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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2410/2453

第2410話:異世界の諜報員

 フイィィーンシュパパパッ。

 昼食後に塔の村にやって来た。

 本日三度目。

 今回はヴィルを連れている。

 ふむ、特に変わった様子はなし、と。


「午後になると塔のダンジョンから戻ってくる冒険者も多くなる。となると今日異世界からの襲撃はなさそーだな。やっぱり明日のゴーストアイドルライブの開催に合わせて来るつもりと決まった」


 よーし、明日は本番だ!

 テンション上がるなー。


「御主人、ソールがいるぬよ?」

「ソル君? ……ほんとだ。よく見つけたね」

「ソールはパワーが強いからわかるだぬ!」

「よし、ヴィル偉い!」


 ぎゅっとしたろ。

 なるほど、村の中心となるところからは死角になる位置だ。

 遠くの建物の陰に隠れるような感じ。

 ソル君アンセリともう一人、知らない中年の小男がいる。

 ははーん、異世界からの連絡員だな?

 あっ、別れ際か。

 逃がさん。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「「「ユーラシアさん!」」」


 即行で駆け寄って挨拶する。

 ソル君パーティーはいいところにって顔してるし、小男は迷惑そう。


「そちらはソル君達の知り合い?」

「というほど親しいわけではないですけど、まあ知り合いみたいなものです」

「ふーん、おっちゃんは塔の村の人じゃないね」

「えっ?」

「着こなしがなかなかオシャレだよ。塔の村みたいな田舎じゃあんまり見られない」

「そ、そうかい?」


 慌てて服をパタパタしてるけど、ふつーのこっちの世界の服装だわ。

 ちょっとからかっただけだわ。

 さて、せっかくだから情報を仕入れておくか。


「その目に入れてるアクセサリーは珍しいね。黒目が大きく見える。ちょっと感心したわ」

「こ、これは……」


 おそらく赤い瞳を誤魔化すためのアイテムだ。

 エルはゴーグルかけてるけど、『アガルタ』にはこんな装飾品があるんだな。

 小男慌て過ぎ。


「あっ、まだ秘密なのかな? 開発中の試作品だったりする?」

「ま、まあそんなとこだ。マネされると面白くないから、黙っててくれよ」

「わかった。あたしも結構いろんなとこ行ってるけど、世界中のどこでもそんなアクセサリーは見たことないよ。完成して量産できるようになったら教えて。絶対売れるから大儲けしよう!」

「お、おう」


 ハハッ、ソワソワしとるわ。

 瞬きの数の多い小男が言う。


「……ユーラシアというと、あの有名な?」

「そうそう、かの有名な美少女聖女精霊使いだよ。よろしくね、にこっ」


 キメ顔で固める。

 何かあたしの笑顔が必殺技みたいな扱いだな。

 どうやら『アトラスの冒険者』本部でも、あたしはかなり有名らしい。

 気分がいいなあ。


 笑いを噛み殺してセリカが聞いてくる。

 遊ぶ気だな?


「ユーラシアさんはこの方、どういう人だと思います?」

「おっと、クイズか。んー商人さんかな?」

「どうして?」

「レベル二〇前後だよね。明らかに戦闘経験のあるレベルと身のこなしだけど、手が奇麗じゃん? 武器を持つ冒険者の手ではないな。魔物を倒すこともある農夫でもない。じゃあ旅商人で、魔物退治に便乗することもある人って考えるとピッタリ。合ってる?」

「ま、まあそんなとこだ」


 異世界からの連絡員だろ。

 わかってるとゆーのに。

 強引に話を変えてくる小男。


「あんたほど名の知れた冒険者がこの小さな村に来たのは?」

「この前西域にドラゴン出ちゃってさあ。巨大魔物が湧きやすい魔力環境になってるかもしれないから、見回ってるんだよ」


 知らんぷりしてドラゴンアピールだ。

 あんたらが送り込んできたことはわかってるからな?

 どんどん追い詰めてくれる。


「おっちゃん、汗ダラダラだねえ。今日すげー暑いもんな。もう少し影に入ろうか」

「お、おう」

「商人さんにしては手ぶらだねえ。どうして? ソル君とは商談じゃなかったんだ?」

「え? ああ、まあ……」

「ははあ、わかったぞ?」

「な、何が?」

「ゴーストアイドル『ヨモツヒラサカ四六』のファンなんでしょ? ズバリデビューライブを見過ごせないから塔の村に来た」


 アンセリちょっとは笑いを堪えろ。

 あんまり愉快そうにしてるからヴィルがそっちに行ったぞ。


「よ、よくわかったな」

「わかるとゆーのに。ちなみにおっちゃんはどの子のファンなの?」

「えっ、いや、あの……箱推しで」

「箱推し?」

「グループ全体のファンって意味だ」

「専門用語キター!」


 ソル君までヒクヒクしだしたぞ?

 あたしももうちょっと楽しみたいから我慢しててよ。

 

「おっちゃんがヨモツヒラサカの大ファンだということは理解した。一人で来たの?」

「いや、五人で」

「そーかー。全員男?」

「そうだ」

「アイドルもいいけど入れ込み過ぎないでよ? 奥さんに怒られるぞ?」

「ほどほどにしておくよ。そろそろいいか?」


 『五人』も『全員男』も極めてナチュラルに出てきた。

 でまかせじゃないな。

 ま、こんなところで解放してやるか。


「おっちゃん旅商人なら、ヨモツヒラサカをあちこちに広めといてよ。ゴーストアイドルなんてメッチャ珍しいからさ。ドーラのキラーコンテンツにしようと思ってるんだ」

「おう、わかったぜ」

「引き止めちゃって悪かったね。お仲間さんにもよろしく」

「ああ、あばよ」


 去っていく小男。

 聞こえなくなっただろう頃合いで指示を出す。


「ヴィル、見つからないように今の人を尾行してくれる?」

「了解だぬ!」


 掻き消えるヴィル。

 実にいい子だな。


「何あれ? 異世界からの連絡員でしょ? わかりやす過ぎるんだけど」

「オレ達に接触してくるのは彼一人なんですよ」

「ふーん。とすると……」


 こっちで諜報活動している者は少ない。

 おそらく人数をかけると悪目立ちするからだろう。

 ひょっとすると今の小男だけかもしれないな。

 では五人というのは……。


「御主人!」

「よーし、ヴィルぎゅー」


 ヴィルが帰ってきた。

 アンセリも含めてぎゅー。


「今の男は、見えなくなったところですぐどこかに転移したぬよ?」

「そーだったか。誰にも接触しないなら、ソロで動いてるのかもな」

「ユーラシアさん。他に何か察したことはありますか?」

「さっきの『五人』も『全員男』ってのも、いい加減に出てきた言葉じゃないよ。連絡員諜報員が五人いるのか、あるいは明日、今の人含めた五人で行動するのかってことだと思う」


 ソル君が考えながら言う。


「五人単位で行動するのかもしれませんね」

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