第2411話:たくさんの出会いと偶然があって今がある
五人単位で行動か。
四、五人って動かしやすい人数だもんな。
さすがソル君。
十分あり得る。
『アトラスの冒険者』の転移の玉は四人まで同時に転移できる。
どうせ『アガルタ』がホームの、似た仕様の転移の玉を持っているんだろう。
だから何となく四人単位で動くって思っちゃってたけど、さっきの連絡員みたいにソロで動くことを想定しているとすると、おそらく全員が転移の玉を持っている。
『五人』に意味があるとするなら、五人単位で行動すると考えていい。
「ゴーストアイドルの話を振った時に、特に動揺が大きくなったわけじゃなかったな。ライブがあることを知ってたし、今の人はライブ会場を担当なんだと思う」
「男五人だったら怪しまれない、という考えですかね」
「そーかもね。とするとエンジェル所長率いる本隊は?」
「おそらくギルドです」
ソル君もエンジェル所長がギルドの正職員と面識があることは知っているようだ。
こちらの世界が作った新しい転移の玉の行き先の一つがギルドであるという情報が異世界に漏れているなら、当然ギルドは監視対象になる。
そしてギルドに行くのは誰が適任かと考えれば、そりゃ無乳エンジェルだ。
所長が『アトラスの冒険者』事業の終了のために挨拶に来たって言えば、ギルドは疑うことなく通すだろうしな。
しかし……。
「実はエルの持ってる転移の玉では、ギルドに転移できないんだよ。古いタイプだから」
「そうなんですか?」
「えっ? ギルドでエルさんを見たことありますよ?」
「レイカかリリーが一緒に連れてった時だったんじゃないかな。エルにはこの異世界からの侵攻の件が片付いてから、新しい転移の玉を渡すって言ってあるの」
ソル君が知らないくらいなら、異世界の連中はエルが単独でギルドに飛べないことを知ってるわけないだろ。
偶然だけどいい感じのトリックになった。
「エンジェル所長率いる本隊がやはり五人とすると、ギルドに挨拶に行くと称してちょうどいい数だと思いますね」
「確かになー。勝手に思い込みで戦力を分散してろ」
「ユーラシアさんは悪いですねえ」
「悪くないわ。悪いやつってのは、パラキアスさんみたいな陰謀家のことだわ」
パラキアスさんと同類扱いされるのは大いに不満だわ。
「異世界からの人員は二〇名規模って話でしたか? ライブ会場に五人、ギルドに五人となると残りは……」
「指揮官のエンジェル所長がこっちにいないのはやりやすいね。塔の村内の転移先地点に張り込ませるのに五人使うでしょ? あとは遊撃・偵察・連絡担当に五人ってとこじゃないかな」
頷くソル君とアンセリ。
ソル君が言う。
「エルさんと連絡が取れてないんですよ。明日どこにいるかがわかればいいんですけど」
「あっ、明日エルはライブを見に行かず、塔にも潜らず村内でぶらついてるはずだよ。午前中に会ったんだ。そう話してた」
「ありがたい情報です。助かります」
「いやいや、エルの身柄の確保については、あたしがソル君に頼んでるんじゃないか」
「となると戦術は?」
「エルにはとにかく騒げって言ってあるんだ。いくら正門外でライブがあるったって、村内にはそれなりに人が残ってるはずだと。トラブルになれば人が集まってくるじゃん?」
「でしょうね」
「そーなったらソル君の出番だ。騒ぎになっちゃエルの連れ去りはムリだ。一旦引けっていう合図を、異世界人に目で送って」
「時間稼ぎですね?」
「そうそう。強引にエル捕まえて転移ってのだけ防いでくれれば、あとはあたしが何とかするから」
とにかく最悪なのは、あたしが最後の転送魔法陣を使って向こうの世界に行く前にエルが捕まって『アガルタ』に連れ戻され、魔法陣の起動を停止させられてしまうこと。
これやられると何にもできない。
あたしの活躍の場が失われるとゆー、神をも恐れぬ所業だ。
アンが言う。
「ユーラシアさんは明日、異世界を引っ掻き回してくるんだな?」
「そうそう、実はバアルのお宝から出た転送魔法陣でさ。使おうとすると『この転送魔法陣を使う資格を満たしておりません』って言われちゃうの」
「えっ? どうやって使うんだ?」
「バエちゃんに聞いたら、『アトラスの冒険者』だったら使えるそーな。でも転移の玉を持ってると使用制限がかかっちゃうみたい」
「……なるほど、何らかの事情で『アトラスの冒険者』を異世界に呼び寄せることがあるかもしれないから、使えるようにはしておく。でも『アトラスの冒険者』が転移の玉を持たずに転送魔法陣を使うことなど、通常は考えられないから……」
「うまい仕組みだよね。でも今のあたし達には『アトラスの冒険者』と関係ない、デス爺製の転移の玉があるじゃん?」
たくさんの出会いと偶然があって今がある。
だから明日は勝つ!
ソル君が聞いてくる。
「これ異世界が攻めてくるのを待って、向こうに攻め入るのはどうしてなんです?」
「なるたけギリギリまで情報が欲しかったってのは理由の一つだな。それより向こうが何にもしてない段階で攻め込むってのは、無法者みたいじゃない? やられたからやり返すのだっていう姿勢を見せとかないと、未来に交流する望みが小さくなっちゃう」
「ユーラシアさんは、先々異世界と交流したいって考えていたんですか」
「だって優れた技術を持ってる進んだ世界なんだよ? 可能だったら仲良くしたいんだ。難しいけどね」
「ほへー。やっぱりユーラシアさんの考え方は違いますねえ」
「違うんだぬよ?」
ハハッ、ソル君パーティーが感心しとるわ。
もっと尊敬しなさい。
何かの拍子に、向こうの世界の神様が考え方を変えるとか担当を外れるとかもあるかもしれないしな。
可能性は残しておきたい。
「ところでさっきのおっちゃんとはどうして会ってたの? 明日の打ち合わせ?」
「いえ、報酬の前渡しってことでした」
「ああ、明日以降こっち来なくなっちゃうからか。何もらったの?」
「音を記憶できる魔道具だそうで」
音を覚えられるのか。
覚えた音を消せばまた使える?
面白い。
「こーゆーものが世に出るといいね。ソル君達さえよければ、これ帝国の魔道研究所に見せてみない?」
「構いませんけど」
「やたっ! 楽しみが増えた。じゃ、また明日ね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




