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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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2407/2453

第2407話:聖女のピュアハート

 ――――――――――三五五日目。


「じゃ、ヴィルはあちこちパトロールお願いね。何かあったら連絡ちょうだい」

「わかったぬ!」


 晴れた。

 今日は異世界から無乳エンジェルが攻めてくる一日前だ。

 あえて予定は入れていないが、ちょこちょこ塔の村は見に行く予定。

 この前の西域にドラゴンを転移させてくるみたいな、ふざけた陽動をしてくるとすると今日だろう。


 また明日二二日に攻めるということがこっちの世界にバレてると考えるなら、一日前の今日に急襲してくることもないではない。

 一応ヴィルをパトロールに回し、警戒させておく。


「まず今から塔の村見てきて、帰ってきたらアルアさんとこ行って素材の換金をしまーす。そうすると大体エルの早お昼の時間だから、エルとコンタクトを取りまーす」

「お昼はどうしますか?」

「塔の村の食堂は混んじゃうと思うから帰ってくるよ。うちで食べよう。午後は魔境とぴー子のエサやりを挟んで、二回くらい塔の村のチェックかな」

「オーケーね」

「いよいよ『アトラスの冒険者』も終わりでやすねえ」

「すこーし寂しいねえ」


 ほんとはすごく寂しい。

 『アトラスの冒険者』はかけがえのないものだったから。

 美少女精霊使いのセンチメンタルモーニング。

 どーもモーニングって響き自体にやる気が満ちているから(個人の感想です)、センチメンタルと相性が悪いな。


「じゃ、行ってくる!」


          ◇


 フイィィーンシュパパパッ。


「おおう、ザワザワしてるな」


 塔の村にやって来た。

 ゴーストアイドルの初ライブが明日に迫っているからか、慌しい雰囲気だ。

 昨日が雨だったので、準備も遅れてるんだろうな。

 頑張れ、ゴーストアイドルはドーラの観光資源として極めて有望だから。


「じっちゃん」

「お? おお、ユーラシアではないか」

「何その意外そうな声は」

「お主がコソッと話しかけてくることなど滅多にないからじゃ。緊急事態か?」

「いや、特には」

「ヴィルはどうしたのじゃ?」

「明日がイベントの当日でしょ? この前みたいにドラゴン送りつけてくるなんてことはないにしても、何かしてくるかもしれないじゃん。パトロールに出してあるの。事件が起きれば急行する」

「うむ、そうじゃったか」


 忙しそうなのに、デス爺はこの前より顔色良さそう。

 考えてみりゃゴーストアイドルライブとドラゴン転移みたいな突発イベントは相性が悪いな。

 混乱してライブが中止になったりしたら、『アガルタ』の侵攻軍だって予定が立たなくなるんじゃないか?

 なら今日は何事もなく過ぎ、全ては明日ということになりそうではある。

 

「お主は塔の村に用じゃったか?」

「特に用というわけでもないんだけどさ。あたしだったら明日攻めるぞーって種蒔いといて、実は今日攻めるってこと考えるだろうなって思ったから。今日は大きな予定入れてないんだ。何度か様子見に来るよ」

「お主は偉いの」

「あれ? じっちゃんに褒められると不安になるぞ?」

「いつも褒められるようなことをしておらぬからじゃ」


 そんなことないわ。

 どこに出しても恥じることのない聖女だわ。


「ゴーストアイドルのライブってどこでやるの?」

「正門の前じゃぞ」

「あっ、村の外だったのか」

「滅多にない催しごとじゃからの。最も人が集まれるのは正門前なのじゃ」

「それもそーだ。……エルは明日どうするつもりなのかな? じっちゃん聞いてる?」

「聞いておらん。しかしパーティーメンバーの精霊は人ごみを嫌うから、いつも通り塔に潜るのではないか?」

「確認しとかなきゃならんな。ライブは何時から?」

「朝一〇時からじゃ」

「んー? 難しい時間だぞ?」


 エルの早お昼の時間と被るのか。

 ライブに夢中になってる人が多いと、エルの周りに人がいなくなる。

 危険だな。

 これも要打ち合わせと。


「コモに聞いたが、ライブの日が明日になったのはゴーストの要求だそうじゃ。なるべく早くとのことで二二日になったと」

「異世界がライブを行う日にまで干渉したってのは穿ち過ぎだったか」


 まさかゴーストアイドル達のことを把握してて、侵攻当日にライブを行うことを決めさせたとは思えん。

 大体ゴーストが対価に何を要求するとゆーのだ。

 多分塔の村を偵察しててたまたまライブの日を知ったから、これ幸いと侵攻決行日を合わせたんだろうな。

 デス爺が言う。


「お主、今日は大人しいではないか」

「わかる? 『アトラスの冒険者』がなくなっちゃうと思うと、聖女のピュアハートがセンチメンタル紙吹雪なんだよ」

「後継の新組織を作ったのじゃろう?」

「まー作ったんだけど、あくまでドーラの治安上の都合と、『アトラスの冒険者』のメンバーや職員の受け皿って意味合いなんだよね。今までみたいに、わけのわからんクエストをいきなり配られることがなくなるじゃん? エンターテインメント的に、こう……」

「単なる我が儘じゃったか」


 センチメンタルだと言っておろーが。


「で、その後継組織に関してだけどさ。エルを連れ去りに来るのが『アトラスの冒険者』本部だとバレると、『アトラスの冒険者』自体の信頼性がなくなる。後継組織も『アトラスの冒険者』の名を使う以上、今後のドーラの運営に支障を来たすかもというパラキアスさんの指摘でーす」

「何じゃと!」

「揉めないように頑張って」


 デス爺の顔色が変わる。

 あれ? 丸投げするとかわいそーかな?

 忙しそうだしな。


「異世界人はこっちの世界にない技術や知識を持ってる人達じゃん? 可能なら全員とっ捕まえて仲間にしたい」

「基本的にメキス殿の工作部隊と同じ扱いじゃな?」

「うん。あの時はリリーが許すから降参しろって言えばすんじゃったけど、今回は親子の葛藤とかありそーじゃん? 異世界人は隙あらば逃げ帰ろうとするだろうし」

「ではどうする?」

「全員逃げ帰っちゃったならどうにでも誤魔化せるから、構わないってばよ。問題は侵攻部隊の人員を捕まえた場合だよね。捕虜の話聞いて、情報オープンでいいんじゃないかな。あたしも推測でしか知らん部分があるんだけど、多分お涙ちょうだいの経緯なんだ。変に隠さなきゃ受け入れられると思う」


 物事は隠すと拗れるのだ。

 面白く脚色して広めりゃいい。

 人はエンタメに飢えてるから。


「一旦帰るわ。エルが出かける前くらいにまた来るよ」

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