第2415話:あたし達の出番だ
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村の様子を見にやって来た。
「あれ、村の中は人が少ないね。もう門の外のライブ会場の方に集まってるのかな?」
「見てくるぬ!」
「お願いね。あたしはこの辺にいるから」
ひゅっと飛んでいくヴィル。
外がごった返してるなら、悪魔が飛んでたって気にする人はいないだろ。
うちの子は皆いい子だ。
まだ時間が早いから、エルが活動し始めるのはもう少しあとかな。
ん? あれは……。
「おーい、フィフィ!」
「あら、貴方ではないですか。御機嫌よう」
フィフィのパーティーはいつも通りだな。
塔に潜るんだろうか?
「今日これからゴーストアイドルのパーティーじゃん?」
「パーティーというか、ライブだそうですわね」
「滅多に見られない見世物だぞ? 面白そうだと思うけど、フィフィは見ないの?」
「見ませんわ。いつも通りお仕事に勤しみますわ」
「へー、何で?」
フィフィは芸術方面に優れた子とサボリ君が言っていた。
歌が上手いって話じゃなかったかな。
興味がありそうなもんだけど。
「興味がないわけではないのですのよ。でも今日は初ライブでしょう? 不備もあるでしょうし、見るのは完成度の上がった次でもいいと思いますの」
「なるほど、フィフィは冷静だな」
「貴方は見に来たんですの?」
「ずっといる気はないんだ。ライブの見物っていうより、塔の村の様子を見に来たの」
「ふうん?」
フィフィがあたしの態度に少し違和感を覚えたようだ。
フィフィも冒険者として仕上がってきたなあ。
異世界の件が片付いたら話すからね。
「そろそろ私の二冊目の本の表紙絵を考えて欲しいんですの」
「あ、もうそんな段階なんだ? まだまだ『珍道中』が売れてるんで、ゆっくりでいいからね。タイミング見計らって投入しよう」
「わかりましたわ」
「イシュトバーンさんには連絡しとくよ。どんな絵がいいとかって、リクエストある?」
どんなスタイルだろうが、イシュトバーンさんの手にかかるとえっちになっちゃうわけだが。
イシュトバーンさんも右手が余ってるの唸ってるの言い出すだろうから、表紙絵と挿絵くらいは先に描いてもらってもいいしな。
「本の内容に関係した絵がいいと思いますの」
「うん、表紙詐欺になるのは避けたいもんな。前回はドーラ西域道中記ってことで温泉絵だったけど、今回は冒険者ものだったっけ?」
「ええ。格好いい私も見てもらいたいんですのよ」
「つまりエロカッコいい絵か。イシュトバーンさんの得意分野だな」
何だかんだでフィフィは貴族の品があるので、可愛いに寄せるよりいい気がする。
その辺はイシュトバーンさんの匙加減だ。
「御主人!」
「ヴィルお帰り」
ぎゅっとしてやる。
可愛いやつめ。
ん? どうしたフィフィ。
「ね、ねえ。私もヴィルちゃんをぎゅっとしていい?」
「あれ、フィフィはヴィルをハグしたことないんだっけ?」
「いいぬよ?」
フィフィがヴィルをぎゅー。
「なかなかだぬよ?」
「なかなかってどういうことなの?」
「ヴィルはぎゅーした人の感情を吸ってるんだよ。好感情好きのヴィルがなかなかって言ってるならば、フィフィは現状にまあまあ満足してるんだろうなってこと」
「そ、そういうシステムなの?」
「システムとゆーか、まあ」
「貴方はどうなの?」
「御主人のぎゅーは気持ち良過ぎるんだぬ。大体いつも手加減してくれるんだぬよ?」
「奥が深いのね」
言うほど大げさなもんじゃないけれども。
悪魔は負力を吸って生きているだけに、人の感情には敏感だってだけ。
「御主人、正門前はもうたくさん人が集まってるだぬ。かなりの熱気だぬよ?」
「やっぱそーか。確認してこよう。フィフィ、またね」
正門前へダッシュ。
「おおう、思ったより人が多いな」
何百人もいるんじゃないの?
西域では結構宣伝してたのかもしれないな。
塔の村でも泊まれるし、温泉地ノヴォリベツまで戻ればさらにいい。
西域自由開拓民集落の人達にとっては結構な楽しみだったんだろうなあ。
今後はたくさんの楽しみを提供してあげるとゆーことも、おゼゼを搾り取る……聖女の慈悲として正しいことだろう。
「おお? ユーラシアじゃないか。久しぶりだなあ」
「あっ、コモさん。こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
元灰の民の冒険者コモさんだ。
塔の村ではデス爺に次いでナンバーツーのポジションにいる。
ドーラにおける塔の村の重要性を考えると、何げに大した人だよな。
デス爺の代わりにちょこちょこ動き回ってくれてるし。
「ユーラシアも公演を見に来てくれたのかい?」
「ライブをっていうより様子をね。ゴーストアイドルのライブって、コモさんが仕切ってるんでしょ?」
「そうなっちまったな。今日は塩梅がわからないからチケット料もらってねえだろ? 予想以上に人が集まって大変なんだ」
「おお、なるほど」
「暇なら手伝ってくれよ」
ふむ、コモさんは異世界の事情についてデス爺から聞いてないみたいだな。
「ごめん、あたし今から用事があるんだ。帰んなきゃいけないの」
「そうだったか」
「午後は来られるかもしれない。もし時間あったら、片付けは手伝うね」
「期待してるぜ」
コモさんと別れる。
コモさんは塔の村に来てから生き生きとしているように思えるな。
一年前までのカラーズは閉塞的なところあったから、コモさんみたいな活動的な人には合わなかったかもしれない。
あたしにも同じことが言えるんだろうけど。
「それにしても人が多いなー」
夏ってこともあってメッチャ暑いとゆーか熱い。
メッチャ蒸す。
夏のライブはやめた方がいいんじゃないの?
倒れる人が出そう。
いや、冷たい飲み物がすげー売れるかもしれん。
低コストで小さな氷を生みだす魔法をペペさんに作ってもらおうかな。
商売のチャンスだ。
しかし周りを見渡しても誰が誰やら。
異世界人がもう来てるのかそうでないのかサッパリわからんな?
どーすべ?
「御主人、ソールがこっちを見てるぬよ?」
「ソル君が? ほんとだ、ヴィル偉い」
ヴィルがいるからか、ソル君はちょっと前からあたしに気付いてたみたいだ。
さりげなく前方を指差して合図してくれる。
オーケー、既に異世界人はスタンバイしてる!
軽く手を振ってソル君に了解の意を示す。
「よし、帰ろうか。あたし達の出番だ」
「はいだぬ!」




