ろを振り返ると警備員が追いついてきてたけど、もう遅いわ。

 アトムが言う。


「第二の目標まで達成でやすね?」

「飛んでりゃ見てる人も大勢いるだろ。今のところ順調でーす」


 『アガルタ』へ転送で来ることを第一の目標、『アガルタ』で一般市民に姿を晒すことを第二の目標としていたのだ。

 第二の目標まで達成すれば、あたし達がやって来たことを情報統制したってムダだ。

 亜空間超越移動のセキュリティはどうなってんだとゆー世論がすぐ形成されること間違いない。

 おそらく即、『アトラスの冒険者』と亜空間超越移動が廃止されると思われる。


「寂しくなるなあ。自分が直接『アトラスの冒険者』の廃止に関わると考えると、切ない乙女心を刺激しちゃう」

「今更何を言ってるであるか」

「姐御、冗談言ってる場合じゃないでやすぜ」

「冗談じゃないとゆーのに。まあ落ち着こうじゃないか。下を見てみなよ」


 住むところ、ものを作るところ、ものを売るところが計画的に配置されている。

 真ん中にある建物が政治の場なんだろう。

 農産物は町の外で生産され、輸送されてくるに違いない。

 また港や水路、公園等の場所が実に効率的だなあと思える。

 亜空間超越移動ステーションが比較的端っこにあるのは、事故があり得ることを想定しているのかもしれないな。


「理想的な町だなー。一目で文化が進んでるってわかるよ。素晴らしい」

「ボス、ルーズにしているとアタックされるかもしれないね」

「ないない。気配がしない。それにこの町は戦闘があることを前提としていない」


 でなきゃあんな攻撃目標になるような背の高い建物をたくさん作らないって。


「しかし時間稼ぎも限界があるであるぞ? 第三の目標まで速やかに達成すべきである」

「正論だね。まったくバアルは破壊活動が好きなんだから」


 三つ目にして最終の目標。

 それは転移転送のビーコンとなっている、『アガルタ』で最も高い建造物を破壊すること。


「一番高いのは郊外にあるあの塔だね」

「明らかに不自然な塔である」

「攻撃や破壊の対象になると逃げちゃうらしいぞ? すごいテクノロジーだねえ。バアル、用意はいいかな?」

「バッチリである」

「よーし、ゆっくり近付いてみようか」

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