第2408話:新しいギルドカード
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさん、こんにちはー」
「はいよ。アンタは朝から元気だね」
アトムを連れてアルアさんのパワーカード工房にやって来た。
うちの転送魔法陣からここへ来るのも最後になるだろう。
「お姉さまっ!」
「おおう」
飛びついてきたエルマをぎゅっとする。
ヴィル連れてくればよかったな。
「これを見てください」
「何だろ。カード?」
パワーカードではないな。
やはり手のひらサイズではあるが、パワーカードより一回り大きい。
アルアさんの工房で作るなら、パワーカードの技術を応用した魔道具なんだろう。
おっぱいさんの言ってたアレか?
特徴的な乾いた声で笑うアルアさん。
「かかかっ、新しいギルドカードだよ」
「やっぱそーか。楽しみにしてたんだ」
「このカードはわたしで登録してあるものです。もう他者で上書きできません」
「登録? 上書き?」
何それ?
どゆこと?
今までのギルカはなかったことだよね?
アルアさんが説明してくれる。
「既存のギルドカードも本人じゃないと起動できなかったろう?」
「うん」
「ギルドのフルステータスパネルと連動していたからなのさ。『アトラスの冒険者』となって二、三クエストをこなしギルドまで到達すると、フルステータスパネルでの本人確認作業があるだろう? あの際に登録される」
「へー」
何となくそんな気はしてたけど。
多分『アトラスの冒険者』は本人確認作業で登録すると、ギルドカードを通して各冒険者の個人データを取得できるんじゃないかな。
おっぱいさんの持つ端末では各メンバーの推定レベルまでしかわかんないみたいだけど、本部ではキッチリバッチリわかってると思う。
『アガルタ』の技術はすごい。
いよいよ技術者が欲しくなるな。
「新型のギルドカードはフルステータスパネルと連動しないんだ」
「うんうん、わかるわかる」
「個々で登録作業をするんですよ。これは誰も登録していない新しいものなんですけど……」
「ふむふむ、起動すると登録画面が出るのか」
「あとはフルステータスパネルでの本人確認作業と同じさね。数秒掌を当てると登録が終了する」
「例えば手のない人だったりすると?」
「顔でも尻でも好きなところに当てりゃいいよ」
何となくモイワチャッカの隻腕傭兵隊長カムイさんのことが思い浮かぶ。
パワーカード装備なら、手くらいなくても冒険者としてやっていけることを確認させられたからかな。
「それでですね。わたしの新ギルカを起動しますと……」
「画面は今までのギルカと大して変わらないな」
「わかりにくいのも慣れてないのもよくないだろう? 使い勝手を合わせたのさ」
「助かるなー」
「お姉さま、パネル部分に触ってください」
「ぺたっと」
おおう、ちゃんとレベル一五〇って出る!
今までのギルカはレベル九九までしか表示されなかったのにな。
「本当だ、固有能力まで表示される」
おっぱいさんに聞いてた通りだ。
こりゃ便利になったな。
もっとも初めて出会う固有能力は名前だけわかってても意味ないから、鑑定士の重要性が失われるわけじゃないけど。
「お姉さまの持ち固有能力の数が七つと聞きましたので、七つまで表示できるようにしたんですよ」
「アンタ、これ以上固有能力を増やさないでおくれよ。表示数を多く設定すると余計なコストがかかっちまうんだ」
「ええ? 何それ。理不尽だな」
あたしも持ち固有能力の増減なんてわかんないんだけど。
「今までのような連携は利かないけどねえ」
「いやいや、十分だよ」
今までの転移の玉が使えなくなるのだ。
どっちみち連携して転移するのは不可能になる。
その分八名まで同行して転移可だから、ほぼ機能は補えるんじゃないかな。
「満足しました。お肉お土産でーす。エルマにもね」
「いつもすまないね」
「ありがとうございます!」
「素材を換金していくかい?」
「お願いしまーす」
残り交換ポイントは五五八八か。
最近来てなかったからな。
しかし随分交換ポイントが貯まったもんだ。
「今月分の『ウォームプレート』と『クールプレート』ができてるよ」
「もらっていきまーす」
代金支払いっと。
エルマがおずおずと言う。
「お姉さま、明日何かあるようなことを、ソールさんからチラッと聞いたのですけれども」
「エルマのアンテナは敏感だね。明日で『アトラスの冒険者』は廃業になる可能性が高いんだ」
「そうなのかい?」
「塔の村の精霊使いエルを取り戻しに、異世界人が攻めてくるのが明日なんだ。その関係で」
ぎこちなく頷くアルアさんとエルマ。
「わたしにできることはありませんか?」
「大人しくしていることだな」
「えっ?」
「転送魔法陣を遠隔で設置するとか、わけわからんじゃん? 異世界が持ってる技術はすごいんだよね。綿密に計画立てて来られると分が悪い、ってゆーか多分勝てない。明日二二日に攻めてくるのは、これでイケるだろくらいの舐めた作戦だと思うんだ。そこで決着つけちゃう」
「ど、どうやってです?」
「あたしが『アトラスの冒険者』本部のある世界に逆侵攻して暴れてくる」
「えっ? 逆侵攻が可能なんですか?」
「可能だね。実は向こうの世界に飛べる特殊な転送魔法陣があるんだ。一回も使ったことないけどね」
目を見開くアルアさんとエルマ。
バアルから手に入れたお宝の『地図の石板』で、ほこら守りの村のマーシャが最後の魔法陣と断じたものだ。
「あたしが向こうの世界に到達して活躍するとおそらく、転送魔法陣を止めろ、危険な亜空間超越移動なんか使うなって議論が高まるでしょ? 即『アトラスの冒険者』は廃止になるんじゃないかと思うんだ」
「お姉さまにはそういう目論見があったんですね」
「逆侵攻する前に異世界に警戒されて転送魔法陣を止められると、こっちからは何にもアクション起こせないんだ。ただエルを守るためだけの戦いになっちゃう。そんなのはひっじょーにつまらんので、向こうに気取られないためにも大人しくしててってことだよ」
「よくわかりました!」
「もちろん今言ったことは内緒だぞ?」
この件に関して、アルアさんやエルマはかなり関心があったようだから伝えておきたかったのだ。
Xデーが明日なら情報漏れもさほど心配あるまい。
「じゃ、さよーならー」
転移の玉を起動して帰宅する。




