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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2414/2453

第2414話:バアルを解放する

 ――――――――――三五六日目。


 全ての清算の日。

 喜びと悲しみの日。


          ◇


 身を起こすと時計は七時三分を指していた。

 今日は異世界『アガルタ』の、おそらくは無乳エンジェル率いる『アトラスの冒険者』本部の実働部隊が攻めてくる日だ。


「よーし、時間通り! バッチリ目が覚めた!」


 時間ピッタリに自力で起きられると、何となく縁起がいい気がするなあ。

 ムダがないということは素晴らしい。

 そういえばこの魔道の時計は、バアルのお宝から出たものだったな。

 確かブラックデモンズドラゴンが仕掛けられていた宝箱だったか。

 吊るしてあるバアルの籠に声をかける。

 まだすうすうと寝息を立てているからちょっと可哀そうだが。


「バアル、朝だよ。起きなさい」

「……む? 吾が主であるか。おはようである」

「約束通り今日で狭い籠から解放しまーす」

「それは本当のことだったであるか?」

「本当に決まってるだろ。大悪魔がその誇りにかけてウソなんか吐かないように、あたしも聖女の名誉にかけてウソなんか吐かないわ」

「しかし吾が主は時々ホラを吹くであるから」

「ってのは置いといて」


 あたしがウソ吐くのが好きじゃないとゆーのは本当。

 ただ世の中言えないことや誤魔化さなきゃいけないことが、たくさんあるのだと学んだ。

 だから賢いあたしは考えた。

 ホラと方便と冗談とハッタリはウソの内に入らない。

 ザッツ、ウルトラチャーミングビューティークオリティ。


「バアルには感謝してるんだ。あんたは物事をよく知ってるから」

「恐縮である」

「悪魔は個性色々だけど、バアルは意外と人間の事情に首を突っ込む方だよね」

「うむ、言われてみるとそうであるな。積極的に人間の悪感情を生成して摂取するのが好みである」

「趣味が悪いなあ」

「吾が主仕込みである」

「何だとお!」


 あんたあたしの何倍生きてるんだ。

 バアルの考えるところの悪魔的ってことなのかな?

 悪魔的というのも、個々の子で少しずつ解釈が違う気がする。


「バアルはたくさんお宝をくれたしなあ」

「たくさん毟られたである!」

「怒んない怒んない。バアルは美術品も好きなんだよね?」

「ふむ、美しいものは好きであるな」

「……ひょっとしてバアルって、いずれ手に入れたいお宝がどこにあるとか、たくさん知ってたりする?」

「もちろんである」

「マジか」


 さすがバアルだな。

 どうせバアルは所有者不明になってるものや、恩を押しつければ譲ってくれそうなものを多く把握してるんだろう。

 使えるな。


「バアル美術館をいつか実現させたいってのは、ホラでも冗談でもないんだ。ドーラの発展のために必要だと思ってる」


 とゆーかバアルのお宝美術品はかなり質がいいらしい。

 イシュトバーンさんの描いた絵と高級魔宝玉をも展示品として考えると、ドーラが観光客を呼ぶための切り札になり得る。

 政府事業の一つとして行えば、行政府の収入の足しになるだろうし。


「バアル美術館の収蔵品を充実させるために巻き上げたいね」

「実に悪魔的な考え方である。尊敬するである」


 どーもあたしが合理的だと思ってる考え方は、バアルにしてみると悪魔的らしい。

 最近あたしも悪魔的って褒め言葉だと思ってるけど。


「さて、バアルを今から解放しまーす。その代わり一つ言うことを聞きなさい」

「条件は何であるか?」

「大したことじゃないよ。まず籠を壊しちゃうね」


 バアルを閉じ込めてあるのは、ペペさんオリジナルの魔法『ロック&デス』の永続効果であるところの籠だ。

 えーと、どうすればいいんだ?

 解除するには術者が解放の意思を持って籠を壊すことって言ってたけど、結構硬いんだよな。

 あっ、そんなことないわ。

 劣化してるみたいにぺりぺり壊れる。

 あたしがバアルを解放するって考えてるからかな?

 籠の破壊とともにバアルが五歳児くらいの標準悪魔サイズになる。


「バアル、大きくなったねえ。見慣れないわ」

「うむ、力が戻ってきたである。心地いいである」

「立派に育って感無量だわ。あんたがこーんなに小さな時から知ってるけれども」

「吾が主が籠に押し込めていたから小さかっただけである」


 うんうん、バアルはよく働いてくれた。

 特に知識面であたしの知らないことを教えてくれた。

 自由にしてあげられてよかった。


「条件は何であろう。吾はどうすればいいであるか?」

「今日は異世界に逆侵攻しまーす」

「うむ、吾も参加せよとのことであるな?」

「簡単に言うとそゆことだね。異世界では『スキルキャンセラ』っていう、先制でかかって全ての魔法・バトルスキルの発動を止めちゃうバトルスキルが普及してるそーな。そこであんたの固有能力が必要なの」

「『抑圧者』の効果であるか」


 『抑圧者』は、敵対する相手のマジックポイントを使う魔法やバトルスキルの使用を禁止する能力だ。

 もちろん異世界『アガルタ』の人とバトルする気なんか、あたしにはない。

 けど何があるかわからんからな。

 魔法やバトルスキルを封じられるのは、取り得る選択肢を狭めるから嫌い。

 対策できるところはしておくのがあたしのやり方だ。

 『抑圧者』の効果に有効範囲はあるが、あたし達が遠くから撃たれたスキルに当たるとは思えんから問題はない。


「危険がないとは約束できない。でも今日一日付き合ってくれれば、明日からバアルは自由だ。どうかな?」

「よくわかったである。これを預けるである」


 ん? 濃紺のプレート?

 ヴィルの赤いプレートと同じで、あたしの感情がバアルのエネルギーとなり、またこちらからバアルに任意に連絡できるやつか。

 これを預けるってことは、契約と同じだってヴィルが言ってたが?


「吾は主を終生の主と思い定めたである」

「バアルは真のうちの子になりたいのか」


 バアルがそーゆー気持ちでいてくれたとは嬉しいなあ。

 あたしもバアルのこと面白い子だと思ってるから。


「吾が主に頼みがあるである」

「何だろ?」

「ぎゅーして欲しいである」

「今まで籠に入ってたからハグできなかったもんな。ぎゅー」


 努めて平静な顔を保とうとしているが、細長く尖った尻尾が気持ち良さげにゆらゆら揺れている。

 可愛いやつめ。

 うちの子ならまたいつでもいくらでもぎゅーしてやるわ。

 クララから声がかかる。


「ユー様、御飯ですよ」

「今行く! よーし、朝御飯だ! パワーの源だ!」

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